大学Webサイトは、インターネットの拡大期であった30年前から現在まで、ブロードバンドや常時接続の普及、スマートフォンやSNSの登場などにともない、大きな変革を遂げてきました。「大学Webサイトの「これまで」と「これから」 進化の形とは(前編)」にて、過去から現在までの大学Webサイトの役割がどう変わってきたのかをお話しいただきました。
後編では、リアルとオンラインのシームレスな融合が進み、生成AIに代表される新技術が次々に登場する中、今後の10年後を見据えた大学Webサイトのミライの形について、株式会社栄美通信 代表取締役社長の関 健一氏とビジネス・アーキテクツ(以下、BA)アカウントセールスグループ兼リテンション&ディレクショングループ GMの小山、リテンション&ディレクショングループ マネージャー兼ディレクターの野島が語り合いました。
インタビューを受けた人
- 関 健一様代表取締役社長(株式会社 栄美通信)
1994年、神奈川大学経営学部国際経営学科卒業。同年、株式会社栄美通信入社後、営業部、営業管理部、営業本部を経て2023年より現職。大学で学んだコンテンツマーケティングの実用性と表現力に惹かれ、様々なジャンルのクリエイターとの共創することで生まれる表現を通して、効果的で説得力のあるコミュニケーションを目指している。
- 小山第1事業部 事業部長(ビジネス・アーキテクツ)
BPOの会社でのなんでも屋を経て、2019年からBAへジョインしました。第1事業部で責任者をしております。
- 野島第2事業部 マネージャー/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
2008年にビジネス・アーキテクツに入社。システムエンジニアとして中規模以上のシステム設計・システム開発を担当。現在はそのバックグラウンドを活用し、サイト構築案件から運用案件まで様々な案件のディレクターを担当。UXとエンジニアリングの観点から顧客の課題解決を行っている。
いま大学に求められているWebサイトの新たな役割
大学案内から大学Webサイトへ 情報発信の起点を集約する動きが加速
小山:前編では、過去30年間の大学Webサイトの変遷を総括していただきました。2010年前後が大きなターニングポイントとなり、それ以降、大学Webサイトは果たすべき役割が大きく変わり、それに合わせて発信するコンテンツも変わってきていると思います。「新たな時代に入った」というお話しでしたが、具体的にはどのような動きが起きているのでしょうか。
関氏:前編でお話しをした都内の有名私大の取り組みが、今後の大学Webサイトを考察するにあたって象徴的だといえると思います。2012年からBAさまと一緒にその大学のWebサイトのリニューアルに取り組み、レスポンシブウェブデザインを採用したことはお話ししました。その大学の取り組みは、それだけにとどまらず、その時に、紙の大学案内をなくしています。300ページにも及ぶ大学案内の発行をやめて、情報発信の起点を大学Webサイトに集約することに舵を切ったのです。
ここまで思い切った試みは、現時点ではいまだ他の大学に普及こそしていませんが、影響を与えていることは間違いないでしょう。今後は紙からWebへの動きが本格化し、「大学Webサイトは大学案内と並ぶ情報発信メディア」ではなく、大学広報の中心的な役割を果たすようになっていくと考えます。
そう考えると、大学Webサイトの情報設計がますます重要になります。大学Webサイトをきちんと構築し、それを維持していけるだけの体制が整っていない大学も、まだ数多くありますが、すでに「大学の情報発信はWebで」の流れが加速しています。
野島:情報発信をWebに集約するという動きは、他の業界でも2010年頃から加速したと感じています。しかも、高速回線での常時接続が当たり前になったこと、スマートフォンなどのモバイル端末でいつでもどこでもインターネットに接続できるようになったことなどから、Webサイトの情報更新の頻度が急激に高まりました。
真夜中でもCMSのタイマーをセットさえしておけば情報を更新できるようになり、それまでなら1日1回程度の更新だったのが、鮮度の高い情報をタイムリーに発信することが求められ、企業広報だけでなく広告やマーケティングなどにおいてもWebサイトが重要な役割を果たすようになってきました。
関氏:いつでもインターネットに繋がっていて、いつでも使えるのが当たり前となったことの影響はとても大きいと思います。今の高校生は、みな生まれたときからパソコンもインターネットもあるいわゆる「デジタルネイティブ」な世代です。大学について何かを知りたいと思ったら、すぐにインターネットで調べます。能動的に情報を取ってくるのです。
小山:だからこそ、しっかりと大学Webサイトを構築し、情報発信をしていかないと、「受験生が大学を選ぶ」時代には生き残ることが難しくなってきているなと感じます。
関氏:きちんと情報設計をして、内容も吟味して大学Webサイトを構築しなくてはならないというのは、まさにその通りだと思います。本来であれば、きちんと時間も費用もかけて、つまりきちんとした「投資をして」大学Webサイトを構築しなくてはならないのに、そこを正しく理解している発信者は、それほど多いとはいえないのが実情です。
大学Webサイトの新たな役割。「タッチポイント」と「魅力的なコンテンツ」の創出
小山:この先は、デジタルネイティブだけでなくスマホネイティブ、さらにはAIネイティブの高校生たちが増えてくるでしょう。情報発信という視点で考えると、彼らの方がはるかにうまく、影響力もあります。例えば、今やどの大学でも力を入れているオープンキャンパスに関する情報発信でも、大学自身が大学Webサイトを通じて情報を発信するより、ひとりの高校生がオープンキャンパスに行って「とっても良かった」と投稿する方が、はるかに広く深く他の高校生にリーチします。
そうした中で、これからますます大切になってくるのは、逆説的ですが大学Webサイトでの正しい情報発信だと思います。SNSでの投稿をきっかけに、その大学のオープンキャンパスに興味を持った高校生が、「どんな内容なのだろう」と大学Webサイトにアクセスすることもあるでしょう。そのときに、大学Webサイトで正しい内容がわかりやすく魅力的に伝えられているか、きちんと情報設計されて発信されているか、これは重要なポイントになります。
関さんが、さきほど情報設計が大切になっているとお話しをされましたが、まさにその通りだと思います。きちんと情報設計をして、正しい情報をわかりやすく魅力的に伝えること、それが大学Webサイトに求められていると感じています。
関氏:大学におけるWebサイトの役割は大きく変容しました。情報通信量は2010年から2020年で約33倍に拡大したとされ、モバイルでの常時接続が前提となり、その接続性は年々拡大しています。先のオープンキャンパスに関する投稿の例のように、受験生はインターネット上やSNS上を飛び交う「集合知」を利用してより良い大学選びが可能となり、集合知をもとに受験生が得た優れた体験がたちまち共有され、新たな集合知が生まれていくという時代です。
これまで以上に多くの情報を持った受験生がWeb上で受験校を選び、オープンキャンパスに訪れるとすると、情報を多く持っていればいるほど期待も大きくなり、その期待通りの体験ができれば感動も大きくなり、反対に期待したほどではないと失望も大きくなるでしょう。期待通りの体験をした学生の投稿がさらに多くの受験生に共有され、新たな受験生を生み出すという循環を考えると、大学Webサイトの役割はその大学への関心を高めるきっかけをいかに多く作るか、つまり受験生との「タッチポイントの創出」と、受験生のインターネット上のコミュニティの中でその大学に関する話題が湧き出てくるようなシーズの創出、言い換えると「魅力的なコンテンツを作ること」に尽きると思います。
今や受験生は、さまざまな時期やきっかけを経て大学Webサイトを訪問します。その主体はもはや大学ではなく、受験生本人です。大学Webサイトには、受験生のカスタマージャーニー全体を俯瞰的に捉えて、その接点が与えるインパクトを強く意識して設計し、インタラクションを強化させることが求められるでしょう。その手段としては、例えばパーソナライズドコンテンツの提供、インタラクティブなエンゲージメントツールの活用といった、さまざまな方法があると思います。選択肢は増えています。
大学や専門学校はそもそも教育機関です。大学Webサイトには、入学前に受験生と信頼関係を築く役割、受験生に自己実現の手段や情報を与える役割なども求められます。単なる情報の掲示板からスタートしたWebサイトは、そのような機能や可能性をもつものへと進化していっていると思います。
大学は、どのような情報をどう配信していけば良いのか
大学Webサイトには欲しい情報への辿りやすさ、「ECサイト」のような出願しやすさが求められる
小山:確かに今の受験生や高校生は、スマートフォンの画面でパッと見て、瞬間的に自分が求めている情報かどうかを判断し、要らないと感じたら、その情報が正しいかどうかは別にして、さっと削除したりスクロールしたりしてしまいます。しかも、ITリテラシーは決して低くはないので、正しい情報は大学Webサイトで取得し、SNSなどを通じて得る情報はあくまでもその大学への興味を喚起するもの、もしくは情報を補足するものという意識をしっかりと持っています。
そうしたことを前提にしたうえで大学は、どのような情報をどういった形で大学Webサイトを通じて配信していけば良いのか、これは今後もずっと考えていく必要のある課題だと思います。
野島:大学Webサイトには、大学生、大学の教職員、受験生、高校生、保護者といろいろな人たちがアクセスしてきます。確かに大学生、受験生や高校生などはスマートフォンで閲覧することが多いと考えられますが、スマートフォンに特化して作れば良いかというと決してそうではありません。スマートフォンファーストではあっても、パソコンでも見やすく作る必要があります。
また、検索エンジンからアクセスしてくる人は必ずしもトップページではなく、階層が下のページにダイレクトに到達することも多くあります。どのページに入ってきても、迷うことなく目的の情報にたどりつけるようにナビゲーションを考えたり、「行き止まり」になってしまうページがないようにと設計したりと、工夫をしています。
小山:関さんのお話しを伺っていて、やはり大学Webサイトは奥が深いと改めて思いました。都内の有名私大の大学Webサイトのリニューアルのときにお声がけをいただき、最初に関さんから言われたのが、「大学WebサイトはECサイトだよ」ということでした。これは、決して受験生や高校生がインターネットで買い物をするように安易に大学を選び、出願しているという意味合いではありません。最初はピンとこなかったのですが、関さんの「今も昔も受験生は本当に真剣に大学を選んでいる、だからこそ大学Webサイトには正しい情報発信と欲しい情報への辿りやすさ、そして、ECサイトでカートに入れてモノを買うようにストレス無く出願できる機能が求められている」という言葉が今でも印象に残っています。
さらに、よくよくお話しを聞いていくと、大学Webサイトには、「受験生や高校生に向けたtoCの要素」と「教職員や保護者の人たちに向けたtoBの要素」の両方があることにも気づきました。大学Webサイトには、toCとtoBのステークホルダーが混在しています。どちらに寄せ過ぎてもうまくいきせん。
関氏:さまざまな立場のステークホルダーがいること、これが大学Webサイトの特徴でもあります。その視点できちんと情報設計することが大切です。
大学や専門学校は教育機関であり、提供される「教育」そのものに「意図的で目的のある営み」が含まれます。教育の目的とは何か。良い教育とは何かを常に議論することが必要であり、それを放っておくと指標そのものが目的となり、優秀さや効率性への追求が教育の目的になりかねないと、教育哲学者のホワイト博士は言っています。
その視点で考えると、大学Webサイトは単に情報発信の広報ツールではなく、受験生や高校生に「どのような体験を与えられるのか」を示す役割があり、さらに、「良い教育を追い求めて議論するきっかけ」を提供する役割もあるのではないかと感じます。大学Webサイトの構築には、その視点も不可欠なのではないでしょうか。
これから10年後を見据えて必要なこと
よりセマンティックな情報設計と権威性のあるコンテンツを両輪に
関氏:大学Webサイトの今後を考えると、やはりオンラインとオフラインの境目がどんどんなくなっていくのだろうなという気がします。例えば、リアルの進学イベントを開催していても、その会場ではオンラインで説明会が開かれているような世界観です。
ひとつ事例をお話をいたします。2024年夏に行われた海外留学生のためのイベントでは、事前にWebサイトで海外の大学や国の機関、または関係機関からの情報提供を行いました。この情報はSNSなどによって多くの人に拡散され「事前学習」の場となり開催当日にもWeb上で情報拡散、情報共有が行われていました。
運用側はその起点となるコンテンツの制作などを行い、より良い情報提供のきっかけ、拡散起点を創出することに努め、それらがどれもうまく機能をしていました。約2,000人という多くの来場者がインターネットを見ながら終日、会場に留まり、新たな知の発掘に挑んでいた印象です。また、同時にオンラインでも開催し、5つのオンラインセミナーを開催しましたが、600人以上が参加したと報告を受けています。このようにリアルとオンラインの融合はすでに進展しているのです。これがますます加速するでしょう。
小山:その方向性で考えたときに、技術的な側面で気になっているのが、例えばApple Vision Proのような世界観が当たり前になったら大学Webサイトはどうなるのかということです。ゴーグルをつけるとWebサイトをはじめとするさまざまなデジタルコンテンツが空間に浮かんで見えて、それらを自由に操作しながら現実空間とシームレスに融合させて扱えるようになります。
空間の中でオンライン授業を受講していて、その前にはデジタルノートが浮いていて、さらに脇ではWebサイトが開かれているような世界が広がる…。受験生や高校生がそういった世界の中で大学Webサイトにアクセスしてくるようになるとすれば、そのときどんな情報設計が求められ、どんなコンテンツが必要となるのか。大学側の意見や考えも聞きながら、一緒に考えていきたいです。
野島:リアルとオンラインの融合と同時にAIの活用もさらに進むでしょう。大学WebサイトというよりもChatGPTのようなインターフェースで、受験生や高校生が知りたいことを入力すると、最適な答えを返してくれるようなイメージのものになっていくのではないかという意見もあります。
小山:生成AIなどの活用が進展してくるとなると、Webサイトに記述された内容をAI、つまりコンピュータが正しく理解できるようにセマンティックに構築する必要性がますます高まっていきます。W3Cのコーディングのルールに準拠すること、Googleが推奨するルールに準拠して記述するといったことがとても重要になると思います。
もうひとつは、やはり権威性のあるコンテンツをきちんと掲載し続けることが大切になってくると思います。この2つのことは大学Webサイトを作る側としては、突き詰めていかなくてはならないと感じています。
関氏:リアルとオンラインのさらなる融合、生成AIをはじめとする最新技術の活用と考えると、確かにセマンティックに作ること、しっかりと内容の正確性が担保された権威性のあるコンテンツを作ること、これらの重要性はますます高まっていきます。
やはり、BAがセマンティックに情報設計をして、当社が権威性のあるコンテンツによるマーケティングの領域で大学をご支援する、この両輪で走っていくのが今後も重要になっていくと感じています。
小山:本日は大変示唆に富んだお話しをありがとうございました。
学びをミライへとつなぐ デジタル教育プラットフォームへ
前編と後編にわたってインターネットの黎明期から現在までを振り返り、大学Webサイトに求められてきた機能や役割の変遷について考えてきました。そこから見えてきたことは、大学Webサイトは、これまでの「情報発信ツール」ではなく、受験生や高校生が自ら能動的に情報を入手し、活用するためのデジタル教育プラットフォームへと進化しつつあるということ。
デジタルネイティブ世代の情報収集行動が変化していく今だからこそ、大学Webサイトには受験生や高校生、さらには大学在校生たちにとって、未来に向けた自己実現の道を探るための信頼性の高い情報源であり続けることが求められています。同時に、セマンティックな情報設計と権威性のあるコンテンツの両輪で、学びをミライへとつなぐデジタル教育プラットフォームへと進化させていく取り組みが必要といえそうです。