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サービス紹介に何が足りない?クロージングに効く情報設計のすすめ

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プロフィールアイコン(イラスト):マーケター 田代
田代セールス&マーケティンググループ/マーケター(ビジネス・アーキテクツ)

広告代理店にてマンションデベロッパー、人材派遣の広告・マーケティング業務に携わった後、システム開発会社にて製薬会社や生命保険会社のマーケティング支援に従事。エンドユーザーに対してWebやメールを活用してのコミュニケーションの運用、改善、最適化などを中心に業務を担当。直近ではオウンドメディアの編集長として自社への引き合いを増やす役割を担った。

自社のサービス紹介ページを見ていて、「情報は一通り揃っているはずのに、なぜか問い合わせにつながらない…」と感じる方も多いのではないでしょうか。

特徴や機能、導入事例、比較表──どれも丁寧に整えている。
にもかかわらず、アクセスデータを見てみると、思ったほど深く読まれずに離脱していたり、同じ人が何度も訪れては離脱していたりするケースが少なくありません。

SEOの問題を除けば、ページ構成や情報量ではなく、「検討の進み具合に対して欲しい情報が合っていない」可能性があります。

営業担当者に話を聞いても、自分の経験を振り返っても、商談の後半になるほど「契約条件は?」「データの管理体制は?」「導入後のサポートは?」といった、より具体的な質問をしたくなることがありました。こうした“検討が深まった段階”で知りたい情報がWeb上に用意されていないと、ユーザーは最終的な判断ができずに離脱してしまうのではないでしょうか?

本記事では、そうした検討終盤の疑問に応えるための情報設計の考え方を整理します。どんな内容を、どこまでWebで見せるべきか──そして、既存のコンテンツをどう活かせるのか。自社サイトの「伝わらない理由」を見直すヒントを考えていきましょう。

サービス紹介に何が足りない?クロージングに効く情報設計のすすめ

よくあるサービス紹介ページの構成と、その限界

Webサイトにおける多くのサービス紹介ページでは、「特徴」「機能」「比較」「導入事例」「料金」「お問い合わせ」といった構成で整理されています。「BtoBサイトの情報設計」とGoogle検索をしてみても、そのように整理しましょうと書かれた記事が多く見つかります。

一見、整っていて分かりやすい。しかし、言い換えれば「初めて訪れた人が、そのサービスを短時間で理解できる」ことを目的にした構成とも言えるでしょう。

少し踏み込むと、この形は検討の「最初の一歩」、つまり検討の初期段階では効果的でも、実際の購買プロセス全体を支えるには情報が偏ってしまいがちです。サービスに初めて触れた段階では、「どんなことができるか」「自社に合いそうか」を知ることが主目的です。しかし検討が進み、導入に近づくほど、ユーザーが求める情報の粒度や関心は大きく変化していきます。

それにもかかわらず、ページ構成が検討の初期段階向けのままで止まっているケースは少なくありません。導入後の運用イメージやリスク、契約上の制約など、検討が深まった段階で必要となる情報が抜けてしまっているのです。

特に、営業担当者がつかず、Webで完結するタイプの商材では致命的です。営業がつけばフォローできる部分も、Webサイトだけではフォローできません。

多くの場合、その背景には「想定したペルソナ像」を起点にした設計があります。購買プロセスが単線的に進むことを前提にしてしまうことで、実際にはさまざまな立場・タイミングで訪れるユーザーの行動や関心の幅を拾いきれていないのです。

自社サイトの構造も多くの場合、「入り口としての整理」には強くても、「決断を支える設計」が弱い。この「購買プロセスの一部しか支えられていない構造」こそ、成果につながりにくい原因なのかもしれません。

アクセスデータから見える「繰り返し訪問ユーザー」の存在

アクセスデータを見てみると、ページの「読まれ方」に一定の傾向があることに気づきます。想定より深い階層まで読まれずに離脱しているケースもあれば、同じ人が何度も同じページを訪れているように見えるケースも少なくありません。

一度見て離脱するのではなく、期間をあけて何度も訪問しているということは、検討意欲がある証拠です。にもかかわらず、問い合わせや資料請求につながらないのは、訪問のたびに得られる情報が変わらないからではないでしょうか。

たとえば初回訪問時には、サービスの概要や特長が理解できて満足しても、次の段階では「もう少し詳しいことを知りたい」「導入後のイメージをつかみたい」といった別のニーズが生まれます。しかし、サイト側ではその変化に対応できないので、ユーザーは「次に進むための答えがない」と感じ、再び離脱してしまうと。

実際、当社のオウンドメディア「BAsixs」でも似た動きが見られます。
ある企業からのお問い合わせ前後の行動履歴を分析すると、とある情報の記事を何度も繰り返し閲覧していたことが分かりました。初回訪問から数日をおいて再訪し、同じ記事を何度もチェックしたうえでお問い合わせに至りました。その後も同じ記事を繰り返し読んでくださっていたのです。

行動履歴イメージ:ある企業のユーザーが初回訪問から問い合わせ送信までに辿った行動履歴を示す図。9月1日の初回訪問でサービス紹介記事を閲覧し、9月2日の再訪では問い合わせページや関連サービス・診断記事を読む。その後、9月11日に3度目の訪問で再び同じ記事を閲覧し、内容確認後に問い合わせフォームから送信している。送信後も9月14日に事例記事を複数閲覧しており、同一記事を繰り返し読む行動が確認できる、という分析内容がまとめられている。

BAsixsはサービスサイトではないため、関連情報をまとめて閲覧しづらい構造でした。それでも同じ記事を繰り返し読まれていたということは、検討が進むほどに「より深い理解や判断材料」を求めていたことの表れではないかなと考えます。

こうした行動パターンは、アクセス解析上では「回遊率が低い」「再訪問後も直帰している」として現れてしまいます。一見悪い傾向に見えますが、少し視点を変えれば、「関心を持っているのに決め手を欠いている」ユーザーのサインかもしれません。コンテンツ構成が検討段階の変化に追いついていないのだとすると、情報設計の課題が実際のビジネス機会損失につながっているとも言えるでしょう。

ユーザーの行動データは、単なる数値ではなく、コンテンツが「どのフェーズのニーズに応えられていないか」を示すヒントです。購買プロセスのどこで情報が途切れているのかを可視化することで、次に補うべきテーマや切り口が見えてきます。

営業担当が現場で受けている生の質問とは?

検討が進むほど、ユーザーが知りたい情報はどんどん具体的になります。それを最も実感しているのは、日々お客様と向き合う営業担当者です。

営業担当に話を聞くと、商談の終盤では「契約条件は?」「解約時の費用は?計算方法は?」「請求のタイミングは?」といった実務的な質問が増えるといいます。さらに「データはどこに保存されるのか」「セキュリティや法務面は問題ないか」「導入後のサポートはどこまで対応してもらえるのか」など、稟議書や上申資料に書かざるを得ない内容が並びます。

こうした終盤で出てくる疑問は、サービスへの関心を前提としたうえで、社内を説得するために必要な情報です。このような検討後半の理解段階を、「後期理解」 と呼んでいます。ユーザーはすでに比較検討ではなく、「社内決裁を通すための材料集め」「数社に絞り込んだうえでふるいにかける情報集め」の段階に入っているのです。

問題は、こうした情報がWebサイト上ではあまり整理されていないことです。多くのサービス紹介ページは「初期理解」を想定したまま止まっており、検討が深まった段階で必要になる情報が不足しがちです。特に、営業担当者がつかず、Webだけで完結するタイプの商材やサービスでは、ここが致命的になりかねません。営業担当者がいればフォローできるはずの質問が、Web上では答えられないままになっているからです。

営業の現場にあるこうした質問こそ、Webコンテンツ企画における最大のヒントです。ペルソナの仮定や一般論ではなく、実際にユーザーがどんな不安や確認事項を抱えているのか。詰めの段階のリアルな情報を拾い上げることこそが、後期理解を支える第一歩です。

生の声のイメージ:さまざまな肌色の手が、色や形の異なる吹き出しを持って輪をつくっているイラスト。多様な人々から具体的な質問や声が集まっているイメージを表現している。

「全部公開したら競合に見られる」懸念への対応

クライアントとWebコンテンツの話をしていると、よく聞くのが「そこまで詳しく書いたら競合に見られて真似されてしまう」という懸念の声です。このご意見を聞くことがとても多いです。よく聞きます。確かに、契約条件やサポート範囲などの具体的な情報は、他社にとってもヒントになりかねません。慎重になるのは当然です。

しかし、ここで考えたいのは、「公開する・しない」という二択ではなく、「どこまで、どのように見せるかを設計する」という発想です。すべてをフルオープンにしなくても、段階的に情報を提供する仕組みはつくれるのではないでしょうか?

たとえば、サイト上では概要や方向性を示し、詳細な仕様や事例の裏側は資料請求入力後にPDFで提供する。あるいは、問い合わせ後の自動返信メールやステップメールの中で、検討後半に必要な情報を順番に届ける。こうした『公開範囲をコントロールする設計』によって、競合リスクを避けつつユーザーの理解を深めることができます。

営業担当がつかないWeb完結型の商材でも、メールやチャットを通じて情報を段階的に開示することで、営業的なフォローをシステムで再現することができます。むしろ、こうした仕組みを整えておくことで、問い合わせ前の不安を解消し、早期の意思決定を促せるようになります。

「出すと真似される」から「出さない」のではなく、「見せ方を設計して伝える」。
情報公開の線引きを守るためのルールではなく、伝わるためのデザインとして捉えることで、コンテンツの可能性はぐっと広がります。

インタビュー記事を“初期用”と“後期用”に分けて活用する方法

企業のWebサイトでよく読まれるコンテンツのひとつが「導入事例などのインタビュー記事」です。

製品やサービスの効果を伝えるうえで非常に有効ですが、多くの場合は初期段階の理解に向けた内容で止まっています。成果や感想を中心にした「サクセスストーリー」として構成されており、検討のきっかけづくりには適しています。しかし、導入を決断する後半フェーズでは、どうしても少し物足りなさを感じてしまうのです。

同じインタビューを素材として、見せ方を工夫することで「初期用」と「後期用」の両方に活かすことはできないでしょうか。

初期向けの構成では、サービス導入による変化や成果をポジティブに伝える。いっそのこと夢を広げまくりましょう。一方、後期向けでは、導入時に苦労した点や、その会社特有の事情や社内調整のプロセス、運用開始後の改善サイクルなど、よりリアルで生々しい体験に触れていく。そんな構造とすることで、ユーザーは理想よりもむしろ“どう乗り越えたか”の部分も含めて、製品やサービス、ひいては会社への信頼につなげられるのではないでしょうか。

欧米の企業、たとえばSalesforce社やAdobe社などの商材の営業を受けたとき、この『夢と現実の切り分け』の巧みさに驚かされました。上手というより、もはや芸術的に巧みなんです。初期段階ではビジョンや成功のイメージを徹底的に語り、商談の終盤では導入プロセスや失敗からの学びをオープンに共有する。どちらも同じ顧客事例でありながら、初期理解用と後期理解用とに分けて再編集する発想があるのです。

このように、1回の取材から複数のフェーズに対応する記事を設計することで、制作コストを増やさずに購買プロセス全体を支えるコンテンツ運用が可能になります。事例を「成果を語るコンテンツ」から、「判断を支えるコンテンツ」へ。見せ方を少し変えるだけで、同じ素材の価値を、何倍にも高められるのではないでしょうか。

コンテンツイメージ:流入経路や訪問回数に応じて、ユーザーの理解段階を Anonymous、MCL、MEL の3層に分け、それぞれで適切に配置するべきコンテンツを示した図。上部のランディングからサービス体験ページやサービス説明ページを経て、初期理解向け記事・特長説明・レポートなどの Anonymous 層コンテンツへ進む。さらに MCL では選び方のポイント、制度概要、利用者の声、後期理解用インタビューなど、理解が深まる段階のコンテンツが並び、最後に MEL では制度詳細、FAQ、詳細レポートなど、導入検討の最終段階で必要となる情報が配置され、最終的に初期レスポンスにつながる流れを可視化している。

まとめ:検討の「前」と「後」をつなぐ情報設計へ

サービス紹介ページは、どうしても初期検討者向けの情報に偏りがちです。その結果、興味を持ったユーザーが次に知りたい契約や運用、サポートなどの後半フェーズの情報が不足し、判断に至らないまま離脱してしまうケースが多く見られます。

今回見てきたように、アクセスデータにはそうした「関心はあるのに決め手を欠いている」行動がはっきりと表れています。営業の現場では、商談の後半で必ず出てくる質問があり、それこそが「後期理解」にあたる部分です。こうした情報をWebで補うことで、担当者が安心して最終判断を下せる環境をつくることができます。

その際に重要なのは、「すべてを公開すること」ではなく、「どこまで、どのように伝えるか」をデザインすること。公開範囲を工夫したり、メール配信や資料ダウンロードを組み合わせたりすることで、情報を段階的に届けられます。

また、事例インタビューのような既存コンテンツも、見せ方を少し変えるだけで「初期理解」と「後期理解」の両方に活かすことができます。『一つの素材を購買フェーズごとに再編集し、ユーザーの検討プロセス全体を支える』そんな発想こそが、これからのBtoBサイトに求められている視点です。

情報は揃っているのに、成果が出ない。
その原因は「情報」ではなく、「伝わるデザイン設計」にあるのかもしれません。
自社サイトを見直すときは、ぜひこの視点を思い出してみてください。