今年のGAAD JAPANは、2025年5月15日(木)!
毎年5月の第三木曜日はGAAD (Global Accessibility Awareness Day)と題し、世界各地で デジタル分野(Web、ソフトウェア、モバイルなど) の「アクセシビリティ」を考える一日です。日本を含む世界各地でさまざまなイベントが行われています。
日本では、GAAD JAPAN 2025として、Webやモバイル、ゲームの「アクセシビリティ」をテーマに一日中イベントが開催されました。今年は早々にイベントの参加登録が1,000名を超え、日本各地でライブビューイングも開催され、各地でアクセシビリティの啓蒙を推進する一日になりました。
ウェブアクセシビリティは、2024年の障害者差別解消法の改正だけでなく、SDGsや国が掲げる「誰ひとり取り残さない社会」という考えのもと、年々注目が高まっています。Business Architects(以下、ビジネス・アーキテクツ)でも、今年も多くのメンバーが視聴しました。私たちの日々の業務でもアクセシビリティに関する業務の需要が高まっていく中、イベントセッションを通して感じたことなども織り交ぜ、6名のメンバーのセッション視聴レポートを紹介します。

セッション1:色のアクセシビリティ入門 〜すべての人に見やすいデザインを
【登壇者】
- 伊賀 公一(いが こういち)氏
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
セッション概要
本セッションでは、「色とは何か、色覚とは何か」色についての基礎知識を中心に「カラーユニバーサルデザイン(以下:CUD)」について考え、実例を用いて「すべての人に見やすい色使いを実現する方法」についての紹介がされました。
色を感じとり、見分ける力「色覚」
色覚は、目の中にある錐体細胞が関係しています。赤い光を受け取る「L錐体」、緑の光を受け取る「M錐体」、青の光を受け取る「S錐体」の3種類があり、これらを組み合わせて色の識別をしています。しかし、この錐体が一部機能していない場合、赤色と緑色が同じ色に見えて色の識別が難しくなります。このような見え方の違いを近年では「色覚の多様性」といいます。見え方が違うことで日常生活や情報取得において影響を受けることが多くあります。
色の識別が難しい人は、日本人で20人に1人、ヨーロッパやカナダでは8〜10人に1人、アフリカでは50人に1人の割合で存在します。日本では男性に多く見られる遺伝で、全人口の約3.5%ほどの割合で存在しているといわれています。
すべて全ての人に見やすい配色を目指す考え方「CUD」
目が見えない人には音声を読み上げて情報を伝える、耳が聞こえない人には目で見てわかるように情報を伝える、色覚が違う人には色だけではなく文字や形、線の種類や模様で情報を伝える、とよいといわれています。しかし、正常色覚の人であっても色は0.2秒で識別できるのに対して形や文字は識別するまでに1秒かかります。そのため、色彩の多様性に配慮した配色を行い、誰もが見やすい配色でデザインを提供することですべての人が見やすくわかりやすい情報を取得しやすくなります。
すべての人が見やすい配色とは
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(以下、CUDO)は、実際に色弱の方がどのように色が見えているのか、誰もが見やすい色とは何色なのかを研究しました。
例えば、黒色の文字で文章を作成し、そこに赤色(C0 M100 Y100 K0)の背景で文言を目立たせる例があります。
正常色覚の方は、注目してほしい箇所なんだろうなとすぐに想像できます。しかし、色弱の方は赤色が黒色に似た色に見えるため色の識別が難しく、情報が読み取れなくなることがあります。改善案として、黒色の文字に赤色に近い赤橙色(C0 M75 Y100 K0)の背景色を用いると黒色の文字が浮き出て見えるため、色弱の方にもこの情報は注目してほしい箇所であることを伝えられるとわかりました。
このように、少し色味を調節することで色弱の方にも色の識別ができるようになり、正しい情報を伝えることが可能となります。CUDではどんな色覚を持っていても同じ方法を用いて情報を得られることが重要です。ちょっとした色の工夫をすることで誰もが情報を取得しやすい環境となります。
CUD推奨配色と実例
色弱の方には色の識別が付かず、正しい情報伝達が行われない例として以下があります。
- 道路の混雑情報やバスの路線図など、さまざまな色を用いて情報を伝えることが多いマップ
- 必須項目を赤文字にして重要性を伝えようとするとフォーム入力
CUDOが作成した「CUD推奨配色セットガイドラインブック」には、正常色覚の方が見えている色が色弱の方が実際にどのように色が見えているのか、どのような配色であれば見やすいのか、塗装用・印刷用・画像用で使える配色の情報を記載しています。
実際に気象庁のアメダスでは、CUD推奨配色に従って配色しているため、誰もが情報を得やすい状態となってます。また、近年では学校の教科書や道路標識や避難誘導の案内にも起用されており、さまざまなところで改善が図られています。
WebアクセシビリティとCUD
Webアクセシビリティでは、文字と背景のコントラスト比 4.5:1 を確保することを求められています。そのうえで色覚に配慮した配色を行う場合は、下記の注意点が必要となります。
- 色だけの指示ではなく、文字や記号を用いて補足情報を伝える
- 赤橙や橙を赤の代わりに使用し、太文字で表示する
- 鮮やかな青や青紫など識別しやすい色を赤色の代わりに使う
- 色で分類を示す場合にCUD推奨配色を使う
「誰もが自分の色覚に自信を持てる社会を」目指して、すべての人が見やすく、わかりやすい配色で情報を提供することが、色のアクセシビリティにおいて求められています。
セッション所感
視覚に関するアクセシビリティと聞くと、視力に対する配慮が求められているという印象が強く、本セッションを通じて視力だけではなく「色覚の多様性」に対する理解と色の識別もアクセシビリティの関係性について理解が深まりました。
以前、子どもと関わる仕事をしていたときに色を伝える場面では「これは赤」「あれは青」といったように、自分が見ているものと子どもたちが見えているものは同じ色であり、同じ情報を得ていると、当たり前のように色を伝えていました。特に乳児期には、赤橙や青紫など色の名称が複雑なものは避けて、青・赤・黄色などといった基本色を使って場所を伝えることが多かったです。しかし、今思えばこれは色覚が正常であることが前提だからこその色の選択であり、全く配慮していませんでした。日本人は色弱の遺伝子を持っている人口の割合が少ないこともあり、配慮に欠けていたのも要因の一つかもしれません。
実例でもあるように、日常生活において色を使って情報を伝えていく場面は多く重要な役割を果たしていますし、実際に私自身も色を使って情報を伝えることは多くあります。ひとつの色の選択が、誰かの情報取得に大きく左右することを学び、どの環境にいても同じ情報を習得できるように配慮する必要が求められていると感じました。
現代はインターネット社会といわれており、オンラインで情報を得る・買い物をするなど生活の基盤になっており欠かせないものになっています。だからこそ、「すべての人に伝わる色使い」や「CUD推奨配色セット」を周知させて、情報が誰にでも伝わりやすい・わかりやすい環境を整え、提供する必要があります。色覚の多様性とアクセシビリティの関係性を理解し、すべてのユーザーにとって見やすく理解しやすいWebサイトを目指していきたいです。
セッション2:アクセシビリティに投資しないと後悔する理由〜データで見る企業のリスクとチャンス
【登壇者】
- maddy/杉吉真奈(までぃ すぎよし まな)氏
株式会社グッドパッチ フロントエンドエンジニア・ウェブアクセシビリティスペシャリスト
セッション概要
本セッションについては、株式会社グッドパッチのフロントエンドエンジニアでウェブアクセシビリティスペシャリストのmaddyこと杉吉真奈さんが、以下の4項目について話されました。
- WHO:manddyは誰なのか?
- WHAT:アクセシビリティとは?
- WHY:なぜアクセシビリティに投資すべきか?
- HOW:グッドパッチの取り組み方は?
この中の3番目「WHY:なぜアクセシビリティに投資すべきか?」のパートでは、アメリカやEUでの法律のほか、実際に起こされた訴訟事例について紹介されました。アメリカではアクセシビリティに関する法律(ADA)違反の件数は、2024年は4,000件以上あり、そのうちWeb関連は1,202件。和解金の平均額は日本円で約73万円〜292万円だったそうです。なかでもNetflixの訴訟事例では、Netflixが「クローズドキャプションを提供していない」として訴えられ、和解金として約1億1,023万円を支払ったそうです。また、和解金の支払いだけでなく「カスタマーサービス担当者への研修実施」なども和解の条件に挙げられており、金額だけでなく人的リソースにも大きな影響が出たことがうかがえました。
セッション所感
セッションの中で特に気になったのは2つです。
1つ目は、Netflixをはじめとするアメリカでの訴訟の多さと巨額の和解金です。日本国内ではまだ「合理的配慮の義務化」にとどまっていますが、世界的な潮流を考えると近い将来アクセシビリティに対するより厳しい罰則が適用されることは明らかで、訴訟リスクが増大していくのは確実でしょう。特にBtoCビジネスを展開している企業にとっては、早めに対策を講じておく必要がありそうです。
2つ目は、対策が後手に回ることで発生するコストです。「問い合わせがあったら都度対応する」という姿勢では、常に緊急対応にならざるを得ないために
- 人的リソースを圧迫する可能性がある
- 緊急対応によるコストが通常対応よりも高くなる可能性がある
ということです。こうしたコスト面だけでなく、訴訟による「ブランド毀損」や「企業の信頼失墜」といった影響も計り知れません。私たちWeb制作会社は、誰もが不自由なく情報を取得できるようにするために、アクセシビリティの知見を高めていくことが非常に重要だと感じました。
セッション3:アクセシブルなツールと活用と事例と祭典で得たもの
【登壇者】
- 板垣 宏明(いたがき ひろあき)氏
NPO法人アイ・コラボレーション神戸 理事長
セッション概要
このセッションでは、アイデアソン・ハッカソンから生まれたアクセシブルなツールやサービスについての紹介と、2024年まで開催されていたアクセシビリティの祭典で得たものについて話されています。(2025年からアクセシビリティの祭典は充電期間とされています。)
サービスやツール紹介は、それぞれのサービス・ツールが生まれたきっかけから、出来上がるまでの説明、紹介動画を交えての説明が行われました。
- アクセシブルなツールやサービス
- Accessible Code(アクセシブルコード)
- NaviLens(ナビレンス)
- モノトドーク
- アクセシビリティの祭典で得たもの
Accessible Code(アクセシブルコード)
視覚障害者、ディスレクシア(読字障害)のある方、外国語話者など、情報取得に困難を抱える人々に向けて、商品パッケージ上の情報を音声や多言語で提供するための2次元コードソリューションです。アウトプットされた製品についての詳しい情報も紹介されました。
【サービスについての補足説明】
情報バリアフリーを実現するための革新的なソリューションとして、医薬品や食品などのパッケージに広く導入されています。シオノギヘルスケアでは、解熱鎮痛薬「セデス®」シリーズなど、40以上の商品でアクセシブルコードを導入しており、ロート製薬でも胃腸薬「パンシロン」シリーズにアクセシブルコードが採用されています。
NaviLens(ナビレンス)
アプリでコードを読み取ることで、扉までの位置ナビゲートをしてくれる例が紹介されました。動画の中では、実際にEXPO 2025 大阪・関西万博で使っている体験動画での利用の様子も報告されました。万博だけでなく、国内での普及状況に加え、海外でもスペイン・フランス・アメリカなどの一部地域にも導入がされています。
【サービスについての補足説明】
視覚障害者や弱視の方々が公共空間や製品情報にアクセスしやすくするために開発された、次世代のアクセシブルコード技術です。専用アプリをインストールして読み込むことで、駅構内の移動が困る、自動改札の場所がわからないなどの困りごとを、より高性能で直感的に解決が可能となっています。視覚障害者をはじめとする多様なユーザーが、より自立して安全に生活できる社会の実現を目指して、公共施設や製品への導入を進め、誰もが情報にアクセスしやすい環境づくりに貢献しています。
本サービスは、EXPO 2025 大阪・関西万博でも採用されています。
モノトドーク(YouTube開発動画へリンク)
ベッドサイドにアームを設置し、事前に設定した任意の番号の物品を声で指示し、近くへ取り寄せるというツールです。寝たきりの方が、自身の身の回りのことを少しでも自分でやりたいという希望から、クラウドファウンディングを行い、達成しサービスが実現しました。
アクセシビリティの祭典で得たもの
過去10年にわたり開催されていたアクセシビリティの祭典についての振り返り。10年分のキービジュアルを見ながら、当時のキーワードなどを振り返りと今後の展望について語られています。
セッション所感
サービスやツールの紹介では、障害者自身が自立して行動するための補助という視点で、画期的なサービスがいくつも生まれていることを感じました。スマホなどの携帯できるデジタル端末の普及が多くの社会変化をもたらし、より多くの可能性を与えているんだなと感じました。逆にWebに限らず社会の中には、多くのものがまだまだ細部までアクセシビリティが行き届いてないということにも改めて気付かされました。
アクセシビリティの祭典として、これまでのアクセシビリティの普及に長く続けて尽力されていることが素晴らしいなと感じました。私も、社内でアクセシビリティ分科会の開催や社内向けに普及をする立場で、多少なりとも気持ちは理解できるのですが、継続的な発信もですが、周りから理解を得て長く続けることは簡単なことではないと思います。充電後のこれからに期待したいです。
セッション4:デジタル庁デザインシステム〜1億2,500万人を見据えたUI/UX基盤
【登壇者】
セッション概要
このセッションでは、デジタル庁が構築・運用する「デジタル庁デザインシステム」について、行政ならではの考え方や背景、そして具体的な実践例が紹介されました。
キーワードは、「アクセシビリティファースト」というフィロソフィーです。
なぜ行政がデザインシステムを作るのか。
それは、アクセシビリティの品質向上や底上げ、関係者間の共通言語・合意形成を支えるガバナンスとしての役割を果たすためだといいます。
民間企業では、時に「売上」と「アクセシビリティ」が相反する場面もありますが、行政にはそもそも「売上」の概念がありません。その代わりに、日本国憲法で保障されている基本的人権を前提に、アクセシビリティが常に優先されるべきものとして扱われているという話がとても印象的でした。
また、行政サービスの多くが共通のデザインルールで作られていけば、ユーザーは使い慣れたUI(ユーザーインターフェース)の中で迷わず手続きを進められるようになります。その結果、学習コストの削減や、手続きにかかる時間の短縮にもつながる—そんな可能性についても語られました。
プロダクトを“使いこなす”ことに労力をかけるのではなく、本当に必要な人生の判断や行動に集中できる環境を整えること。
それこそが、行政がデザインシステムをもつ意義なのではないか。
これは、民間サービスとは異なる、行政ならではの視点だと感じました。
セッションでは、こうした考え方をもとに改善されたUIコンポーネント(アコーディオン、フォーカスインジケーター、緊急時バナー)が紹介され、「どうすれば迷わず使えるか?」という視点でUIを見直す大切さを改めて学ぶことができました。
デジタル庁デザインシステムの特徴
上記の考え方に基づいて作られている「デジタル庁デザインシステム」には、大きな特徴があります。
- アクセシビリティファースト
- 最大の特徴。アクセシビリティを最優先するという設計思想
- 単なる理念にとどまらず、デザインに複数の選択肢があるときの判断基準としても機能しており、「最もアクセシブルなものはどれか?」という視点で常にUIが見直されている
- 行政機関にとっての高い汎用性と利便性
- 汎用性を重視
- 行政のさまざまな機関で共通して使えるよう、汎用性の高いコンポーネント設計やルール整備が進められている
- 政府全体で参照される標準デザインガイドラインとも連携
- 「検証可能なサンプリングシステム」として定義
- チームでの継続的な改善活動や研究、実践のサイクルを支えるための仕組みになっている
改善事例とその背景
以下は実際にセッションの中で紹介されたUIの改善事例です。
- アコーディオン
- 視野狭窄症の方や拡大鏡を使う方が開閉ボタンの位置に気づけない課題に対応
- 従来は画面右に置かれていたボタンを、情報の起点である左側に移動させることで、どんな人でも視線の流れの中で自然に気づき、操作できるように
- 「どうすれば誰もが迷わず操作できるかという視点から、できるだけ多様な利用環境を想定して直した結果」という言葉どおり、装飾的な慣習ではなく、ユーザーの現実に向き合うデザインの姿勢が印象的
- フォーカスインジケーター
- どんな背景色でも視認できるよう、明暗のある2色で構成された二重線スタイルを導入
- これにより、キーボード操作時にも「今どこにフォーカスがあるのか」が一目でわかるデザインに
- プライマリーカラーに左右されず、すべてのUIで確実にフォーカス位置が可視化されるように設計されている
- 緊急時バナー
- 色覚多様性に配慮し、従来の濃い赤文字から、CUDに対応した赤「#FF5500」を背景や囲みの色として採用
- 色だけに頼らず、形状(枠線など)でも情報の重要性を伝える工夫が加えられ、避難所などでモノクロ印刷されたチラシにおいても、「重要な情報だ」と伝わるような視覚的な手がかりが考慮されている
- 多様な環境を考慮した取り組みが印象的
セッション所感
このセッションを通じて感じたのは、「ユーザーの迷いをどうすれば取り除けるか」という問いを、UIコンポーネントひとつひとつを丁寧に検証しながら地道に解いていく姿勢のすばらしさです。
特に印象に残ったのが、次の言葉でした。
「装飾的なデザインや慣習的な配置にとらわれず、あらゆるユーザーにとって直感的で、必要な情報にすぐにたどり着けることを優先する」
この言葉は、自分自身のデザインの進め方を振り返るきっかけにもなりました。
「慣れているからこの配置」「ガイドラインに沿っているからこの色」と、どこか形式的に選んでしまっていた部分がなかったか、改めて考えさせられました。
また、現在のデザインシステムについて「まだ開発の道なかば」としたうえで、「ただ積み上げればよいと思っているわけではない。きちんと使われるものとして作っていく」と語られていたのもとても印象的でした。
これは、私たちがプロダクトを設計するうえで、常に心に留めておくべき姿勢だと思います。
作ったら終わりではなく、本当に使われ、役に立ち続けるものを作るには、問い続け、アップデートし続けていくことが欠かせない。
そうした姿勢に触れることができ、多くの学びがあるセッションでした。
セッション5:KDDIグループ全体でのウェブアクセシビリティの取り組み
【登壇者】
- 吉田 智絵子(よしだ ちえこ)氏
KDDI株式会社 パーソナル事業本部 DXデザイン本部 デザインセンター ウェブアクセシビリティ推進事務局運営 - 神森 勉(かみもり つとむ)氏
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ 広報室/アクセシビリティスペシャリスト
セッション概要
このセッションでは、KDDIのパーソナル事業本部 DXデザイン本部 デザインセンターの吉田さんによる、KDDIグループにおけるウェブアクセシビリティへの取り組みにおける体制やプロセス等の紹介や、さらにKDDIウェブコミュニケーションズ 広報室室長の神森さんによるKDDIウェブコミュニケーションズにおけるウェブアクセシビリティへの取り組みが紹介されました。
KDDIグループは、グループ全体で約220社、従業員は6万人にものぼり、通信以外にも金融、保険、電力、法人向けサービス等、事業分野も多岐にわたっています。サービスやアプリは600以上あり、これらのアクセシビリティ対応を進めるにあたり、どのような体制やプロセスで取り組んできたかを詳しく説明されていました。
体制
KDDIウェブアクセシビリティ推進事務局を設置し、そこを中心にグループ全体のアクセシビリティを進めているそうです。最初に行ったことは目標の設定でWCAG 2.2 AA準拠とされたそうです。次いでグループ内へのアンケートをとり、約7割の方がアクセシビリティの知識がないという回答だったそうで、それをもとに3ヵ年計画の中期ロードマップを策定し、具体的な取り組みを開始したとのことです。事務局には、改修実装を進めるワーキンググループ、方針や取り組みを対外的に告知するワーキンググループの2つのワーキンググループがあり、ガイドラインやマニュアルの作成、勉強会の実施、Webサイト等を通じた外部への発信等が行われています。
またQA対応の仕組みも作り、年間150件以上の問い合わせ対応もしているとのことでした。マニュアルやガイドラインだけでは理解が追いつかない場合があっても、QAの仕組みでそれをフォロー可能だと思いました。
プロセス
前述の中期ロードマップは準備フェーズ、実装フェーズ、運用フェーズの3つのフェーズがあり、昨年から3ヵ年計画で進めているそうです。すべてを一度に改修するのは現実的でないという観点から、重要度別にいくつかのグループに分解して優先順をつけ、優先度順に取り組まれているとのことです。
また、意識向上施策としてMeetupイベントを開催し、先行事例の共有、事務局の今後の方針の紹介、専門家が常駐する相談ブースを設置しての相談対応などを行ったそうです。
セッション所感
大企業によるアクセシビリティへの取り組みの具体例が、体制構築の段階から聞くことができたのは貴重な経験でした。
特にビジネス・アーキテクツのようなWeb制作会社の視点では、マニュアルやガイドライン等の成果物に意識が向きがちですが、QAの仕組み、Meetupイベントのような施策も非常に有効であると感じ、多くの学び、気づきを得ることができました。
セッション6:聴覚障害とデザインで社会を再設計する〜当事者とつくる情報インフラの実践
【登壇者】
- 方山 れいこ(かたやま れいこ)氏
株式会社方角 代表取締役/デザイナー
セッション概要
本セッションでは、株式会社方角が聴覚障害のある当事者とともに取り組んできた情報設計やサービス開発の実例を通じて、「伝える」から一歩進んだ「伝わる」社会のあり方が語られました。
単に情報を届けるのではなく、「どうすれば届くのか」という視点に立ち、見落とされがちな日常の課題を可視化し、社会の構造そのものを再設計するというアプローチが印象的でした。
想像以上に多い“聞こえにくい”当事者の存在
世界には約15億人、日本では約1,400万人が「聞こえにくさ」を自覚しているとのこと。特に加齢や環境変化に伴う難聴は誰もが当事者になり得るものであり、「聴覚障害=一部の人の課題」という先入観が大きな誤解であると気づかされました。
情報保障は“仕組み”でなく“視点”
駅での環境音を可視化する「エキマトペ:駅にあふれる音を視覚的に表現する装置」や、手話・文字を通じて電話を双方向でつなぐ「電話リレーサービス:電話で即時双方向につながることができるサービス」などの事例から、情報保障は単なる技術の導入ではなく、「相手の世界にどう届くか?」という視点で設計されていることがわかりました。
多様な“聞こえ方”に合わせたアプローチ
「ろう者」「難聴者」「中途失聴者」など、聴覚障害と一口にいってもニーズはさまざま。すべての人にとっての“正解”はなく、むしろ一人ひとり異なる前提を尊重しながら設計していく柔軟な姿勢が求められます。
セッション所感
当初、自分の想像以上に多くの人が“聞こえにくさ”に直面している現実に驚かされました。字幕や手話など、身近にある配慮はあっても、それがどれだけ実際に“伝わって”いるのかは別の問題であり、当事者でなければわからない課題が想像以上に多いことを実感しました。
方角さんの事例からは、「アクセシビリティとは仕組みではなく、相手を尊重し、学び続ける姿勢そのもの」というアクセシビリティへの向き合い方が学びとなりました。コミュニケーション設計の中で相手の背景や状態に思いを巡らせることの大切さは、デザインや情報発信を行う立場として、日常業務でも意識したい視点です。
このセッションを通して、日常の中で目にする“小さな見落とし”に敏感であり続けること、そしてそれを問い直し、アップデートする姿勢を持ち続けたいと強く感じました。
まとめ:アクセシビリティを“自分ごと”にするための第一歩として
GAADのイベントでは、セッション以外にも興味深いライトニングトークも合間に発信されており、今年は、A11y Oops Japanと題した“アクセシビリティのしくじり先輩”としていろいろな改善例の聞けるコーナーも追加されてとても盛り上がっていました。今年もアクセシビリティに関して一日どっぷりと浸かれる内容でした。今年参加を逃した方も、毎年一部の動画は後日公開されますし、来年こそはぜひご参加ください。
近年、ビジネス・アーキテクツでもWebアクセシビリティに関するお問い合わせやご相談も増え、社会での関心の高さを肌で感じています。最近ではアクセシビリティにAIの活用も検討されている話題をよく耳にします。今回のイベントで学んだことも含め積極的に業務に活かしていきたいと思います。
ビジネス・アーキテクツでは、アクセシビリティに配慮したWeb制作やリニューアルだけでなく、まずは現状の自社サイトについて状況を把握したいという方向けに「アクセシビリティ簡易診断サービス」、より詳しくWebサイトの状態を把握するために、チャレンジドユーザーにWebサイトを検査してもらう「アクセシビリティユーザーテストサービス」も行っております。ご興味がございましたら、ぜひお問い合わせください。