この5年ほどで、Webサイトが担う役割は大きく変化しています。これからのWebディレクターがどうあるべきかを、BAsixs参画企業のビジネス・アーキテクツの事業部長3名に聞いてみました。
Webディレクターの役割や、当社ディレクターの共通点から、第一線で活躍するWebディレクターに必要なスキルや経験を探 ります。さらに当社の各事業部の役割や今後の取組みまで、前編・後編の2回にわたってお伝えします。
インタビューを受けた人
- 小山第1事業部 事業部長(ビジネス・アーキテクツ)
BPOの会社でのなんでも屋を経て、2019年からBAへジョインしました。第1事業部で責任者をしております。
- 三好 研第2事業部 事業部長/シニアディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
複数の制作会社でデザインから実装、ディレクションまで幅広く担当したのち、2011年からBAに参画。オンサイトでナショナルクライアントのWebマーケティングを長期間に渡り支援している。現在は、第二事業部で12名ほどのオンサイトチームを率いながら、主にアカウントの管理と事業部の運営に注力している。
- 森下 新之助第3事業部 事業部長/シニアディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
ベンチャー企業のブランディング部門などを経て2010年にBA入社。以来、戦略立案・プロジェクト運営・情報設計を 担当している。主なプロジェクトは、国内消費財メーカーのグローバルサイト、国内自動車メーカーのグローバールスマートフォンサイト等。現在は、金融系企業にてオンサイトチームを率いて、継続的なUI/UX改善に取り組んでいる。
Webディレクターはプロジェクトを止めないことにコミットする
事業部によってお客様との関わり方が違うため、各事業部がWebディレクターに求める役割が少し違います。そこでまず、事業部毎にWebディレクターの役割や考え方、お客様との関係などを含めて、それぞれの部門について簡単に紹介してください。
小山:第一事業部は既存顧客の拡大もさることながら、新規顧客開拓や新サービスの推進が大きなミッションの一つです。当社のオウンドメディアであるBAsixs(ベーシックス)やWordPressのオススメパッケージも全て社内プロジェクトから新規顧客、外販へつながった例として挙げられます。
ここ最近はWebディレクター不足が課題です。Webディレクターに限らずさまざまなメンバーがディレクションを行なっているというのが現状ですね。
三好:第二事業部は大手クライアントのサイトプロモーション支援を行っています。メンバー各自が得意領域を持ち、その領域においてお客様と直接コミュニケーションをとっている点が特徴だと思います。
Webディレクターはロールに限定した役割と捉えておらず、デザイナーやエンジニアもゆくゆくはディレクションができるようになって欲しいと思っています。
森下:第三事業部は、お客様のサービスサイトのUXプランニング、UI制作のサポートをしています。金融領域などサービス内容やデータ管理の観点で制約の多いお客様を担当しており、チームで常駐する形態を取っています。
現在のチームはWebディレクター、デザイナーを主体とした構成ですが、WebディレクターはUI検討や実装方法検討など、サービス自体を考える業務も担当しています。
当サイトでは以下のように解説していますが、Webディレクターの方はどんな役割で、どんなスキルや経験を必要としていますか。
Webディレクター【用語解説】 | BAsixs(ベーシックス)
小山:Webディレクターは、一般的なPMと同じくスケジュール作成とスケジュールの進捗管理、品質管理の観点を持っていること、状況を把握し整理して、方向性をお客様と合意する能力が必要です。
当社のお客様はステークホルダーが多い大手企業のお客様が多いので、安心して管理業務を任せられることが求められます。
第一事業部では、基本的にはWebディレクターがPMを兼務しています。規模の大きいプロジェクトチームには、複数人のWebディレクターがおり、そのWebディレクターを束ねて管理する役割でPMを立てています。
三好:小山さんがおっしゃる通り、マネジメント(人員管理、スケジュール管理、予算・品質管理)全般はPMとWebディレクターに共通して必要なスキルですね。 また、交渉や調整能力は必須スキルだと思います。
WebディレクターはPMと違って、制作プロセスの理解が求められるので、制作経験を重視しています。
森下:小山さんや三好さんと同じく、進行管理(スケジュール管理、タスク管理など)や交渉力(契約をまとめる、お客様と当社で認識をすり合わせる)はPMとWebディレクターに共通した必須スキルですね。また、情報整理や説明をする力も大切なスキルだと思います。
情報整理や説明力とは、主に3つあります。
- 情報を整理する力
- 事象や問題から課題を導き出す力
- 物事を的確な言葉で説明する力
その上で、Webディレクターの仕事は、お客様と当社チームとの合意形成だと思います。ただ合意形成といっても、「これでいいですよね?承認をお願いします」「一度決めたので変わらないですよね」という意味ではないです。
「これは決まりですね」「現時点でこれは未確定ですね(来月決める予定なので、今は決まっていなくてOK)」「ここは検討中ですよね、どうやって進めましょうか」というように、今決められてないものも確認し合意する必要があります。
そして、ステータス(状態)に対してお客様と認識の齟齬をなくし、かつ、次のアクションを決めることが重要です。
つまりWebディレクターは、目的を達成するために推進すること、プロジェクトを止めないことにコミットします。決まっていないことも、決まったことや変更することも受け入れて、次に押し進める役割だと考えています。
Webディレクターより当領域が広いことが多いPMは、よりお客様側の承認プロセスやステークホルダーについて理解が必要です。さまざまな管理手法の引き出しをもっていることも大事だと思います。
小山:「Webディレクターは止めないことにコミットする」という表現は、分かりやすいですね。
Web制作・運用においては大きく分けるとデザインとエンジニアの2つの役割があります。その2つの現場メンバーの管理や、お客様と社内メンバーの橋渡しをするのがWebディレクターです。
「今決められてないものも確認し合意する必要がある」って頭では分かっていても、今決めたい事を優先してしまうので、どうしても後回しにしてしまいがちですよね。お客様との合意形成の時、他にどういう工夫をしていますか?
小山:合意したいことを明確に伝えること、きちんと課題管理ツールや管理表に書くことをまず行っています。
三好:小山さんのおっしゃる基本は大切ですね。打ち合わせで合意したことを議事録に残し、お客様に送って、承認を得るという合意形成の一連の流れは当たり前ですが重要です。
私たちのチームでは、市場やお客様の状況の変化が起こり得ることを前提に、お客様と合意形成しています。
小山:変わることに抵抗がないってすごいことですよね。三好さんのチームは、スケジュールのバッファの持ち方がうまいと思います。
予定通り進行しているか、現在の状況確認だけでなく、今日・明日・来週に何があるかを把握しておくことが大切と考えています。
そして先のタスクを理解したうえで、先回りしてお客様と同意をとる動きはディレクターの工夫だと思います。
三好:先々の予定を知っておかないと、先回りした動きは取れないですからね。
他には、お客さんとの打ち合わせ時に言われたことを受け入れた上で、依頼に至った意図や狙いを必ず掘り下げています。
例えば、「なぜ公開日がその日なのか?」「他のイベントやプレスリリースと連動していないか?」をお客様にも確認します。
表層的な依頼内容だけでなく、依頼に至った真の狙いを理解できれば、要件が変更になる可能性を未然に減らせます。迷った時の判断がブレず、自信をもって説明できます。
要件もスケジュールも、お客様の真意をこちらから能動的に知ろうとすることで、熱意が伝わりますし、信頼感が生まれるのではないかと考えています。たとえ請負契約だとしても、自分事として取り組む姿勢って大切だと思います。
森下:依頼に至った意図や狙いを必ず深掘りすることは、みんなが出来るようになって欲しいですね。
プロジェクトを予定通り進行するためには、プロジェクトの予定とタスクの全体像・タスク間の関係を把握した上で、どこが決定できるのか、どこが未定なのかを確認しながら進めています。
例えばお客様との議論の場では、議論のストーリーを最初から最後まで予め想定しておいて、「今日はここまで決めると想定しておき、思いのほか進捗しなかった場合はこうする」というシミュレーションができているといいですよね。
さらに「こういう指摘があるかもしれないから、その場合はこうする」と、お客様の思考の一歩先を色々なパターンで想定できれば、お客様からの質問や指摘に即座に答えスムーズに進められるので、重要な論点について議論する時間を確保でき、最適な結論を出すことができます。
とはいえ、準備したストーリーや想定パターンどおりにいかなかったり、お客様側の状況が変わることもあるので、変更があれば、変更に即したプランを柔軟に立てていますよ。
「依頼に至った意図や狙いを必ず掘り下げる」「議論のストーリーや、相手の思考の一歩先を考えて準備をする」というように、お客様からの依頼や相談を自分事として捉えて向き合ってくれる人に、相談したくなりますね。改めて、需要のあるWebディレクターってどういう人だと思いますか?
小山:マーケティングの視点やユーザー志向の観点を持ち合わせている人や、自分の守備範囲を超えて価値提供にこだわる人ですね。
三好:マーケティングの視点は最近特に求められますね。マーケティングに限らず、得意な領域を持ち、その領域においてお客様に信頼される人、 常にお客様の期待を超えようと意識して動く人と一緒に働きたいです。
先ほどお話しした先回りした動きができるためには、ディレクション能力に加えて制作領域における知見や強みをもっていること、制作の一連のプロセスを理解していることは必要だと思います。
森下:コミュニケーションスキルやマーケティングの視点も大切だと思いますが、お客様の視点、エンドユーザー(サイト利用者・消費者)の視点、開発サイドの視点それぞれで課題を考えられるディレクターは需要が高いのではないでしょうか。
それぞれの視点や事情を理解した上で、決定するための選択肢を提示でき、議論を推進して着地に導けるWebディレクターは需要があると思います。
私は以下の3点に当てはまる人と一緒に働きたいなと思います。
- さまざまな視点で物事を整理して、課題を進めるためのアプローチを考えて推進できる人
- Webの分野について広汎な知識をもって、お客様と適切な議論やアドバイスができる人
- 好奇心が旺盛な人で、仕事を楽しめる人
特にWeb業界は変化が激しいので、WebやUIの専門家としてお客様を支え役に立つためには、主体的に考え動ける人が求められていると思います。
プロジェクトを止めないためには、タスク管理とリスク管理が大切
みなさんの話を聞いていると「先回りした動き」「様々な立場の人の視点で課題を考えて話せる」「着地に導ける」これら全ては、「プロジェクトを止めない」につながりますね。タスク管理に関して、当社のWebディレクターの工夫など、具体的なエピソードを教えてください。
小山:課題管理ツールの使い方の改善はメンバーにもお客様にも影響が大きい工夫だと思います。
当社のプロジェクトでは、タスクに関するお客様とのやり取りを課題管理ツールに集約しています。お客様企業の担当者様も課題管理ツールに招待しているので、お客様との定例会議では、課題管理ツールを見ながら合意していくというスタイルが定着しています。
当社のタスク管理では、以下3つの基本ルールを守って運用しています。
- 課題管理ツールには、お客様をバイネームで登録する
- 1課題1タスクで登録することを徹底する
- お客様との定例会議では課題管理ツールをベースに進捗を確認する
現在は上記の3点がチーム内に浸透しているため、お客様を含めてプロジェクトチーム全体で公開日や進捗を確認し合意できるようになりました。
全てのお客様との定例会議で課題管理ツールを活用するよう変更したおかげで、お客様との合意形成がスムーズに進むようになりました。
三好:私のチームでも課題管理ツールの使い方を変更しました。以前別の記事(10年続くWebサイト運用支援チームに聞く、コミュニケーション効率化事例)でもお話ししましたが、タスクをお客様と共有するだけでなく、課題管理ツール経由で依頼いただくように運用を変更しました。
お客様企業でも同じ課題管理ツールを導入し、社内でも活用しているらしいですよ。課題管理ツールを使った運用を評価していただいたからだと思うので、お役に立ててよかったなと思っています。
当社内で課題管理ツールの活用ノウハウ・事例を共有している効果も大きいかもしれないですね。
森下:タスク管理はメンバーの認識合わせに必須ですよね。
認識を揃える繋がりでいうと、会議の冒頭にきちんと目的とアジェンダを説明できると、会議の参加者は議論や確認がしやすいと思います。また、議論したいことや考えていることを予め説明資料にまとめていると、スムーズに内容を理解できます。
まずは状況や課題についての理解ができること、その上でそれぞれの議論の進行や相手に合わせて、大切な部分を強調したり、不要であったり割愛すべきところを省けるとベストだと思います。
「プロジェクトを止めない」ためには、進行について予めシミュレーションしておくことが必要ですよね。進行をスムーズにするためのリスク管理について、注意していることや他のWebディレクターの良いなと思ったことなどありますか?
森下:Web制作や運用におけるリスクは、法律やセキュリティ、プロジェクト自体の遅延やリソース不足、市場やお客様の状況変化による突発対応など多岐にわたります。
具体的に例を挙げると、法改正などで対応の基準が変更になった、公開日より前に誤って公開してしまうなど、様々なことが考えられます。
想定できるリスクを予め特定して、影響度や発生する可能性を元に、優先順位や対処方針などの計画を決めれていると良いなと思います。
三好:そうですね。いかに先のリスクを認識できて、事前に手を打てるかは重要ですよね。デザイナーでもエンジニアでも職種は何でもいいですが、制作経験があると、お客様からご相談いただいた時には想定できなかったリスクを早めにつぶしたり、気を配ったりできると考えています。
小山:先にリスクを認識できるって重要ですよね。認識できるリスクそれぞれに対して、対処方法まで想定できていると心強いなと思います。
先々のリスクを把握しリスクの対応方法まで想定できる、先手を打てるWebディレクターは、頼りになりますね。逆に、過去にリスク管理がうまくできず、大変だったエピソードがあれば教えてください
森下:見切り発車ぎみでプロジェクトをスタートさせた時は、スタート時点でどういった変化がクリティカルなリスクになるか見通せていませんでした。スピード感を優先しすぎても、リスク管理が出来ない内は思ったように進まないと痛感しました。
小山:リスク管理をしっかりしたほうが、トータルで見るとスムーズに進みますよね。
私が担当するプロジェクトでは以前、お客様側のスケジュール遅れを想定してないスケジュールを立ててしまい、手戻りが発生してしまいました。お客様企業が大きいことに加え、クリエイティブに関してお客様に承認いただくため、通常の承認フローよりも承認まで時間がかかることを、考慮に入れていなかったからです。
三好:お客様企業の承認フローを考慮したスケジュール作成はとても大切ですよね。
先日、採用サイトのリニューアルについてご相談いただきました。現在スケジュールを検討しているところですが、とても影響力の大きいサイトですし、採用は中期経営計画や各部門の事業計画にも関わるので、経営層に近い方まで確認いただく必要があります。
確認期間は承認人数を考慮して余裕を持つつもりですが、そうすると設計・実装に割ける時間がとれません。様々なリスクを先読みした上で、目的達成ができる進め方を模索しています。
私の経験では、スケジュールを立てる際に上申のタイミングを事前に把握しておかないと、失敗することが多いと感じています。担当レベルではOKでも、上申するとひっくり返ったり止まる場合もありますので、ある程度の変更が発生することも織り込んで計画を立てることが重要です。
3年ほど前ですが「BAのWebディレクターとして全員が共通認識を持つ」ことを目的に研修を行いました。研修ではスケジューリングと要件定義、ヒアリングの3本柱を1年かけて学びました。研修参加メンバーのインタビュー記事も是非ご覧ください。
現役ディレクター講師"田口真行"による、Webディレクター育成研修 | BAsixs(ベーシックス)
研修後、スケジュールの引き方がうまくなったなと効果を感じました。第二事業部では、デザイナーやエンジニアも長期的にはWebディレクターの役割も担えるようになってほしいと考えており、社内にも新しいWebディレクターが増えたので、定期的に研修を開催できたらいいですね。
編集後記
前編では事業部長の3人に、当社のディレクターが普段大切にしていることや、考えていることを深ぼりしてお伝えしました。森下さんの「交渉や調整は、ある程度ストーリーや結論を考えてから挑むもの」はWebディレクターに限らず、チームで仕事をするうえでは重要な考えですね。
また、三好さんの「お客さんとの打ち合わせ時に言われたことを受け入れた上で、依頼に至った意図や狙いを必ず掘り下げる」という言葉を聞いて、だから当社はステークホルダーが多い企業から評価され、継続したお取引ができているのだなと思いました。
後編では、今後の当社の展望に踏み込んで聞いたことを紹介します。
事業部長3人に聞く、今求められているWebディレクター像は?(後編) | BAsixs(ベーシックス)
ビジネス・アーキテクツでは、お客様の達成したい事をヒアリングしたうえで、要件定義からサイト構築・運用まで一貫してお手伝いできます。お客様の状況やステークホルダーの要望も考慮しながら、柔軟な対応が出来る点が当社の強みです。
私たちの考え方と同じ想いをお持ちの方なら、きっと当社で活躍すると思います。まずはカジュアルにあなたの経験を教えてください。ご連絡、楽しみにしております。