入社2年目、クリエイティブUNITでデザイナーとして活躍している加藤さん。大学のときにクリエイターさんからお話を聞く機会があり、デザインに興味を持ち始めてこの業界に入りました。グラフィックレポーティング(グラレポ)については 社内でも第一人者といってもいい存在です。「グラレポが大好き」という加藤さんに、グラレポとはどのようなものなのか、聞いてみました。
グラフィックレポート(グラレポ )とは?
グラフィックレポート(以下、グラレポと称する)とは、セミナーや会議の内容を視覚化し、グラフィックを用いて1枚にまとめる(レポートする)手法のことを指します。
会議の際、議事録を作成する会社が多いと思いますが、議事録は結果を羅列するだけで、誰がどんな文脈で発言をしたのかまでは残すことができません。そこで、テキストとイラストで発言を残し、後の共有資料として議論をよりわかりやすく伝えられるようまとめることがグラレポの役割です。見えにくいものを可視化するという意味で「空中戦を地上戦に」とよく言われます。結論だけでなく、その結論に至るプロセス、フローがわかるのがグラレポの特徴です。
会議資料の中ではプロセス、フローといった詳細部分をグラレポに任せ、要点は議事録で確認します。つまり、議事録とグラレポは相互補完関係にあるのです。
私は以前からセミナーに参加し、グラレポについて少し勉強していたので、社内でグラレポ案件が出たときには、真っ先に手を上げました。Webデザイナーの通常の仕事とは違って紙ベースで手を使って制作するので、非常に新鮮で刺激的な体験でした。
グラフィックレコーディング(グラレコ )との違い
一般的に広く認知されているのはグラフィックレコーディング(グラレコ)ですが、こちらはセミナーや会議などで、議論をその場でタイムリーに可視化する手法のことを指します。
最近では、グラレコはテレワークの現場でも使用されるようになってきました。たとえばWeb会議の途中でグラレポを使ってメッセージを送れば、リアルタイムで感情を伝えることが可能です。ペンタブレットを使い、メールやチャットなど、いろいろなコミュニケーションツールで活用できる、大変便利なツールです。
グラレポはこんなときに使える!
グラレポの活躍の場は幅広く、社内会議やミーティング、セミナー、ワークショップ、カンファレンスなどで議事録の補助資料として作られることが多いようです。
グラレポの効果の一つは、議論をビジュアル化することで、チーム内の合意形成の促進ができることです。会議中に出る抽象的な言葉は、メンバーによって微妙に受け取り方が異なります。会議後、メンバー相互の認識のズレを修正し、グラレポを通して俯瞰することでのちの意見をすり合わせやすくするのです。
たとえば、「4人家族(父・母・子ども2人)」と聞いて、Aさんは「小さい子どもが2人」、Bさんは「中学生と高校生の子どもが1人ずつ」と思うかもしれません。このとき、子どものイラストが添えてあれば、どちらの認識が正しいのか一目瞭然です。ビジュアルがメインの資料なので、その場にいなかったチームメンバーや、職種、バックグラウンドが違う人などとも情報共有しやすくなります。そのため、グラレポは内容やメンバー構成が複雑であればあるほど、威力を発揮すると言われています。
重要なのは情報整理と文章量
今回、私は社内ではじめてのグラレポ案件を担当しました。そのときの体験をもとに、グラレポの作り方について具体的にお話しします。
グラレポで一番重要なのは、「何を描いて何をカットするか」という情報の整理と優先順位づけです。情報のレイアウトは、よく言われるようなZ型や逆N型など、人の視線の導線で行うのが基本で、1テーマ1枚にまとめきるのがよいと言われています。用紙のサイズは特に決まっておらず、その都度A4だったり、A3だったり……さらに大きな紙だったりします。
今回はセミナー終了後の作業で、入れ込むべき要点は事前に伝えられていたのですが、そこからさらに情報を選別していかなくてはならず、これが思ったよりも大変でした。何度も収録動画を見て、描く情報に間違いがないかを確認しながら、ていねいに作業を進めていきました。リアルタイムで描かなければならないグラレコ案件の場合、その場で情報を取捨選択しながら描いていかなければならないので、さらに作業が大変だと思います。
制作にあたって気をつけたのは、色を使いすぎないことと、重要なファクトをしっかり記載すること、文字量を減らすことの3点です。
色に関しては、グラレポはあくまで情報をわかりやすくまとめることが大事なので、色合いの優先順位は高くありません。そのため、使用する色は黄色・黒・青の3色にとどめました。また、情報を正確にわかりやすく伝えることが目的なので、ポイントになる数字や固有名詞は必ず入れ、反対に図や絵で表現できるところはできるだけ文字を使わないよう心がけました。「もじもじ(文字文字)しない」こと、これがグラレポでは大事なんです(笑)。
いざ取り掛かってみると、考えることがたくさんあって試行錯誤しました。どの情報を残すか、色をどこに使うか、どんなイラストにするか……たくさん悩みましたが、非常に楽しい経験でした。Webデザインよりも制約が少なく、自由度が高いので面白くてつい時間を忘れて作ってしまいました。
表現の自由度が高いのがグラレポの楽しさ
グラレポのメリットは、議論のプロセスをわかりやすく見える化できることです。Aさんの発言はどういう状況で発せられたのかをビジュアライズするので、発言の内容だけでなく感情まで伝えることができます。たとえば、Aさんが怒って発言したのであれば、怒っている人のイラストを添えたり、テキストを赤色にしたりすることで、ひと目で状況がわかるといった具合です。絵なので印象に残りやすく、議論の全体像を俯瞰できるので新しいアイデアも生まれやすくなります。
もう一つのメリットとしては、内容の要約・情報整理と基本的なパターンの習得ができれば、デザイナーでなくても、誰でも描けるようになることです。グラレポはグラレコと違い、リアルタイムに描く必要がないため制作のハードルが低く、チャレンジしやすいのも魅力ですね。
私は、本やセミナーで作り方を学びました。インターネット上にも初学者向けの情報がたくさん紹介されています。書籍でおすすめなのは、清水淳子 著『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』(ビー・エヌ・エヌ新社、2017)です。すぐに使える内容がたくさん書いてあるので、ぜひ参考にしてみてください。
グラフィックレコーダーとしてのスキルアップを目指して
はじめて社内案件を担当してみて、改めてグラレポの楽しさに目覚めました。グラレポは「どうしたら見る人に伝わるだろうか?」と自問自答しながら作るもので、Webデザイナーの仕事とも共通する部分が多くあります。その一方で、グラレポでしか経験できない作業もあるため、大変面白いです。個人的に大好きな仕事なので、自分の強みにしていきたいと思います。
グラレポはまだ認知度が低いので、まずは社内メンバーによりグラレポを知ってもらいたいと思います。経験を積むほどにオリジナリティのあるグラレポを作れるようになると思うので、いろいろな案件を担当して腕を磨いていきたいですね。今後はグラレポだけではなく、外部セミナーやイベントでもグラフィックレコーダーとして仕事をしてみたいです。どんな案件でもいいので、場数をどんどん踏んでスキルアップをしていきたいと思っています。