業務効率をアップさせるために、会社に仮眠室を用意した――。そんなニュースを時々目にすることがあります。
最近では「パワーナップ」などの仮眠法が考案され、徐々に「仮眠は良いもの」という認識が広まりつつあります。では、仮眠を取ることは、仕事上でどのようにプラスになるのでしょうか?

昼過ぎに眠くなるのは"体内時計のリズム"が原因
三菱地所で2018年に行われた仮眠室を活用した実証実験によると、実に9割の人が日中に眠気や集中力の低下を実感していました。そのうち、眠気を感じる時間帯は、13時から15時に集中しています。
このように昼過ぎに眠くなるのは、体内時計のリズム(サーカセミディアンリズム)にあると言われています。人は朝起きて太陽光を浴びてから7~8時間後に眠気を感じるようになっており、それがちょうど昼過ぎの時間帯となるわけです。
眠気を感じたまま作業をしていても、集中力が持続せずに、思わぬミスを招くことがあります。作業効率を落とし、ミスのリカバリーに時間を割くよりも、仮眠をとる方が仕事のパフォーマンスが向上する可能性があるでしょう。
仮眠をとることのメリットとは?
では、眠気によってパフォーマンスを落とさずに、仕事を続けるにはどうすればよいでしょうか? ここで注目したいのが、「パワーナップ」(積極的仮眠)と呼ばれる仮眠法です。社会心理学者ジェームス・マース氏が提唱したもので、GoogleやApple、Microsoftなど、世界的な企業でも推奨されています。
「パワーナップ」には主に以下のような効果があるとされています。
「パワーナップ」の効果
- 仕事の作業効率が向上し、仕事がはかどる
- 脳が活性化し、クリエイティビティが上がる、アイディアが生まれやすくなる
- 頭がスッキリし、脳の疲労が回復する
- 昼間の睡眠が解消される
- 健康的な生活が送れるようになる
- 記憶力、注意力があがる
- ストレスを軽減する
- 不注意や集中力低下によるミスが減る
- 夜の睡眠の質が上がる
- 判断力・決断力がつく
昼寝には夜の睡眠の3倍の疲労回復効果があると言われています。NASAのレポートによると昼に26分間の仮眠を取った場合、認知能力が34%、注意力が54%向上したそうです。また、冒頭で紹介した三菱地所での実証実験でも、仮眠をとることでJINS MEMEやVAS法などの集中力測定でプラスの成果が見られたほか、58%の人が「仮眠による改善実感」があったとアンケートに回答しています。
さらに、午後に仮眠をとることで血圧が下がり、高血圧、心臓病、脳梗塞、糖尿病などの防止効果も期待できるといわれています。ただし、あまり長時間の仮眠をとると、心筋梗塞のリスクが高まるとのレポートもあるので注意が必要です。
仮眠法「パワーメソッド」の主なメソッド
人は眠るときに、まずノンレム睡眠(深い眠り)が60~80分続き、脳を休ませようとします。さらに、このノンレム睡眠の中でも、時間が経つごとに眠りの深さは増していきます。
このため、「パワーナップ」では、仮眠に時間は15分~20分程度とされています。30分以上の仮眠をとると、より深い眠りに入ってしまうことから、目覚めたときにかえって頭の働きが悪くなってしまうためです。
その他、「パワーナップ」の主なポイントは以下の通り。
「パワーナップ」を行うときのポイント
- 仮眠は12時~15時の間に行う
- 心臓よりも頭を上にして、横にならずに寝る
- 寝る前にアラームをセットする
- 寝る前にカフェインを採る
時間帯については先に紹介した体内時計のリズムが理由で、この時間に仮眠をとることで、その後に眠気を感じずに済みます。あまり遅い時間に仮眠をとると、夜の睡眠に影響が出るため注意が必要です。
また、深い眠りに入らないように、仮眠はベッドなどに横になるのではなく、椅子やソファーなどに座った状態で行うのがポイントです。20分以上寝ないように、アラームも忘れずにセットしておきましょう。
そして、眠る前にはコーヒーや緑茶など、カフェインを含む飲料を飲むと良いでしょう。これは、摂取後30分後ぐらいからカフェインの覚醒効果が働くためで、仮眠後にスッキリと目覚めることができます。ただし、アイスコーヒーはホットコーヒーよりも覚醒効果が働くのに時間がかかるため、仮眠をとる1時間ぐらい前に飲むのが良いとされています。
さらに、仮眠をとった後で気持ちよく目覚めるために、以下のような行動をとると良いでしょう。
- ストレッチをする
- 冷たい水で顔を洗う
- 日光を浴びる
ストレッチによって血流をあげる。冷たい水の刺激で交感神経を働かせて、心拍数や体温を上げるなど。これらは、いずれも脳の覚醒効果が期待できる行動です。仮眠と取ったあとでまだ眠気を感じられるようなら、これらの行動をとることで、スッキリと目覚められるでしょう。
もちろん睡眠不足も眠気の原因、身体への悪影響も
体内時計のリズムから人は昼過ぎに眠くなりますが、夜の睡眠時間が不足していると、より眠気を感じやすくなります。さらに、睡眠不足の状態が続くと、以下のような悪影響があると言われています。
- 前頭葉と前頭前皮質からグルコースが失われ、判断力が鈍る
- 扁桃体の機能が低下して感情のコントロールが難しくなる
- セロトニンの分泌量が減り、落ち込みやすくなる
ベッドに入って1分以内に眠れてしまう人は、慢性的な睡眠不足といえるでしょう。ここで注意すべきは、睡眠不足を解消するには、時間ではなくリズムが重要ということです。「週末にいつもより長く寝たから、翌日に徹夜をしても大丈夫」というわけではなく、常に一定のリズムで睡眠をとることが、睡眠不足を解消する一番の方法といえるでしょう。
まとめ
職場で仮眠をとるのは周囲の目が……という人も、テレワークが普及している今なら、自宅で試す絶好の機会です。どうにも眠くて作業効率が落ちている時は、一度仮眠をとってみてはいかがでしょうか。
参考
- 三菱地所との「仮眠室を活用した仮眠効果検証実験」結果報告 仮眠を活用することで日中の集中力向上と眠気低減を計測データで確認|株式会社ニューロスペースのプレスリリース. PR TIMES. (参照 2020-09-01)
- 坪田聡. パワーナップ仮眠法. 初版. フォレスト出版, 2015, 177p
- 小林考徳. ハイパフォーマーの睡眠技術 人生100年時代、人と組織の成長を支える眠りの戦略. 初版. 実業之日本社, 2020, 224p