本記事は株式会社ニュートラルワークス取締役CMO石田哲也氏(@te2319)による寄稿記事です。
近年の検索エンジンを用いたマーケティングにおいて、オウンドメディアは今や欠かせない要素となっています。しかし、多くの企業はオウンドメディアの表面的な部分しか捉えられておらず、作ったけど売上に繋がらないというケースが非常に多いです。
リード獲得ができなければ、そのオウンドメディアの評価も上がらず継続的に運営することができなくなると思います。
本記事では、数多くの企業のオウンドメディア運営を支援し、自社オウンドメディアを2年で月間リード獲得数8件→500件超に成長させた経験のある筆者が、オウンドメディアを成功させるための考え方と具体的な戦略を紹介します。
オウンドメディアに対する誤解
オウンドメディアに対して、多くの企業担当者の方はオウンドメディアの価値を下記だと捉えています。
- 自社サイトへの流入を増やして成果を出す
- 特定キーワードで上位表示させる
しかし、そのどちらとも達成しているにも関わらず、リード獲得が出来ていないメディアを多く見てきました。メディアで取り上げられるインタビュー記事などは「オウンドメディアで流入を増やして売上が上がった」といったようなものが多いですが、その多くは成功の理由を理解していないと考えています。
表面的に語られる記事を見た別の企業担当者が、自分たちも同じようにオウンドメディアを運営して成果を出そう!と考えますが、成功した理由を理解していないと高い確率で失敗します。
続いて、具体的な数値を用いてオウンドメディアに対する誤解を解説します。
記事だけではリード獲得ができない
一部業界では記事でのリード獲得が可能ですが、多くの業界ではリードはあまり発生しません。下記は、弊社の流入チャネル別の比率です。
こちらの円グラフにあるように、Googleなどの検索エンジンからの流入(円グラフではOrganic Searchと記載されている部分)は、獲得したリードの流入チャネルの88%を占めます。
一方で、下図の左のグラフが検索エンジン経由での流入のユーザー比率です。検索エンジン経由で流入したユーザーの内、92%が弊社オウンドメディアQUERYY(クエリー)からの流入です。
続いて、リード獲得に至ったユーザーの入り口となったページの比率が下図の右のグラフです。
このように検索エンジンから流入したユーザーの約9割がオウンドメディアの記事経由でした。しかし、獲得したリードに絞り込んでみると、77%のユーザーはオウンドメディアの記事以外(例えばサービスページなど)が入口でした。
また、弊社サイトを分析した結果では、記事ページはリード獲得率(獲得したリード数÷集客したユーザー数)が低く、リード獲得効率が悪いというデータが出ています。詳細な数字は出せないですが、記事ページのリード獲得率は「平均0.12%」に対して、記事以外のサービスページなどは「平均4.77%」です。
オウンドメディアによるSEO効果
前述の通り、弊社は記事以外でのリード獲得が多く発生していますが、その理由は検索キーワードに合わせて上位表示させるページをコントロールしているからです。具体的には、顕在層の検索するキーワードを分析した上で、そのキーワードでリード獲得率の高いページを狙って上位表示させています。つまり、ただ上位表示をさせているわけでは無いということです。
では、オウンドメディアは意味が無いのか?というとそうではありません。下記は弊社がオウンドメディアを運用する理由です。
SEO(検索エンジンからの流入数を増やすために、上位表示を目指すこと)では、特定領域でGoogleに専門サイトと認識されることが重要です。オウンドメディアで特定領域のコンテンツを増やしていくと、サイトの専門性が高いと認識されて特定領域の専門家として評価されます。これによりサイト全体で評価を上昇するため、特定キーワードで獲得率の高いページを意図的に上位表示させやすくなります。
オウンドメディアでリードを獲得するための考え方
オウンドメディアでリード獲得するためには、下記のような基本的なフレームワークに当てはめて考える必要があります。
誰が検索するのか?を考える
例えば新卒採用支援をしている企業の場合、「新卒 手取り」というキーワードがあります。このキーワードはSEOツールで月間検索ボリュームを調べると、1,600回程度でした。それなりに検索されているキーワードですが、このキーワードの場合、「新卒の手取りを知りたい」のであって検索者は新卒生だと思います。
一方で、新卒採用支援をしている企業であれば、ターゲットとなる顧客は企業の人事担当者などになるかと思います。つまり、ターゲットとなる顧客が殆ど居ないキーワード「新卒 手取り」に対して対策をしても、当然リード獲得はできません。
では、「新卒採用 メリット」というキーワードではどうでしょうか。このキーワードは検索ボリュームが350回あり、新卒採用のメリットを知りたいという検索意図のため、企業の人事担当者や経営層が検索しているキーワードだと想定できます。
何をどのように伝えると、相談してもらえるのか?を考える
キーワード「新卒採用 メリット」で記事に流入したターゲットの大半は新卒採用のメリットを理解したら離脱します。
ターゲットに大きな乖離は無くても、検索した目的が「新卒採用のメリットを知りたい」なので、記事を読んでメリットを理解したら目的が達成されるため、それ以上の行動を起こさなくなります。
オウンドメディア運営側は、メリットを理解してもらい自社のバナーなどをクリックさせて新卒採用の相談をもらえると考えがちですが、逆の立場になって考えてみてください。新卒採用のメリットを理解したとして、すぐに相談したいと考えるでしょうか。仮にすぐに相談したいと考えたとして、記事を公開している企業に相談をする動機はあるでしょうか。
マーケティングは売れる仕組み作りですが、そこには必ず下記が必要になります。
- ターゲット顧客を流入させる手段
- ターゲット顧客が相談する動機
簡単なことのように思えますが、この2つを満たした施策を実行できているケースはあまり多くありません。
記事で動機を作る場合は、自社のメリットやなぜ利用すべきかなどの訴求が必要です。しかしこれはSEOとは関係ありません。ここがオウンドメディアの難しいところで、SEOで上位表示される記事はある程度の型が決まっていて、自社宣伝を多く記載した記事はそもそも上位表示がされないので、ターゲット顧客を流入させることが出来ません。
リード獲得手法の具体例
リード獲得には顕在層を獲得する手法と潜在層を獲得する手法があります。オウンドメディアでリードを獲得する場合、大半が潜在層を獲得する手法になります。
例1.潜在層のリードを獲得する
例えば、先程の「新卒採用 メリット」というキーワードでリードを獲得する場合ですが、検索ユーザーの課題を考えて成果地点を設定する必要があります。「新卒採用 メリット」と検索しているユーザーは、採用に苦戦している層が一定数いると考えられます。新卒採用のメリットを検索している方は、中途採用をメインの採用手法としている可能性があります。ですので、採用に成功している企業の具体的な事例集やノウハウなどに興味を持つ可能性があります。
ただし、こういった形で獲得したリードの大半はすぐに成果に繋がりません。すぐに成果に繋がらないリードは、将来ニーズが発生した際に第一想起が取れるよう、継続したアプローチが必要になります。このように、潜在層のリードは素早く売上に結びつけることが難しいです。
例2.顕在層のリードを獲得する
すぐに売上に結びつけるためには、顕在層のリードを獲得する必要があります。では、顕在層のリードを獲得するためにはどのようにすれば良いでしょうか。弊社のSEO施策の失敗例と成功例を紹介します。
まず顕在層のリードを獲得するためのキーワードは、リスティング広告の結果を活用することが近道です。リスティング広告で成果を出せるキーワードを見つけ、その状況をSEOで再現するためにオウンドメディアを活用して上位表示ページをコントロールが出来れば確実に成果を出すことが可能になります。
「コーポレートサイト 作成」「リスティング広告 運用代行」という2つのキーワードはリスティング広告で毎月リードを獲得しているキーワードです。
どちらのキーワードの記事も自然検索で1位表示ですが、自然検索からのリード獲得数は「コーポレートサイト 作成」が0件、「リスティング広告 運用代行」は複数件でした。
「リスティング広告 運用代行」で1位表示した記事は、コーポレートサイトの作り方を解説した記事のため、自身でコーポレートサイトを作りたい方が多く流入します。一方、「リスティング広告 運用代行」で1位表示した記事はリスティング広告運用を外注したい方が多く流入します。このように、顕在層の検索が想定されるキーワードであっても、コンテンツのテーマや内容で大きくリード獲得数は変わります。
ちなみに本件とは少し逸れてしまいますが、Googleは様々なユーザーの検索意図に答えるために、検索結果に表示させるページを意図的に分けています。
今回は、上位表示させたい「コーポレートサイト制作」のサービスページより、「コーポレートサイトの作り方」の記事がGoogleに評価されてしまったことで、本来の狙いとは異なるページが上位表示されてしまった事例を失敗例として紹介しました。
まとめ:オウンドメディアを活用したリード獲得はユーザーの検索意図の理解が重要
オウンドメディアを活用したリード獲得は、ユーザーの検索意図を正確に理解することが不可欠です。オウンドメディアは企業やブランドにとって重要なマーケティングツールとして注目されていますが、単にコンテンツを制作するだけではなく、ユーザーが求めていることを理解して、ユーザーと企業との溝を埋めることが重要です。
デジタルマーケティングは売る側になるとユーザー視点がなくなるケースが多いので、画面越しに人がいることを理解して、ユーザー視点で設計を見直してみると良いでしょう。