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情報設計2.0「AI時代の羅針盤」― 7人の開拓者が描く、未来の設計図

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BAsixs編集部

日々の業務の中で「あたりまえ」をアップデートできた取り組みを発信しています。

デザイナー、ディレクター、プロジェクトマネージャーなど、異なる職種の7名が参加する情報設計分科会。AI時代の情報設計をテーマに、変化の激しい今何を学び、どう実践していくのか、その対話の記録をお届けします。

Business Architects(ビジネス・アーキテクツ、以下BA)では、社内のナレッジ共有とスキル向上を目的に「情報設計分科会」を定期的に実施しています。普遍的な価値を持つ一方で、時代に応じた進化も求められる情報設計。生成AIの台頭により、その役割は改めて注目を集めています。

本記事では、分科会での議論をもとに、7名のメンバーが考えている「情報設計の現在地」と「これからのあり方」に迫ります。

情報設計2.0「AI時代の羅針盤」― 7人の開拓者が描く、未来の設計図

インタビューした人

プロフィールアイコン(イラスト):ディレクター 富本
富本セールス&マーケティンググループ/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

地元・愛知の印刷会社や広告会社にてディレクター・フロントエンドエンジニアとしてWeb制作に携わる。2014年頃、フロントエンドエンジニアとしてBAに入社。現在、自社コーポレートサイトやオウンドメディアのマーケティングに携わっている。また、長期にわたりウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のWG4への参加も。好きなキャラクターはリラックマ。

インタビューを受けた人

  • プロフィールアイコン(写真):ディレクター 森住
    森住アカウント&ディレクショングループ/グループリーダー/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

    2003年よりビジネス・アーキテクツに参加。大規模サイトのフロントエンド実装で多くの実績を積む。2008年からは実装者として稼働する傍ら、フロントエンドディレクターとして大企業向けのコーポレートサイト、サービスサイトの実装要件定義、実装ガイドライン策定、アクセシビシティガイドライン策定など、プロジェクト初期段階から運用設計まで、フロントエンド領域の設計業務に携わる。2016年には、業種業態や規模の異なる複数のサイトを運用するための専任組織リテンション・デザイン部を立ち上げ、部長としてワークフロー策定からプロジェクト管理、組織マネジメント全般を担当。2017年より大手ICT企業のオンサイトチームに参加。サイト運用業務からオウンドメディア構築やイントラサイト構築・運用をディレクション。技術とトレンドの観点から提案し続けている。

  • プロフィールアイコン(イラスト):シニアディレクター、Web解析士 齊藤
    齊藤アカウント&ディレクショングループ/リーダー/シニアディレクター、Web解析士(ビジネス・アーキテクツ)

    Web業界20年。デザイン、コーディング等を経験し、現在は金融系のUI/UX開発のディレクターを担当。NISAやiDeCoの利用で初めて投資をおこなうエンドユーザーにもわかりやすく目的の行動がどれるような情報設計をめざして日々取り組んでおります。

  • プロフィールアイコン(イラスト):ディレクター 佐藤
    佐藤アカウント&ディレクショングループ/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

    2018年にBA入社。現在はアカウント&ディレクショングループに所属しWebディレクターとして運用に携わっている。

  • プロフィールアイコン(イラスト):ディレクター 廣川
    廣川アカウント&ディレクショングループ/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

    営業職を経験し2024年にビジネス・アーキテクツに入社。現在はディレクターとしてリニューアル案件や運用案件を担当している。

  • プロフィールアイコン(イラスト):デザイナー 松森
    松森クリエイティブグループ/デザイナー(ビジネス・アーキテクツ)

    新卒から数々のデザイン制作会社を経て大手企業や中小企業の広告、パッケージ、SPのグラフィックデザインを担当。 2021年にBAに入社。グラフィックの経験をもとに現在はWEBデザインに努めている。

  • プロフィールアイコン(写真):デザイナー 廣瀬 麻由
    廣瀬 麻由クリエイティブグループ/デザイナー(ビジネス・アーキテクツ)

    旅行代理店で10年間勤務したのち、2022年からWeb制作会社でデザイナーとして勤務。コーポレートサイトやLPなどのデザイン制作、サイトの更新業務、ディレクション業務等を担当。2023年にビジネス・アーキテクツに入社し、金融、SaaS系サービスのUI/UX改善、コーポレートサイト構築、オウンドメディア(BAsixs)記事の素材作成などを担当している。

  • プロフィールアイコン(イラスト):デザイナー 桑田
    桑田クリエイティブグループ/デザイナー(ビジネス・アーキテクツ)

    新卒で金融系会社に入社し、自社の販促PRやWeb/紙の広告媒体制作管理を約4年間経験。デザイナーに転身後、広告代理店にて小規模Webサイト制作や更新業務、DTP制作業務を担当。2024年にBAに入社し、グローバルサイトなど複数Web案件のデザイン業務に携わる。

なぜ今、情報設計を学び直すのか

そもそも、なぜ情報設計分科会を設立したのでしょうか?

森住:定期的に参加者がオンライン上で集まり、教本にしている『IAシンキング※』を読み進めながら現場にすぐに活かせる実践の知識を習得する。それがこの情報設計分科会の大きな目的です。

プロジェクトに取り組む全員が情報設計の重要性を理解し、共通言語として扱えるようにすること。それが最終的にはクライアントへの価値提供にも直結すると考えています。

分科会リーダーの森住が笑顔で話す様子

※坂本 貴史. 『IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術』. ワークスコーポレーション, 2011, 224p

いつ頃から活動されているのでしょうか。

森住:情報設計分科会は2024年から始まり、今年で2年目になります。多くの分科会が立ちあがる中、この分科会が人気を集める理由は「情報設計が普遍的なテーマだから」です。

情報設計は、ディレクターやデザイナーといったような職種を問わず、誰もが日常的に関わる領域です。しかし、実務では往々にして“暗黙知”に頼りがちで、経験則でなんとなくやっている状態に陥りやすいところです。

そうすると属人化が進み、チーム間での認識にズレが生じやすくなります。そこでこのような分科会という場を設け、BA全体で目線を合わせていくことをしています。

情報設計の「現在地」

分科会に参加する中で、情報設計の重要性をどのように感じましたか?

桑田:BAのプロジェクトは大規模なクライアントが多く、扱うコンテンツの量も膨大です。そういった多くのユーザーが訪れるサイトでは、アクセスする理由や目的も人それぞれです。

そんな状況でも「ユーザーが欲しい情報にスムーズにたどり着く」ようにするのが情報設計であり、サイト利用体験の良し悪しを大きく左右する重要な要素だと感じます。

松森:私も、情報設計には「ユーザーのための地図」という役割があると考えています。情報の道筋が明確であれば、ユーザーは迷わず目的に到達できる。しかし、情報が整理されていないと、ユーザーは方向を見失い、不安やストレスを感じてしまいます。

情報の整理が不十分だとユーザーは離脱してしまいますね。

桑田:はい。情報設計は単なるナビゲーション設計ではなく、「サイトの成否を決める基盤」だと考えています。

普段はあまり目立たずに、経験則でなんとなくやってしまいがちな部分ですが、分科会を通じて改めて「体系的に整理することの大切さ」を痛感しました。

森住:情報設計が軽視されやすい理由のひとつに「成果が見えにくい」ことがあります。デザインやコピーはビジュアルとしても分かりやすいので、すぐに評価されますが、情報設計は効果が数字として現れるまでに時間がかかります。

しかし、目に見えにくいけれど、情報設計はサイト制作において欠かせない基盤ですね。分科会を通じて「情報設計が持つ本当の力」を再認識しました。

実際のプロジェクトで情報設計の重要性を感じた瞬間はありますか?

廣瀬:私が関わったサイトリニューアルのプロジェクトでは、情報が整理されないままページが増え続けた結果、情報が重複していたり、古いまま残っている状況でした。

サイトリニューアルにあたり、まずはサイト内のコンテンツを洗い出し、ユーザー視点で情報の優先順位を整理しました。そして、どの情報を残し、どれを削除・統合するかを検討しながら、サイト構造を再設計することが情報設計の大事な役割だと感じました。

廣瀬(デザイナー)が話す様子

齊藤:私が常駐している金融系のプロジェクトでは、取引画面などで情報量が多く複雑になりやすいです。そのため、ユーザーが迷わず目的にたどり着けるかどうかは情報の整理にかかっています。

もしユーザーが意図した行動をとれずに離脱すると、取引機会や売上の損失にも直結してしまう。特に金融サービスでは、一瞬の迷いが売上や信用に直結する場面も少なくありません。

だからこそ、情報設計は単なる設計作業ではなく、事業の成果に直結するファクターとして捉える必要があります。

齊藤(PM/ディレクター)が話す様子

プロジェクトのクライアントやチームメンバーにとって、情報設計はどのような意味があると思いますか?

齊藤:情報設計がしっかりできていると、プロジェクト全体の「認識合わせ」もスムーズになると感じます。

プロジェクトには、起案部署、システム開発部門、UXを担うチームなど、異なる立場と意見が集まります。そんな議論を収束させていくための意思決定をサポートする側面もあると思います。

佐藤:情報設計は異なる意見や立場の人たちに伝わるように翻訳と整理を行い、共通認識へまとめあげる役割を担っていますよね。

プロジェクト全体の目線を合わせるという点でも情報設計は欠かせないのですね。

廣川:私の携わっている大規模なサイトリニューアルのプロジェクトでも「ステークホルダー間の要望の違い」が課題でした。部署ごとに「自分たちのページはこうしたい」という意見が出て、全体を見渡した時にバランスがとれなくなってしまう。

そんな時、情報設計したものに沿って合意形成を進めていくことで、サイト全体の統一感を担保しながら、チームとしても納得感があるアウトプットができました。情報設計が「対話の場」を生み出す側面もあると感じましたね。

廣川(ディレクター)が話す様子

分科会の演習から得たリアルな気づき

分科会では、演習を通じて実践的に学ぶ取り組みも行ったと伺いました。そこからどのような気づきがありましたか?

桑田:「料理本の掲載メニューをどう分類するか」という演習が印象的でした。実際のレシピ本の目次を思い浮かべて、さまざまなジャンルのレシピをどんな切り口で並べるかを考えたのですが、「和食」「洋食」「中華」といった表層的なカテゴリなら簡単に分けられます。

でも実際に利用者がレシピを探す時には、「時短レシピ」「おもてなし料理」「お弁当用」といった目的や欲求に基づく分類のほうが役立つことが多いように思います。

つまり、ユーザーの利用状況や前提条件を理解していないと、本当に使える情報設計にはならないということを痛感しました。

「料理本の掲載メニュー分類」演習で使用したレシピの例の資料:『定番メニュー』『ガッツリ系』『栄養バランス重視』『特別な日』といったシーンごとに、見出し、分類、レシピの概要が4案記載されている。

Webサイトではなく「料理本」という題材がおもしろいですね。

廣瀬:私が印象に残っているのは「パンくずリスト」の演習です。演習前に私がイメージしていたパンくずリストの役割は、自分が遷移してきたページを経路として示し、上の階層へ戻るために使用するものと考えていました。

しかし実際の演習で分かったのは、目的ページまでのルートが複数あっても表示されるパンくずは1種類であるサイトがほとんどだということです。

これを学んだことでパンくずリストは、目的ページまでの主導線となる階層を意図的に明示して位置情報を示してあげるものということが理解できました。

無印良品ネットストアの「カレーの商品を見る場合」のパンくずリスト例。『TOP>食品>カレー>レトルトカレー』のように階層を示し、複数の遷移ルートがあっても表示されるパンくずは1種類であることを示した図

スライド資料内の出典 :

松森:演習を重ねていくうちに、「こんな情報設計があるのか」と気づかされる場面が多かったです。一方で、「こうすればもっと使いやすくなるのに」と感じることも多く、ユーザーの立場になって考えることの大切さを実感しました。

日常の業務でも、レビューをする時に「この導線は迷わせないか」「この情報の順序は自然か」と自分に問い直す習慣が身についたと思います。

分科会で得た学びの中で、今後の業務に活かせると感じたことを教えてください。

桑田:分科会では多くのサイトを分析しましたが、その過程で「どんな構造にも必ず理由がある」と気づきました。今後、自分が設計する際にも「なぜこの構造なのか」「どんな根拠があるのか」を言語化して伝えるようにしたいです。

齊藤:情報設計を体系的に学んだことで、これまで経験則でやっていたことを一度立ち止まって考えるようになりました。

「なぜそう整理したのか」を自分でも説明できるようになったのは大きいです。判断の根拠を持てることで、チーム内でも説得力が増しましたね。

廣川:クライアントとの議論で迷う場面も多いのですが、今回の演習で得た「整理の型」を思い出すことが増えました。プロジェクトの全員が納得できる構造を一緒につくることが情報設計の本質です。クライアントを巻き込みながら進める意識が強くなりました。

AI時代における情報設計の進化

生成AIの普及が進む中で、情報設計の役割はどのように変化していくと考えますか?

森住:生成AIは膨大な知識をもとに、要望に合わせて情報を違和感なく整理・要約してくれる点が非常に優れています。標準化や効率化という観点では、これまで人間が長い時間をかけてやってきた作業を一瞬で置き換えるのではないでしょうか。

ただ、AIによってあらゆるものが「均質化」してしまう社会にも漠然とした不安も感じます。AIの出力は一見もっともらしいけれど、その裏にある文脈や背景を見落としてしまうことがある。

だからこそ、これからの情報設計の役割は、AIをただ使うのではなく「監視・管理し、人間の視点で意味を与えること」だと考えています。

AIは整理する、人間は意味を与える

人間にしか果たせない情報設計の役割とは何だと思いますか?

齊藤:人間の情報設計に求められるのは、「倫理観や責任を伴った判断力」だと感じています。それに加えて、人間同士を合意形成に導くファシリテーションも欠かせません。

AIは情報を整理することはできますが、ステークホルダーの納得感をつくることまではできません。だからこそ情報設計を扱う場合は、人間ならではの論理的思考と調整力を磨く必要があると思いますね。

廣川:たしかに、AIは「情報を並べる」ことはできますが、「意図を組み立てる」ことはできません。最終的に「どの情報を採用するのか」「どういうストーリーを描くのか」を決めるのは人間にしかできないことだと思います。

ちなみに、実際の業務ではどのようなAI活用の可能性があるのでしょうか。

佐藤:現時点では、簡易的なペルソナやユーザージャーニーの作成などで効率化を図っています。ですが、あくまでもAIが提示できるのは叩きとなる案です。経験則に基づいた判断、最終的なジャッジなどはまだまだ人間の役割だと感じます。

桑田:AIにプロンプトを入れると、すぐにワイヤーフレームを生成してくれます。ただその設計の背後にある課題や目的をきちんと理解して落とし込んでいるかどうかは人間がきちんと確認し、必要に応じて修正しなければいけません。

廣瀬:莫大な情報の収集・要約や、コンテンツのアイディア出しなどはAI活用が有効な領域です。ただ、出力された結果をそのまま受け取るのではなく、ユーザーにとって価値のあるコンテンツか、分かりやすい構造になっているかなどの見極めは人の手で行う必要があると思います。

松森:可能性という視点でいえば、ユーザーの行動や意図に応じてリアルタイムに情報を再構築できるようになるかもしれませんね。ただ、「誰のために、なぜ必要なのか」といった意味づけはAIでは担えないのではないかとも考えています。

AIがどういった進化を遂げるにしても、人間がきちんとマネジメントする必要があるということですね。

桑田:一方で、AIが提案してくるアイデアには「自分では思いつかなかった」ものもあります。だから私は、最初の叩き台としてAIを活用し、最終的には人間が判断するという使い方が現実的だと思います。

AIを使って作業時間を短縮する分、私たちは「体験の本質」を考える時間を増やせる。だからこそ「どこまで任せ、どこから人が介入するか」を見極めることが大事になるはずです。

松森:AIは情報を効率的に処理し、最適な形で提示することに長けています。一方で、人間は情報に「意味」を見出し、それを通して「体験」を設計することができます。

これからの情報設計は、AIが効率を担い、人間が価値や体験を生み出すという役割分担の上に成り立っていくべきだと考えています。

森住:なにより、AIが進化しても、人との議論や思考の痕跡はチームに残ります。そこにこそ、こういった分科会の価値があると感じています。得た学びを現場で活かし、チームに共有して次の学びにつなげる。その循環のアップデートを続けていきたいですね。

このように、AIが情報を整理し、人が文脈を与えて意味をつくる。その「共創の中で設計のあり方自体を更新していくこと」、それこそが私たちが考える情報設計2.0です。

参加者全員で対談する様子

時代に合わせてアップデートしていく情報設計

情報設計は目に見える成果が少ないため軽視されがちな場面もあります。しかし、実はプロジェクトの安定性や成功を左右する根幹であることが、今回の分科会を通じて改めて明らかになりました。

AIが進化する今だからこそ、人間にしかできない判断や意味づけ、合意形成の力が今後ますます重要になります。分科会は知識を共有するだけの場にとどまらず、日々の業務改善から組織変革へとつながる実践の場へと進化しています。

メンバー全員が口をそろえて語ったのは、「学び続けることの大切さ」。変化する時代に合わせて情報設計をアップデートし続けることが、組織を未来へ導く原動力となるはずです。 BAは今後も、この学びを現場に還元し、より良い体験の設計を探求していきます。

もし「自社サイトでも情報設計を見直したい」「どこから改善すればよいかわからない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。課題の整理から設計の見直しまで、経験豊富なメンバーが伴走いたします。