ビジネス・アーキテクツ(以下、BA)では「Adobe Experience Manager(以下、AEM)」製品の導入支援や活用サービスを展開しています。
今回の記事では、アドビ株式会社デジタルエクスペリエンス事業本部執行役員の鵜瀬 総一郎氏と同事業本部の今井 徹氏、BAの村田 高宗の対談を通じて、AEMのクラウドサービス「AEM as a Cloud Service」の特徴やオンプレミス版と比較した際のメリット、クラウド版登場によるユーザーの変化などに迫ります。
インタビューを受けた人
- 鵜瀬 総一郎様デジタル エクスペリエンス事業本部 執行役員 ソリューションコンサルティング部(アドビ株式会社)
外資系保険会社にて、デジタルチャネル&グローバルプロジェクト担当。 2016年アドビ入社、導入コンサルティングチームのマネジャーを経て、テクニカルプリセールスチームをリード、現在に至る。
- 今井 徹様デジタル エクスペリエンス事業本部 パートナーセールス部(アドビ株式会社)
前職の日系ベトナムオフショア開発企業で、システム開発事業、テスト事業、クラウドインテグレーション事業、新規Saas/Paas開発などのプリセールスやクラウドベンダーのアライアンスに従事。 2018年にアドビがMagento Commerceを買収後、日本で初のAdobe Partner Award Commerce(2019)受賞。 2021年2月にアドビに入社。国内、国外のパートナー支援、エンゲージメントを通して企業のデジタルマーケティング強化に携わる。主にCMS(AEM)、コマース(Adobe Commerce)の開発パートナーの開拓と支援に従事。
- 村田 高宗エンジニアリング&テクノロジー ゼネラルマネージャー(ビジネス・アーキテクツ)
証券会社、ベンチャー企業の立ち上げを経てBAに。2023年より現職。
AEM as a Cloud Serviceの特徴
AEM as a Cloud Serviceとは
「Adobe Experience Manager(以下、AEM) as a Cloud Service」の特徴についてご紹介をお願いします。
鵜瀬氏(以下、敬称略):AEMはエンタープライズクラスのCMSです。簡単にAEMの歴史を少しお話しますと、AEMの前身にあたる「Day CQ」と呼ばれる製品がスイスのバーゼルで始まりました。「Day CQ」はアーキテクチャがよくできていて、データベースを外部に持たず、コンテンツのテキストデータや画像といったアセットを取り込むような構造でした。その後、オンプレミスのAEMが登場します。
今井氏(以下、敬称略):2000年の登場当初はオンプレミスでの提供でしたが、その後時代の流れに合わせてハイパーバイザーベースのクラウド型である「Managed Services」が登場しました。これは超大型エンタープライズのお客様にお使いいただくような、クラウド時代の最初の製品です。
さらにそのあとに登場したのが、今回お話しする「AEM as a Cloud Service」です。コンテナベースでインフラが提供され、そこにアプリとしてのAEMがパッケージ化されたクラウドネイティブ製品になります。
おもに企業様のサービスサイトやコーポレートサイトを、グローバル展開する際に活用されています。言語が異なる国々を対象にしてサイトを立ち上げる際も、マルチランゲージのサイト構成に長けているAEM as a Cloud Serviceであれば、スムーズに構築可能です。
また、毎月1回自動アップデートがあり、お客様は常に最新の機能を利用可能です。アプリ面・インフラ面を含め、お客様がクラウドのメリットを享受できるパッケージに仕上がっています。
鵜瀬:クラウドになって大きく変わったのが、ソフトウェアの基本思想である標準機能を使っていただきたいという思いを持ち始め、ソフトウェアのカスタマイズに制限を設けたことです。CMS関連の業務であればAEMを使うことがコンテンツの制作やガバナンス管理業務のベストプラクティスになるというメッセージを込めて、クラウド版という制限のあるものを提供するようになりました。
制限を設けることで、お客様が自前でアプリケーションを開発するのではなく、サードパーティのテクノロジーとAPIベースで連携して、外から引っ張ってきた機能を組み合わせるだけで、クイックに運用できるようにしたのがクラウド版以降の製品です。
実はAdobeとしてクラウド版を提供し始めた当初は、本当に軽い機能でした。しかし現在では逆にクラウド版だけの機能も増えており、例えばAIを使って自動でタグ付けしたり、詳細ページの文章を自動作成したりといった機能は、クラウド版だけにリリースされています。
村田:価格帯という観点から話すと、オンプレミス時代のAEMはいわば超ハイブランドで、本当に限られたお客様だけのニーズを満たす製品という立ち位置でした。非常に高価である一方で、それだけの価値があるところが魅力だったと思います。
それがクラウドになって、「手が届くハイブランド」のような位置付けに変わりました。パートナーから見ても、お客様の層自体が少し変わったと感じています。
オンプレミス版や従来のCMSと比較したときのメリット
オンプレミス版と比較したときに、ユーザーはどのようなメリットを享受できるのでしょうか。
今井:AEM as a Cloud Serviceでは、お客様はインフラ部分をメーカーであるAdobeに安心してお任せいただけます。
例えば、WebサイトのPVが急増してサーバーダウンが予期される場合、オンプレミス版ではお客様ご自身でサーバーを増強する必要があります。しかしクラウドでは、Adobeがご契約の範囲内でサーバーの増強対応も行ないます。サイトの成長に合わせたプランをご用意していますので、長くお使いいただける点もメリットの一つです。
また、毎月自動でアップデートが入るので、お客様はアプリのバージョンやセキュリティ対応をその都度気にする必要がありません。
お客様はAEMというCMS上で、コンテンツ制作や顧客体験向上の施策など、本来集中したいタスクに注力できるようになります。
WordPressと比較するとわかりやすいかもしれませんね。WordPressはフリーで使えますが、自社でサーバーを用意し、バージョンアップによるプラグイン対応やセキュリティ面の対応も自社で行なう必要があります。AEM as a Cloud Serviceであれば、そのあたりのコストは大幅にカットできます。
村田:WordPressに比べて、トータルコストを抑えられるケースもありますよね。
今井:そうですね。AEMのライセンス料と初期開発費、保守運用費を合算したものを5年スパンで見ると、場合によってはWordPressよりもコストを抑えられるケースがあります。やはり、一番コストのかかる人件費を抑えられるのが大きいです。
村田:Web制作においては、BS/PL(貸借対照表/損益計算書 )からは把握しにくいコストがかかっていることが多々あります。WordPressはフリーで使える反面、人件費や固定費が必要になるので、コストを積み上げていくとかなりの金額になるケースがあるんです。
そういえば、ヘッドレス(注1)/ヘッドフル(注2)をハイブリッドで使用できるのもAEMの特徴ですよね。
今井:はい。例えばAEMの中にすべての商品情報を入れておけば、WebサイトはヘッドフルでAEMのパブリッシュ機能を使い、スマホアプリにはAPIを使ってヘッドレスで配信するといった使い方ができます。
村田:海外販社がある会社だと、コンテンツは海外側で管理したいものの、本社から新製品が出た際、その情報を取り込んで掲載しなければなりません。しかし、海外販社側の動きが鈍く、新製品のサイト掲載が滞ってしまうことがあります。海外販社側にはヘッドレスで情報を渡して、本社側はヘッドフルで情報を出すような、グローバルでコンテンツが展開される仕組みを作っておくと全体の管理がしやすくなります。
今井:日本企業が海外に出ると、現地法人が独自にシステムを作ってしまうケースが多々あります。それはそれで良いのですが、日本の本社がグローバル戦略を含めてブランディングし直すときに適切に統制しなければなりません。そのためには、サイトのデザインや構造、運用ポリシーなどを本社で一括管理して、それを海外拠点で使える仕組みが必要です。
AEMのライブコピーという機能を使えば、サイトの構造とデザインを丸ごと複製できます。今までは国や言語ごとにサイトを一つひとつ用意していましたが、ライブコピーを使えば簡単に対応できるので、あとはその国に対してローカライズをするだけで済みます。
- 注1 ヘッドレス:フロントエンド(ビュワー)部分がない、バックエンドのみのCMS
- 注2 ヘッドフル:フロントエンド・バックエンド一体型のCMS
クラウド版によるAEMユーザー像の変化
クラウド版の登場により、AEMのユーザー層はどのように変化しているのでしょうか。
今井:クラウド版の特徴として大きいのが、先ほど少しお話したように、オンプレミス版に比べて低コストで利用できるようになったことです。その結果、より幅広い事業規模のお客様にお使いいただけるようになりました。
オンプレミス版は魅力的な機能を持っている反面、価格的にはかなり大規模なビジネスを展開されているお客様、具体的には年商1兆円を超えるような企業様にしかフィットしない価格帯でした。一方でクラウド版は、年商1,000億円を超えるお客様であれば投資できる範囲の価格帯です。
また、以前はBtoCが多かったのですが、最近はBtoBのお客様も増えています。マルチランゲージ対応していることから、特に海外販売比率が高い企業様に多く導入していただいています。
そもそもAEMは複数の製品の集合体で、現在はWebサイト編集・配信機能を持つ「Sites」、商品データベースの役割を持つ「Assets」、フォームの作成をサポートする「Forms」、デジタルサイネージにコンテンツ配信する「Screens」、ドキュメントを管理する「Guides」の5つから構成されています。
単にWebサイトを作れるだけではなく、顧客体験を支援する5つの製品がすべてクラウド上で使えることが、ユーザー層の多様化を後押ししていると考えています。
村田:AEMでカバーできる範囲が広がっているということですね。それぞれの製品を個別で販売してくれているのも良いと思います。昨今のDX推進の流れが後押しとなって、お客様の目がデジタル投資に向いていることもユーザー層の広がりにつながっているのでしょうね。
CMSの役割の変化とAEMの新機能
AEMの新機能
AEMの新機能や今後の展望についてお聞かせください。
鵜瀬:まず、今後はCMSに求められる役割が変化すると思っています。以前はWebサイトをデザインしてリリースするのがCMSの役割でしたが、今はアプリやコンテンツも一括管理できるといった役割が求められています。AdobeとしてはCDNやセキュリティ部分の管理を含め、CMSでオーケストレートしようという考えを持っています。
ここで新機能として提供するのが「エッジデリバリーサービス(EDS)」です。例えばドキュメントベースのコンテンツをオーサリングできるので、コンテンツ管理の効率を上げられます。
また、ヘッドレスの時代においては、「CMSはデータベースである」という考え方があります。AEMでは、データベースの中にあるコンテンツをどう扱うか、という点をカバーできる機能を使えます。これはコンテンツフラグメントと呼ばれるもので、フラグメント化されたコンテンツをAPIで呼び出し、ページをレンダリングして生成する機能です。
村田:コンテンツフラグメントというネーミングは本当に秀逸ですね。リレーショナルではなく、コンテンツをフラグメント化してパーツとして捉えることによって、CMSが本当の意味でのコンテンツマネジメントシステムになったと思います。
鵜瀬:そうですね。コンテンツをフラグメントで持つことで、別のアプリやメディアで使いたいときにも同じデータを呼び出すことが可能ですから、ジャーニーベースで構造設計ができるようになります。
村田:コンテンツフラグメントに関しては、「PIMは必要ないけど似たようなことをAEMで実現できるの?」というお問い合わせをいただくケースがあります。コンテンツフラグメントでできることを説明すると、「これで十分」という話になることはありますね。
鵜瀬:コンテンツフラグメントはデータ構造がDAMなのです。実際にDAMをPIMとして使っているお客様もいらっしゃいます。PIMを構築するよりも、データをDAMとして扱えばアセットとしてAPIを呼び出せるので、Webコンテンツにデータを展開したい場合でもAEMのなかで完結できます。
機能に関してAdobeならではのお話をすると、AEMの中で「Adobe Express」が立ち上がって多少の画像編集ができたり、生成AI「Adobe Firefly」を使ってデザインを作ったりといったことも可能です。
村田:使う側としてはわざわざ画像をダウンロードして、Photoshopを立ち上げて……といったことをしなくても、AEM上でシームレスに編集できますよね。
鵜瀬:そのとおりです。プラットフォームにクラウドを使って外部連携しやすくしているので、AEMのウインドウのなかですべて完結できます。
まとめ
株式会社AdobeさまとBAの対談企画のPart1では、「AEM as a Cloud Service」の特徴やオンプレミス版と比較した際のメリット、ユーザー像の変化、新機能などについて紹介しました。
次回の記事ではAEMの導入に欠かせない「AEMパートナー」を選定する際のポイントについて、引き続き対談していただきます。興味のある方は、ぜひご覧ください。
- Part1:コスト削減を実現しつつAEMを使えるクラウドサービス(本記事)
- Part2:AdobeとBAが考えるAEMパートナーの選定基準
- Part3:コンサルから運用までAEMをサポートするBA
※所属企業・肩書等は、2024年4月末時点の情報です。