生成AIをどのように業務へ取り入れていくべきか、多くの企業が今まさに模索しています。
「使ってみたいけれど、どこから手をつければいいのか分からない」「成果につながるイメージが持てない」といった声も多く、利用者と非利用者のあいだで温度差が生まれるケースもあります。
一方で、早くから試行を重ねた企業では、資料作成やマーケティング施策の効率化など、確かな変化も見え始めています。今は「導入するかどうか」ではなく、「どう活かすか」を考える段階に来ていると言えるでしょう。
Business Architects(ビジネス・アーキテクツ、以下BA)では、生成AIの可能性をより深く理解し、実践につなげるために「AI分科会」を定期的に開催しています。この分科会には、データ分析やマーケティング、コンテンツ制作、契約処理やアカウント管理など、異なる業務を担当するメンバーが参加。基礎学習からプロンプト設計、記事執筆や分析といった実務から生成AI利用ガイドブック制作まで、多角的なテーマに取り組みながら業務現場での活用ノウハウを磨いています。
本記事では、そんなAI分科会の活動を通して見えてきた、BAの生成AI活用の実践を紹介。異なる分野に専門性をもつメンバーによる対談を通じて、学びのプロセスや活用事例、そして試行錯誤の中で見えてきた“AIとの向き合い方”をご紹介します。

インタビューを受けた人
![プロフィールアイコン(イラスト):マーケター 飯塚]()
- 飯塚セールス&マーケティンググループ/マーケター(ビジネス・アーキテクツ)
システム開発会社で金融プロジェクトに配属し、6年勤務したのち、社内システムエンジニアとしてデータ見える化、社内DX、業務効率化を担当。2024年にビジネス・アーキテクツへ入社し、セールス&マーケティンググループでマーケターとして業務稼働の見える化や、GA4のデータ分析に携わっている。
![プロフィールアイコン(イラスト):マーケター 田代]()
- 田代セールス&マーケティンググループ/マーケター(ビジネス・アーキテクツ)
広告代理店にてマンションデベロッパー、人材派遣の広告・マーケティング業務に携わった後、システム開発会社にて製薬会社や生命保険会社のマーケティング支援に従事。エンドユーザーに対してWebやメールを活用してのコミュニケーションの運用、改善、最適化などを中心に業務を担当。直近ではオウンドメディアの編集長として自社への引き合いを増やす役割を担った。
![プロフィールアイコン(イラスト):ディレクター 富本]()
- 富本セールス&マーケティンググループ/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
地元・愛知の印刷会社や広告会社にてディレクター・フロントエンドエンジニアとしてWeb制作に携わる。2014年頃、フロントエンドエ ンジニアとしてBAに入社。現在、自社コーポレートサイトやオウンドメディアのマーケティングに携わっている。また、長期にわたりウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のWG4への参加も。好きなキャラクターはリラックマ。
![プロフィールアイコン(イラスト):アカウント 藤本]()
- 藤本セールス&マーケティンググループ(ビジネス・アーキテクツ)
大手BPO、人材ビジネス会社でリクルートアドバイザー、キャリアアドバイザーを担当、その後営業支援チームの立ち上げに携わる。2020年BAへ入社、DC事業部アカウントのサポート業務に従事。
生成AIを研究してみて最初に感じた可能性と不安
まずみなさんが生成AIに初めて触れた際の印象や可能性、不安に思ったリスクについて教えてください。
飯塚:最初に生成AIに触れたのは、前職の上司から「ChatGPTが話題だよ」と聞いたときでした。文章や画像を自動で作れることに驚き、業務効率化の可能性を感じました。
今ではAI分科会の活動を通して、メール作成や記事執筆、データ分析など幅広く活用しています。
一方で、データの悪用や著作権侵害といったリスクもあり、便利さと不安が表裏一体であることを実感しています。
富本:飯塚さんが感じた驚きと慎重さは私も同じでした。生成AIが自分より広い視点で文章をまとめてくれることに感動しましたが、情報の正確性や参照元の信頼性には不安を覚えました。
実際に、記事構成や言い換え提案で使う中でも文脈がズレることもあり、生成AIを全面的に信用はしていませんでした。その両方の感覚が今の使い方の軸になっていますね。
田代:前職在籍時にChatGPTをはじめて試したのですが、検索の延長のような使い方しかできず、「まだ仕事には使えないかも」と感じていました。BA入社後にAI分科会へ参加し、そこで初めて学んで使うという意識に変わりました。
当時はリスクもあまり意識しておらず、知識がないまま触ること自体がリスクだったと今は思いますね。
藤本:生成AIを意識したのは話題になり始めた頃ですが、当時の職場では利用が禁止されており、実際に触れたのは昨年の秋ごろでした。
ChatGPTを使ってGA4の設定を調べたところ、検索よりも効率的に答えが得られ、その便利さに驚きました。
一方で、設定手順が誤っている回答もあり、さらに情報漏えいに関するニュースも目にしていたため、便利な反面、付き合い方は慎重に考えなければならないと思いました。
学ぶ前に思っていたイメージと、実際に使ってみた後の印象にギャップはありましたか。
藤本:学ぶ前は「機密情報を誤って入力してしまわないか」と不安がありました。
でも実際に使ってみると、仕組みを理解すれば意外と安全に使えることが分かり、有料版では、社外に学習データが利用されない設定ができるので不安が軽減しました。
会話するようにやり取りできる手軽さも魅力で、契約書のリスク確認や記事構成、メール作成など活用の幅も広がりました。
ただ、指示(プロンプト)の内容があいまいだと回答の精度がぶれることもあります。だからこそ、結果をうのみにしないように意識しています。
指示の出し方による工夫について
プロンプトを工夫する中で、「こうすると良い結果が出やすい」というコツのようなものは見つかりましたか?また、逆に「良い結果が出ない」プロンプトはどのようなプロンプトだと思いますか?
富本:指示よりも、背景や目的、相手像を具体的に伝えたほうが良い結果が出ます。
たとえば「分かりやすくまとめて」ではなく、「初心者にも伝わるように要点を三つに整理して」と依頼すると、出力の方向性がはっきりし、精度も上がります。逆に、情報を詰め込みすぎたり目的があいまいなままだと結果がぼやけます。
結果が思い通りにいかないと「使えない」と感じてしまいがちですが、そうなると生成AIとの関係が続きません。私は生成AIに「じっぴー」と名前をつけて、相棒のように接しています。そうすると不思議と前向きにやり取りを重ねられるんです。
対話を通じて成果物を磨いていく過程で、自分の思考や表現のクセに気づくことも多く、そこが一番の学びですね。
AI分科会の中で他のメンバーの工夫を聞いたり、やりとりをする中で新しい気づきはありましたか?
飯塚:AI分科会で感じたのは、「生成AIとどう対話するか」が重要だということです。
以前は回答をそのまま受け取っていましたが、意図や疑問を返すことで思いがけない答えが得られるようになりました。
同じプロンプトでも人によって結果が違うのも面白く、メンバー同士で比較するのが良い刺激になっています。
生成AIの出力は使い方だけでなく、情報の捉え方にも左右されると実感しました。
業務に生成AIを取り入れるときの課題とその解決方法
実際に生成AIをどのような業務で利用していますか?また、業務で生成AIを使おうとしたとき、最初に直面した課題はどんなものでしたか?
田代:資料作成や表現開発、データ分析の補助などで活用しています。特にコピー案の作成は実用レベルで、プロンプトを整えれば微修正で使える精度ではないかと感じています。一方で、画像や動画生成は日本語処理の精度が不十分で、まだまだ伸びしろがありそうです。データ分析では生成AIに任せすぎず、視点補完の役割として使っています。現状は「メインではなく補助」として使い分けることで、業務の効率化を図っています。
富本:私は主に、BAsixsの記事構成や原稿の校閲、企画書の草案づくりなどで生成AIを使っています。「書かせる」というより、一緒に考えを広げる相棒のような感覚ですね。
最初に課題に感じたのは成果物の信頼性への疑念です。正しそうに見えても細部に誤りがあることがありました。そこで、生成AIの出力をベースに人の判断を加え、再度生成AIに確認や修正を依頼するフローにしています。人と生成AIの線引きを意識することで、誤情報を防ぎつつ、自分の判断でコントロールできるという安心感が生まれました。
藤本:私は最初、契約書の内容確認に生成AIを使いました。専門的な言い回しを会話形式で解釈できるのがとても便利でしたね。その後はメルマガや記事制作など文章の整理にも活用しています。
ただ、細かい指示を重ねすぎて条文が抜けるなど、プロンプト設計の難しさに直面しました。
今は生成AIに任せきりにせず、自分で整えたうえで最終チェックを依頼する流れにしています。
その課題に対して、どのように解決しましたか?また、解決したときに工夫した点を教えてください。
田代:資料を丸ごと作らせようとしてもうまくいかず、自分のプロンプトが良くないのかもしれませんが、生成AIの得意分野に絞る方向へ切り替えて使っています。たとえば、資料作成については、誰に・何を・どの目的で伝えるかを整理し、台割案を出してもらって自分の案と比較してもらっています。
抜け漏れや構成のバランスを生成AIに確認してもらうことで、第三者視点で精度を高めて行けるのではないかと考えています。生成AIの強みを見極め、人が主導して目的をコントロールすることでうまくいっている気がしますが、もっと良いやり方はないか日々検討しているところですね。
業務利用で見えてきた生成AIの「使えるシーン」と「使えないシーン」
分科会や日々の業務で生成AIを使う中で、役立った場面や逆に向いていないと感じた場面はありましたか?
飯塚:生成AIの最大のメリットは業務効率化です。
GTMの変数作成で行き詰まった際、状況を伝えるとChatGPTが提案したコードで解決でき、新しい知識も得られました。
一方で、大量の情報を一度に要約させると精度が落ちることもあり、生成AIを利用する際には目的を明確にし、段階的にやり取りする重要性を感じました。
生成AIは「答えを出すツール」ではなく、共に考える相談相手のような存在です。
富本:私は、自分の考えを整理したいときにすごく助けられています。壁打ち相手として使うと、新しい視点が生まれて思考がスッと整理される感覚があるんです。特に、複数の方向性を比較したいときに便利ですね。
ただ、専門性や正確さが求められる内容では誤った回答もあるので、人の確認は欠かせません。生成AIは「答えを出す存在」ではなく、「考えるきっかけをくれる相棒」だと思っています。
使えるシーンと使えないシーンを比べてみて、共通点や傾向のようなものは見えてきましたか?
田代:今のところ、表現開発以外では、生成AIは「作業を補完するツール」として使うのが一番パフォーマンスを発揮できると感じています。 ある程度の筋書きを自分で整理してから助言をもらう形が合っているのではないかなと。方向性の確認やブラッシュアップにちょうどいいと思っています。 一方で、コピーやキャッチなどの表現開発は圧倒的に早く、完成度も高いので、ほぼ回答としてそのまま使えるレベルだと感じています。
藤本:私も、前提を整理して伝えるほど良い結果が返ってくると感じます。文章のたたき台づくりでは、目的やトーンを明確にすると、方向性の近い出力が得られやすいです。
GA4やLooker Studioの操作確認にも便利で、検索より理解が早いのが助かります。
ただ、目的があいまいなままだと精度が下がるので、一度で完結させず壁打ちのようにやり取りすることを意識しています。
分科会を振り返って見えたこと
AI分科会を通じて変わった働き方や意識の変化
AI分科会に参加して、働き方にどんな変化がありましたか?また、その中で一番大きな学びは何だったと思いますか?
飯塚:当初は文章整形くらいしか使っていなかった生成AIも、今では記事ネタ出しや構成、データ分析の整理など幅広く活用しています。
AI分科会で特に印象に残ったのは、生成AIに対する勘違いが意外と多かったことです。
URLのページ内容を見ることができないことや、生成AIに添付した表を完璧に理解できないなど、実際に試して初めて理解できた部分が多くありました。
便利だからこそ、正しく使わないと誤解を招く、その気づきが一番の学びでした。
富本:私は、課題にぶつかったときに、まず生成AIに壁打ちをするようになりました。生成AIに投げることで考えが整理され、別の角度から見直せるようになったんです。スピードというよりは、仕事の質の上がり方が変わった気がします。
その中でも一番の学びは、考えを柔軟に持てるようになったこと。生成AIとのやり取りを通じて、自分では思いつかない視点を受け入れられるようになりました。
結果的に、自分の思考のクセにも気づけて、働き方そのものが少しずつアップデートされた実感があります。
今後、生成AIはさらなる進化が期待できますが、それに対して自分たちの働き方はどう変わっていくと思いますか?
富本:生成AIはこれから、私たちの仕事の中により自然に溶け込んでいくと思います。今は「生成AIに聞いてみよう」と意識して使っていますが、気づけば検索のように当たり前の存在になるはずです。
そうなると、人の役割は「手を動かすこと」から「問いを立てること」へと変わっていくと思います。生成AIにどう質問するか、どんな視点で考えさせるかに人の創造性が生きると思います。ただ、提案をそのまま受け入れず、意図に合っているかを見極める力は今後も欠かせません。
こうやって自分たちの働き方を振り返ってみると、生成AIを取り巻く変化は他の企業にとっても生成AI導入のヒントになると感じます。
生成AI導入を検討する企業が知っておくべきこと
もし今から生成AIを導入しようとする企業に伝えるとしたら、生成AIを導入することによってどのようなメリットがあると思いますか?
飯塚:生成AIを導入してまず感じたのは、「時間の余裕が生まれること」です。
資料作成や文章のたたき台を生成AIに任せるだけで、仕事の立ち上がりが格段に早くなります。
調べ物やアイデア出しの壁打ちにも使えるため、一人で悩む時間が減り、他の業務に集中できるようになりました。
最初から完璧を目指さず、「これにも使えるかも」と小さく試すのがポイント。
AIを「共に成長するパートナー」として取り入れることで、働き方そのものが自然と変わっていくと思います。
生成AIを「知る」から「活かす」へ
AI分科会の活動を通して見えてきたのは、生成AIは特別なスキルを持つ人だけのものではなく、誰もが自分の業務に合わせて使いこなせる「共創のツール」 だということです。
最初は不安や戸惑いがあっても、試しながら理解を深めることで、確実に業務の質とスピードが変わっていきます。
これからの企業に求められるのは、「生成AIを導入するかどうか」ではなく、「どのように自社の強みと組み合わせて成果を生み出すか」 を考える視点です。
小さな実践を積み重ねることで、チームや組織全体の働き方も大きく進化していくでしょう。
BAでは、実際の業務で培ったノウハウをもとに、生成AI導入から活用設計、定着支援まで一貫したサポートを行っています。





