UXデザインという職種は「デザイナー」という言葉が含まれているため、デザイナーしかできないと思われがちです。しかしWeb制作に携わる人は、普段からユーザーの視点で考えてサービス開発や改善に取り組んでいるはずです。つまりWeb制作を突き詰めるとUXデザインに通じると思います。
そこで本記事では当社の現役UXデザイナーに、普段の業務内容を根掘り葉掘り聞いてきました。私がはじめて知ったこと、驚いたことを中心にお伝えします。
この記事を通して、デザイナー出身以外のWeb制作経験者にもUXデザインに興味を持っていただければと思います。
インタビューを受けた人
- 森 太輔ゼネラルマネージャー/CDO(Chief Design Officer)/人間中心設計スペシャリスト(ビジネス・アーキテクツ)
2008年、企業の情報コミュニケーション戦略を実現するプロジェクトを中心に、アートディレクター及びリードデザイナーとしてビジネス・アーキテクツに入社。特に日本の製造業のグローバル展開プロジェクトに長年関わっている。現在はデザイン部門の責任者も務める。
- 野田第3事業部 マネージャー/デザイナー(ビジネス・アーキテクツ)
Web制作会社数社を経てBA入社、デザイナーとしてクリエイティブUNITに所属。2017年より、オンサイトチームに参加、リードデザイナーとして数々のプロジェクトを担当。
- 正木UI/UXデザイナー(ビジネス・アーキテクツ)
2020年BA入社。マーケティングの知見を持つデザイナーとして、クライアントの課題解決提案・WebサイトのUIUX設計・CIVI制作 など、幅広いデザインワークに従事。趣味は絵を描く事と業務の効率化。
当社UXデザイナーの紹介
まず、みなさんの経歴と、今取り組んでいる業務について簡単に教えてください。
森:今はCDO(Chief Design Officer) として、私たちの提供するサービスがお客様に満足いただくために、組織を横断してデザインの品質担保やプロセス構築などの仕組みづくりを担っています。
また、現在は制作メンバーの一員として、お客様が提供するプロダクト(業界に特化した業界最大のクラウドサービス)のUXプランニング/UI制作を担当しています。
現在は、2021年4月からお客様が提供するプロダクト(業界に特化した業界最大のクラウドサービス)のUXプランニング/UI制作に携わっています。
詳細は、以下のインタビュー記事をご覧ください。
プロダクトのUIUX改善のためにデザイナーは何を考え、何を提供するのか? | BAsixs(ベーシックス)
野田:私は前職ではフロントエンド実装も兼任するWebデザイナーでした。当社に入社してWebデザイナーからUI/UXデザイナーになりました。
今は、8人の常駐チームのデザイン責任者兼マネージャーを担当しています。
お客様企業の既存サービスの改善や新サービスの開発において、UI/UXの観点で考え作る業務を担っています。
正木:私はインハウスデザイナーから制作会社のWebデザイナーになりました。手法問わず、お客様との対話を通して本質を明確にすることを大切にして、仕事をしています。
インハウスでプロダクトのデザイナーだったので、UX領域を常に意識しながら仕事をしています。
現在は2社のお客様案件を担当しています。
A社ではお客様のビジネス相談に対し、デザインとエンジニアリングの目線でアドバイスや意見交換を行ったり、意見交換に紐づく資料やデザインなどを作成しています。
B社はUXデザイン業務を中心に、お客様の中のプロジェクトに流動的に参画し、広い範囲でのデザイン業務を行なっています。プロジェクトが目指す方向性から行うべき業務を設計し実行しているため、特に決まった業務はありません。新しい取り組みが多いお客様なので、都度インプットを繰り返しながら取り組む必要がある案件です。
BAのメンバー構成とプロジェクト全体の体制を教えてくださいを教えてください。
森:およそ30人編成のプロジェクトチームの中で、当社は2名のデザイナーチームとしてプロジェクトに関わっています。
チームの体制は
- プロジェクトマネージャー(業務要件の整理):6名
- テックリード(開発における進行、リソース管理など):6名
- デザイナー(UXプランニング、UI制作):2名
- エンジニア(実装開発):11名
- 運用保守(受け入れ試験):6名
という感じです。様々なバックボーンを持ったメンバーがプロジェクトのために集まってきているので、考え方や進め方も異なり、学ぶべきことが多いです。
野田:私が担当するプロジェクトは数十名から百名近くが関わるものまで様々な案件があります。BAからは8人のメンバーでお客様専属チームを作り支援しています。
それぞれの開発案件に、デザイナーとしてBAチームから1~2名、多い時は4~5名が入ります。
今のお客様と一緒にお仕事させていただくようになってから、5年くらいになります。最初はBAからはデザイナー1人でしたが、今では提案から実装まで行うためにディレクターやエンジニアも含めて8人のチームになりました。
BAメンバーは、Webディレクターが3名、エンジニアが1名、デザイナーが4名で、外部のエンジニアの方にも案件ごとに協力いただいています。
正木:お2人とも大きなプロジェクトに関わっているのですね。
A社ではBAは2名、プロジェクト全体では8名の体制です。
web担当者が5名ほどいて、BAメンバーはロールとしては営業・デザイナーが参画してますが、業務内容はコンサルやPMに近いと思います。
B社はプロジェクトの内容が多岐にわたるため、プロジェクト毎に体制もロールも変わります。今は9名のプロジェクトに参画しています。要件定義の手前の「課題抽出・要求整理」が業務範囲です。
今のプロジェクトチームの体制は以下の通りです。
- PMO:1名
- UXデザイナー:4名(ワークショップ設計と実施、要求整理、進行管理)
- マーケター・コンサルタント:4名(要件定義、KPI設計、KPIシナリオ作成)
ありがとうございます。お客様のプロジェクトチームの1員として参加されている点が特徴的かもしれませんね。今は基本的にリモートワークですか?
森:基本的には、リモート作業ですね。全国各地から制作メンバーが参画しており、チームアップMTGやお客さんとの勉強会などで顔を合わせることがあります。
正木:私も森さんと同じく、基本的にリモートです。2年前はお客様のオフィスに伺っていましたが、リモートでも問題なく業務を進められているので特に困っていることはありません。
野田:私は週1〜2回、BAチームメンバーと日程を合わせてお客様のオフィスへ出社しています。
当社の関わり方、大切にしていること
BAのミッション「デザインとエンジニアリングの力でサービスの本質をカタチにする」を達成するために、何を大切にしていますか?
森:私は、誰かの行動を促すためのきっかけづくりを大切にしています。
お客様が伝えたいメッセージを形にして発信することで、メッセージに共感したユーザーがお客様企業のファンになり消費者になること、そしてお客様の売上が増えることがゴールの1つだと考えているからです。
Webやグラフィックなど発信の手段は多岐に渡りますが、大事なことは、最適な手法を選択しお客様のビジネス課題の解決に貢献することです。そのためには、自身の仕事の幅を限定しないことが、必要不可欠な要素です。
野田:そうですね、自分の担当領域を限定せず、柔軟な対応ができることは大切ですね。さらに当社のデザイナーが大切にしているのは、以下の3つだと考えています。
- 自分自身がユーザーになる
- クライアントのビジネスを理解する
- ユーザーに届くまで責任を持つ
つまり、お客様のサービスを自分事として考えられることです。
森:自分事化できるかって、大きいですよね。まずはお客様のビジネスや市場を知ることから始まると思います。
以前、正木さんがA社の案件に初めて訪問する日に向けて作成した資料を見せてもらったけど、マーケティングの視点からの客観的な分析と、正木さんが考えた仮説が分かりやすくまとまっていました。
こういう行動自体が自分事化するということを体現していると感じました。実際にお客様と認識をすり合わせする時にも有効だったと思います。
正木:ありがとうございます。「1から10まで全て教えてください!」という姿勢ではなく、自分の理解を整理して資料化し、初日にお客様と認識のすり合わせをすることで、最初からお客様と同じ目線になるように心がけています。
また、お客様企業の週次の部会に参加して、他のプロジェクトの状況を聞いたり、自分が参画しているプロジェクトの進捗を報告しています。
ちなみに野田さんは、普段の情報収集はどうしていますか?
野田:私たちのチームも、お客様の社内会議に招待いただき、会社の方針や他のプロジェクトの状況をキャッチアップすることが多いです。
他にも自分で出来ることとして、お客様と同じ目線で対等に話せるように、業界に特化した資格を取得しました。
森:私もお客様企業の全体会議・部内の戦略会議に積極的に参加しています。
特に全体会議では以下のような内容をキャッチアップする機会として使っています。
- 会社のバックボーンや方針を知る
- 今関わっているプロジェクトの役割や立ち位置を理解する
- 直近の施策だけでなく、全体のマイルストーンを把握する
- 他のプロダクトの計画を知る
他にも、世の中のニュースやプレスリリースや、お客様企業が主催する研修から情報をインプットしています。
ありがとうございます。お客様社内の全体会議や部会に参加して、お客様企業が取り組んでいる他のプロジェクトの状況にもアンテナを張っているんですね。お客様からは、どういう粒度や内容のご相談をいただくことが多いですか?
正木:私は、要件が決まった状態でご相談いただくことは少なく、「こんなことしたいんだよね」というザックリとした依頼から始まる場合が多いです。目的が明確な場合もあれば、目的がない状態で依頼がある場合もあります。後者の場合、目的を明確にするためのコミュニケーションから仕事が始まります。
森:私も正木さんと同じく、広いテーマをご相談いただく場合が多いです。例えば以下のようなテーマです。
- 企業価値の向上を図りたい
- ブランドイメージ形成に貢献したい
- 生活者を始めとする、各ステークホルダーとのエンゲージメントの向上させたい
- コーポレートサイトのUI/UXを統一したい
- 一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションを図りたい
お客様から相談いただいたテーマから、お客様側で目的や課題を明らかにしていただくこともありますが、目的の共通認識にするために課題を再整理するところからキックオフすることが多いです。
野田:私のチームは、プロジェクトのコンセプトやユーザー価値・ビジネス価値・達成したいゴールがある程度固まった状態で、お客様から相談を受けることが多いです。
そのような相談にUXデザイナーという役割として、どう対応していますか?
正木:例えばA社様案件では、毎年年末から3月まで来年度の計画を作成しています。作成した計画は、お客様チームメンバーの認識合わせだけでなく、上層部へのプレゼンにも使われます。お客様自身が、上層部や部下たちへ説明しやすく、今年何をしたいのか皆で認識合わせに使えるように、全員が理解できる資料にするべく情報の粒度を揃えています。
来年の計画作成は、4つのステップで進めています。
- お客様から伺った来年の方針・やりたい事をテーマごとに分ける
- 施策の優先順位をつける
- テーマ毎に設定すべき目的・目標・アクションなどに抜け漏れないか確認する
- アウトプットの粒度を調整する
メンバーが指針を見失い迷わないか、この計画は拡張性があるか、様々な視点で調整しています。
野田:先ほど話したように、お客様社内である程度戦略を検討したうえで相談いただくので、実現する為にどういう構造・骨格・表層が最適かをお客様と一緒に考えていきます。
一緒に考えていく中で、想定していた要件や戦略よりもいいアイディアが出た場合、手前から一緒にやり直すこともあります。
森:最適なご提案をするためには、お客様の課題の本質を理解することが出発点になります。そのためには、制作フェーズだけでなく上流工程からお客様とコミュニケーションすることを必ず実施しています。
そこで得られた情報は、自分自身だけではなくプロジェクト内でも共有し、再確認しながら進めることで、お客様と同じ目線になると考えています。
相手の立場や状況を把握して伝え方を調整したり、専門用語を使わないように説明するなど、普段のコミュニケーションも広義のUX
プロジェクトチーム内やBAチーム内でのコミュニケーションを促進するために、どのような工夫をしていますか?
森:業務においては、完成度を求めずに進捗共有のペースをあげることで、プロジェクトメンバー間の接点を増やすようにしています。成果物の完成度よりも、いち早くメンバーにイメージしてもらうことや意思決定のスピードを意識しています。
今後はプロジェクト発足時に、自分の経験や期待されていることをチーム内で共有したいと思っています。
リモートでのコミュニケーションが取りやすくなるように、お互いを知ることで相談しやすくなり、プロジェクトがうまく進むと考えています。
野田:ほんまにそうだと思います。チーム内でお互いをよく知るって大切ですよね。
私のチームも、一人で成果を上げることではなく、チームでより多くの価値を提供することを目標にしています。なので、チームメンバーがお互いにフォローし合い、得意不得意の凸凹を合わせながら全員が成長できるように、プロジェクト毎にメンバーの組み合わせを検討しています。
独り立ちできるまでは当社の経験豊富なメンバーと一緒にプロジェクトに入りますし、チーム内ではほぼ毎日、相談・確認の時間をとっています。
正木:いいですね。新しく入ったチームメンバーも、野田さんチームのようにフォロー体制がしっかりしていると安心ですね。
私は言葉でうまく伝えられない場合は図におこして伝えるようにするなど、どのような立場の人も正しく共通認識が持てるようなコミュニケーションを意識しています。
また、私が携わる案件の傾向として、他業種メンバーとの協働が多いので、専門用語はできるだけ平たくして言語化するように工夫しています。
お客様とのコミュニケーションでは、どのような工夫をしていますか?
正木:私は、自分とお客様の発言の意図を明確にし、エンドユーザー(消費者)を第一に考えた際のあるべき姿と、お客様がやりたいことの距離を都度測るようにしています。
さらに、目標を達成するために何にどう取り組むのか?目標と施策を繋げて提案することが必要であり、やりがいがあると考えます。
森:プロジェクトに取り組む目的や、お客さま自身の立ち位置、状況を事前に把握するようにしています。特に設計やデザイン領域は専門用語が多いので、分かりやすい言葉を使うように意識しています。
野田:お客様の状況に合わせたコミュニケーションは大切ですよね。同じデザインを説明するとしても、伝える相手の立場や、どの部分を理解したいと思われているかを踏まえて組み立てるようにしています。
また私のチームはデザインレビューの機会が多いので、論理的にデザインを説明できるようにしています。
編集後記
今回はUXデザイナーの3人に対談いただきました。
正木さんの「1から10まで全て教えてください!ではなく、自分の理解を整理して資料化し、初日にお客様と認識のすり合わせをすることで、最初からお客様と同じ目線になるようにしています。」という姿勢もすごいなあと思いました。普段から相手の気持ちや行動を何通りも考えていることが、自然と行動に現れるのでしょうか。
今回3人にインタビューする中で、「お客様の発言の目的(意図)を明確にする」「自分の担当領域を限定しない」など、事業部長が話す当社のディレクター像(前編、後編)との共通点が多いなと感じました。気になる方はぜひ、上記記事もご覧ください。
後編では、UXデザイナーって何?どんな人が向いているの?という疑問を3人にぶつけています。お楽しみに!
BAのUXデザイナーは何をデザインしているのか?(後編)関わる人みんなの体験をデザインする | BAsixs(ベーシックス)