株式会社ビジネス・アーキテクツでは、東京ドームシティのWebサイトのプラットフォーム構築、運用プロセスの設計、コンテンツの設計などを行いました。
本記事では、株式会社東京ドームの半田様と岩瀬様、株式会社ビジネス・アーキテクツの森がインタビュー形式でプロジェクトを振り返ります。
インタビューを受けた人
- 半田 雅弘様PRグループ長(株式会社東京ドーム/宣伝広告部)
2000年株式会社東京ドーム入社。最初の配属部署の東京ドームにてプロ野球チケット販売担当を経て、東京ドームグループのTDポイントカードシステム立ち上げに携わる。その後、熱海後楽園ホテルリニューアルプロジェクトチームにて「ATAMI BAY RESORT KORAKUEN」の開業業務にてレストラン開発、宿泊予約システム導入を担当。
2019年より現職。公式サイトの運営、SNSの管理運営、プレスリリース、取材対応などPRと名のつく業務全般を指揮する。
(大阪府堺市出身、趣味は高校野球観戦、 食べ歩き)
- 岩瀬 奈穂様販売企画グループ長(株式会社東京ドーム/営業推進部)
1998年株式会社東京ドーム入社。東京ドーム球団窓口担当を経験した後、再開発プロジェクトチームへ異動し、融合商業施設「ラクーア」の開発、開業に携わる。在籍中に、基礎研究論文「最優秀賞」を受賞し、ITとCS最前線を学ぶ為アメリカ研修へ派遣。ラクーア開発においは「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞。その後、社外広報IR担当を経て、屋内型キッズ施設「アソボ~ノ!」の開発。その後、宣伝広告部にて、公式サイトのリニューアル、新サイトリリースから運用を担当する。 2020年より現職。商品企画および法人営業を指揮する立場となる。 (岡山県岡山市出身、趣味は旅行)
- 森 太輔ゼネラルマネージャー/CDO(Chief Design Officer)/人間中心設計スペシャリスト(ビジネス・アーキテクツ)
2008年、 企業の情報コミュニケーション戦略を実現するプロジェクトを中心に、アートディレクター及びリードデザイナーとしてビジネス・アーキテクツに入社。特に日本の製造業のグローバル展開プロジェクトに長年関わっている。現在はデザイン部門の責任者も務める。
デジタル化の加速にあわせて、Webサイトの整備が急務であった
本日はよろしくお願いいたします。それでは、簡単に自己紹介をお願いします。
岩瀬様:株式会社東京ドームの岩瀬です。リニューアル当時は、宣伝広告部のPRグループWEBチームに所属しており、実務の中心メンバーとして一緒にリニューアルを行っておりました。
現在は営業推進部の販売企画グループにて、法人様向けに東京ドームシティの魅力ある商品を販売しております。業務内容は違いますが、どちらも東京ドームシティの魅力を発信できることには変わりありませんので、やりがいを感じております。
半田様:株式会社東京ドームの半田です。入社して7,8年は、野球を運営する東京ドーム部でチケット販売を担当しておりました。その後、TDポイントカードの立ち上げや、熱海へ出向しグループ施設である熱海後楽園ホテルのリニューアルプロジェクトチームとして、新ホテルと温浴施設立ち上げなどを行いました。
2019年、現職の宣伝広告部のPRグループへ異動し、Webサイトの運営から携わっています。
森:株式会社ビジネス・アーキテクツ(以下、BAと称する)の森です。リニューアル時はUXリードとして情報設計・デザインを統括しながら、要件定義フェーズから開発フェーズまで、一気通貫してプロジェクトに参画しました。
フロントに立って東京ドーム様とのコミュニケーションをとりながら、社内の制作チームを牽引しておりました。
まず、東京ドームシティのサイトをリニューアルすることになった背景を教えていただけないでしょうか。
岩瀬様:当時の東京ドームシティの公式サイトは、2011年にリニューアルを実施した状態のままでした。2012年にスマートフォンへの対応も行いましたが、TOPページのみの対応であったことなどから、2016年にリニューアルに向けて動くことになりました。
当時、社内で抱えていた課題として、下記のようなものがありました。
- スマートフォン対応の遅れ(TOPページのみスマートフォンへ対応していたが、レスポンシブ化されておらず、別URL(/sp/)となっていた)
- レギュレーションの老朽化(グローバルナビゲーションが見づらく、当時のユーザーに使いづらい仕様となっていた)
- グループサイトの分散(共通のコンポーネントがなく、各ページでデザインが違うため、東京ドームシティとしてひとつのサイトに見えなかった)
- セキュリティ・ハードウェア面への対策(見直しのタイミングを迎えていた)
- ソーシャルメディアの活用(それぞれの施設が運営しており統一したルールがなかったため、運用ルールを定めて効果的に活用したかった)
それらを解決するために、東京ドームシティの公式サイトおよび、東京ドームシティにある各施設のサイトリニューアルが必須であると考えました。
リニューアルを計画する中で、どのような点を重要だととらえられましたでしょうか?
リニューアル時の重要項目としては、下記8項目を挙げました。
- 各施設部門のブランド訴求力の向上(東京ドームシティが目立ちすぎてしまい、ラクーアやアトラクションが埋もれてしまうことなどを避ける)
- 各施設部門を包括する東京ドームシティの認知度向上
- TDポイントカード会員や営業推進部署の商品の公式サイト上での利便性の向上
- サイトの回遊性の向上
- ユーザビリティの向上(6〜7割がスマートフォンユーザーであった)
- インバウンド向けサイトの充実(国外からの利用者がコロナになるまで増加し続けていた)
- セキュリティの強化
- Webアクセシビリティの検討
「東京ドームシティ」や「東京ドーム」といった施設名で検索されることが圧倒的多いため、検索された方が「ここって面白そう!楽しそう」と、他の施設(遊園地やスパなど)に気付いてもらえるような公式サイトにしたいと考えていました。
当時設定した目標数値がございましたら教えてください。
サイトの目標数値は下記を想定していました。
- 月間セッション数・ユーザー数の増加
- 主要インデックスページ(各施設部門トップページ)の直帰率改善
それらを受けて、最終的に東京ドームシティへの年間来場者数20%増を目指していました。
スマートフォンがどんどん普及され、デジタル化の加速が進む中で、東京ドームシティの顔となる公式サイトを整えることは急務でした。
制作会社の選定は「ターゲットユーザーの研究からの導線設計の提案」が決め手
そういった課題をお持ちの中で、どのような経緯でBAへ依頼されたのでしょうか。
岩瀬様:熱い思いがあったので、他の施設のサイトをいろいろと拝見しました。世の中にはどんなサイトがあって、どんなサイトが見やすいのか。自分たちの施設のイメージにあうサイトはどんなものなのかなどを研究しました。
その中で、当時BAさんで制作されたサイトが非常に見やすく、どなたにでも受け入れられる、多様性に対応できるようなデザインになっており、頼みたいと思ったのがきっかけです。また、他にイメージに合うサイトを制作されていた会社にも数社お声がけさせていただきました。
そうして、2日に渡ってプレゼンテーションをお願いし、皆様からとても工夫をこらしたご提案をいただきました。
その中で、BAさんは課題を明確に示していただき、東京ドームシティをしっかり研究してくださったと感じました。
東京ドームシティに来てくださるお客様の動きを確認しながら、ご提案いただいたことがすごく印象に残っていて、BAさんに頼みたいなと思いましたね。
BAからの提案は「デジタルの現場力up!!」を掲げて3つの軸を設定
ありがとうございます。では、当時東京ドーム様が抱えてらっしゃった課題を解決するために、BAとしてどのようなことが必要だと感じましたか。提案内容を教えてください。
森:まず、プレゼンの前に宣伝広告部のみなさんが抱えてらっしゃる課題やリニューアルに対する想いをお伺いするところからスタートしました。
オフラインとオンラインが密接に関係しているため、メンバーと実際の現場に出向いて、どんな施設が存在し、どんな人が施設を利用しているのかを確認しました。
また、スマートフォン利用も重要なポイントの一つでもあったので、どんなタイミングでスマートフォンを見ているのかなど、ターゲットの動きを観察しましたね。
そこから、提案のテーマとして「デジタルの現場力up!!」を掲げ、サイトリニューアルにおいて必要な情報設計やデザイン、使いやすさなどを意識しつつ、大きく3つの提案を行いました。
1つ目は、東京ドームシティに遊びに来てくださった方との接触を意識し、来場機会につながるようなコンテンツと運用体制づくり。
2つ目は、コンサートなどのイベントで東京ドームシティを利用したお客様の二次利用を狙った、情報設計やUIデザインの改修、コンテンツ整備。
3つ目は、リピーターに対して、TDポイントの活用促進として、ブランドを横断したメリットの訴求です。
また、リニューアル後に運営担当の方々が運用することを想定して、長い年月の運用にも堪えられるプラットフォームの開発もご提案の内容に含めました。
岩瀬様:本当に、運用面でも助けていただいて今でも感謝しています。
プレゼンテーション時にすごく印象に残っているのが、BAさんはみなさん笑顔で楽しそうにプレゼンしてくださって、その様子からも「この人たちと一緒に働きたいな」と感じました。
私のモットーには「人は楽しんでいるときに最大限の力が発揮できる」というのがありまして、楽しんで一緒に仕事ができる会社さんとリニューアルプロジェクトを成功させたい、という思いもありました。
森:大変光栄です笑 ありがとうございます。改めて伺うと、心にジーンときました。
膨大な情報をまとめ、コンテンツを一元管理するためのプラットフォームの構築
ここからは、具体的に制作のお話をお伺いしていきたいと思います。まずは「プラットフォームの構築」の点においてどのように運用しやすい土台を作っていったのか、簡単に説明をお願いします。
森:まず構築にあたって、現在のコンテンツの棚卸しから着手しました。これまで蓄積された情報が膨大にありますので、必要な情報、足りない情報を整理しました。その中には運営担当の方々が知り得ない情報や活かせる情報などもあり、棚卸しは必須でした。
今回は東京ドームシティ全体を横断して発信する必要があるので、解像度をあげて、広い視点を持っておかなければなりませんでした。
横断して発信する情報、施設独自の情報を分類しながら、運用効率やユーザーの使いやすさ、セキュリティなどを考慮した設計・デザインに落とし込んでいきました。
情報の分類からスタートしたんですね。構築していく流れの中で、特に力を入れたポイントなどはありますか。
森:ヒアリング時にお伺いした「魅力ある施設が並んでいるのにも関わらず、知られていない」ということがずっと頭の中に残っていて、「施設をつなぐ」ことを強く意識していました。そのため、施設を横断した視点での設計は大事なポイントでした。
10以上の施設の特徴やイメージを活かしながら「自分が実際に利用するなら」という体験軸を組み込みながら、コンテンツと両立して情報設計を行いました。
もちろん、岩瀬様をはじめとした、宣伝広告部の皆様を含めたチーム内での認識を揃え、整合性の判断をするために具体的なデザインに落とし込み、プロトタイプを細かく確認していただきながら、ユーザーテストを実施していきました。
それでは、初期の段階からある程度固められたデザインを都度確認する流れだったのでしょうか。
岩瀬様:そうですね。都度説明していただいてイメージができました。社内の運用メンバーも巻き込んでいただいて、すごく有り難かったです。
複数のターゲットを考慮した情報・コンテンツの設計
発信側・受信側どちらにも配慮した情報設計
東京ドームシティのような、複合商業施設ではさまざまなターゲットに沿ったブランドや施設があるかと思いますが、どのようにして情報の優先度を決めたのでしょうか。
森:集客や売上などのさまざまな視点がありますが、東京ドーム様が注力したい施設、新たな出来る施設などを常時ヒアリングさせていただきながら、優先度を決定していきました。
ただ、発信する側の優先度もありますが、受け取り側であるユーザーのタイミングもあると思うので、発信と受信をセットで考えるようにしました。
岩瀬様:森さんが仰ったように、発信と受信の両軸で考えられているのですが、東京ドームシティや各施設のトップページには、必ず今一番載せたい情報が載る仕組みにしてくださっているんです。
おすすめ情報などの相互リンクを貼ることで、親和性の高い施設へさりげなく誘導してもらえるところも考えながら設計していただいています。
押し付けではなく、ユーザーが自分の欲しい情報をとりながら、自然にページを回遊していく流れがうまれているように感じます。
ユーザビリティの向上とブランドの品質が担保できるテンプレート設計
東京ドームシティのサイトはかなり統一感のあるデザインとお見受けしますが、BAとしてはどのようなポイントでデザインを行ったのでしょうか。
森:10以上ある施設の特徴をそれぞれ活かすという点を念頭におきながら、実際に現場の方が運用しやすい、どの施設でも汎用的に使える、拡張しやすいテンプレートを設計しました。
その上で、使いやすさという点でユーザビリティの品質向上を意識し、テンプレートにコンテンツを当てはめていきました。その中で、もちろん不足している情報や古い情報があったため、一緒に情報の精査を行いました。
施設固有の情報もありますが、今後の運用も考えて、できるだけテンプレートの中で一貫性をもった情報整理ができるように、東京ドームの宣伝広告部の方々や運営担当の方々にもご協力いただきました。
「一貫性を持った情報整理」とは、具体的にはどういったことをされたのでしょうか。
森:レイアウトや色、ワーディングの統一などを行いました。ユーザーは施設を横断するため、全体のユーザー体験をふまえた情報設計が必要でした。
岩瀬様:お知らせの色や季節のテーマカラーなど、細かい部分も一緒に詰めていきました。文字情報だけではわからない部分に色を足す場面では、全体のイメージの中から引っ張り、同じテンプレートだけれど全く違うものに見えるよう、すごく工夫してくださいました。
施設の運営担当者として出したい想いが表現出来ている一方で、ユーザーが各施設のサイトを回遊する際に、グローバルメニューやおすすめ情報の位置など、同じ場所に同じ情報が掲載されていることで、ユーザーにとって違和感のないデザインに落とし込まれています。
森:BA社内では「ハチマキと靴下を揃える」という話をよくするのですが、統一できるところは統一し、東京ドームシティ全体の世界観を出しつつも、各施設の特色を活かすよう意識しました。
岩瀬様:画像や写真でイメージが変わって見えるデザインになっているので、統一感を持ちながら各施設の顔が分かる作りになっていると感じます。
現在の運用の観点からはいかがでしょうか。
半田様:現場が出したい情報は多種多様です。テンプレート以外のことをやりたいというオーダーは、毎日のように来ます(苦笑)
ただ、こういったものは、ファッションみたいなものかなと思っています。「制服のシャツは自由だけど、バッジは揃えてね」といったルールがあることで、品位が保たれるのかなと感じますね。
テンプレートによって配置などの位置が整っていることで、ブランドはそれぞれ違うけれど関連性が意識できるという点で、デザインの統一は非常に大事なのかなと思っています。
また、東京ドームシティをブランディングしていく上では、オンラインとオフラインのどちらも同じように見せることで、一定の品質を守ることにも大きく寄与していると思います。
インバウンド需要にも対応した、訪日外国人に向けたページコンテンツ設計
インバウンド需要が増えていく中で、訪日外国人に向けたコンテンツの見せ方などはどのように設計されたのでしょうか。
森:東京ドームシティサイトがもつ膨大な情報の中で、特に訪日外国人の方が利用される施設、利用したい施設をとりまとめたデータを事前に共有いただき、設計を進めました。
多言語サイトはただの翻訳サイトではなく、訪日外国人の方が楽しく利用していただく、行ってみたくなるという切り口が大事になるかと思うので、ここでも体験軸を重要視しました。
実際に、東京ドームシティでどんなことが楽しめるか、テキストだけの情報に加えてPhoto Galleryなどを使い、視覚的なアプローチを盛り込みました。施設を違う角度で切り取って、初めて来場される方への期待感を醸成できたのではないかなと思っています。
岩瀬様:訪日外国人の方は、実は来日してからではなく、来日前に「どこに行こうかな」と調べる傾向が多いんです。そのため、公式サイトに求める情報が日本人の方と違うという前提で課題の整理を行いました。
また、「東京ドームシティに来場されたとして、アトラクションで丸一日遊ぶのか?」というと、旅行中で時間のない中、アトラクションで丸一日利用することはなかなか難しいんですよね。
東京ドームの前で記念撮影するなど、他の東京の観光名所の間に立ち寄るという使われ方をするんじゃないかという想定でした。
そのため何が体験できるのか、何があるのか、そういったものをビジュアルで表現することに重きをおいて、今回Photo Galleryを作っていただきました。
森:他には、周辺で楽しめるという切り口で表現しました。東京ドームを中心として、浅草や秋葉原、上野などの各エリアからの距離感と近隣で何が体験できるのか、東京の観光名所のマッピングも行ったんです。
岩瀬様:「日本の食」についても非常に反応が高かったので、全店舗で多言語対応しました。レストランに関しては「こんなものが食べられます!」というのを訪日外国人向けに見える化しています。
鮮度の高い情報を届けるための運用設計
Webサイトを更新する、運営担当者が気軽に発信できる設計かどうかがポイント
施設がたくさんある中で共通化を図りながら別々のものを発信する、「両立」も一つのテーマだったと思います。運用設計を進める際に、東京ドーム様で事前に決めていただいたことや準備していただいたことはありますか?
森:効果的に運用を進められるように、まずは必要とされる運用の箇所や優先度を整理していただきました。そのために、BA側では事前にヒアリングシートや管理表を準備しました。
運用の要としては接触ポイントを多くつくり、来場の機会へつなげることですので、WebサイトやSNSもただ使うのではなく、それぞれのチャンネルの役割を見極めながら適切に届ける必要があります。
広告宣伝部の方々や運営担当のみなさまにはコンテンツを開発しながら、運用体制を整備いただきました。
岩瀬様:各施設ページの運用は必ずその施設の運営担当者が行っています。お客様が楽しめるイベントの企画なども、実際の声を聞きながら実施しているのですが、そういった動きが当時はなかなかサイトに表現されていませんでした。
なぜかと言いますと、これまでは公式サイトの情報を更新する際に別部署(宣伝広告部)に依頼しなければならなかったからです。その為、どうしてもタイムラグが発生していました。
それを解決したいということもあり、SNSはもちろん、運営担当者が気軽に更新できるCMSを構築していただきたかったのです。そうすることで結果的に、テーマである「デジタルの現場力up!!」にもつながってくると思っていたからです。
「施設の運営担当者の気持ちや温度感が反映されるサイトにしたい」そんな気持ちを汲み取って、情報を精査して、運用設計を決めていただきました。この作業は、大変だったのではないかと思いますし、私自身も大変だと覚悟して取り組んでいました。
合意形成を図りながら進めることで、ステークホルダー全員が「自分事化」できる
施設の運営担当者の声や温度感を大切にするということは、各部署のヒアリングが大切になってくるかと思います。どのようにして各部署の合意形成を図っていったのでしょうか?
森:大規模なプロジェクトだったので、ステークホルダーがたくさんいらっしゃいました。広告宣伝部の方々はもちろん、上長や運営担当の方をどう巻き込むかはポイントでした。
そのため、事前にみなさまが抱えている課題であったり、リニューアルに対する期待などをお伺いしながら進めました。
もちろん、全てのご意見を反映させることはできませんが、実際に運用する人を常に巻き込んでいくことで質が向上する、大事なポイントになったと感じています。
岩瀬様:そうなんです。全ての部署にヒアリングを実施し、要望を吸い上げてくださったんです。ヒアリング時間も30分〜1時間と長くとっていただき、しっかりと聞いていただきました。
それにより、運営担当者が「自分たちも関わってサイト開発するんだ」「自分たちのサイトなんだ」と感じてくれたと思っています。
「こういう表現がしたい」「こういうサイトにしたい」など、全員の意見を聞いて、そこから取捨選択してくださったからこそ、自分が気づかない視点からのご提案をいただくこともできました。できないところは、できない理由を都度説明していただいたので、大変助かりました。
森:また、制作を前に進める上で広告宣伝部の上長の方向けの資料を一緒に作ったり、運営担当の方がイメージしやすい、具体的なデザインや実機で触れるプロトタイプを制作したりもしました。そうすることで認識のズレが減り、プロジェクトを円滑に進められたのではないかなと思っています。
岩瀬様:当時、営業メンバーからの社内的な信用度もグッと上がり、BAさんと一緒にやって良かったと思いました。
運用を効率化するためのシステム開発
プロジェクトを進めていく中で、運用をより効率的にWebサイトの更新を行うために、ルール化・システム化した部分はありますか?
森:Webサイトには、定常的においておかなければならない情報と、どんどん更新して新しくしていかなければならない情報があります。
特に、後者の更新が想定される情報群には、システム化して運用効率やサイトの鮮度を保つ仕組みが必要です。
プラットフォームづくりで大事なのは、届けたいコンテンツがいかに魅力的に発信できるか、また、それを発信したいタイミングで届けられるかという点です。今回は特にそれらに注力してシステム開発を進めました。
岩瀬様:開発段階から、更新のしやすさに注力する点において、BAさんと私たちで考え方はズレていませんでした。各施設ページは違ってみえても、更新しやすいようにテンプレートや裏側のCMSは同じ形で作ってくださっています。
弊社の場合は異動が多く、これまではCMSの整備もされていなかったので、異動によって新しい部署に着任し、サイト運用の手順を改めて学ばなければなりませんでした。
しかし、今回裏側のシステムが同じになったことで、CMSの登録方法などが定まり、異動先でもすぐに戦力として人材を使えるようになったんです。
更新の裏側がシステム化され、各施設の運営担当者が更新しやすくなったことで更新頻度が上がり、情報の鮮度を保てるようにもなりました。
狙い通りに、運用効率が上がり、情報の鮮度が保たれたんですね。
岩瀬様:はい、そうですね。
異動しても、共通したルールの中で安心して運用ができる仕組みづくり
上述の質問に続きますが、ガイドラインの中身や運用ルールについてはどんな項目を決めましたか?
森:大規模な開発だったので、デザインやコーディングのルールをまとめた制作ガイドラインや、SNSを効果的に運用するためのガイドライン、運用を行うためCMSの登録方法をまとめたガイドラインなど多岐に渡ります。
BAの考えとしては、構築して終わりでないので、公開後更新される運営担当者の方がより運用しやすい形になるようにドキュメント化させていただきました。
岩瀬様:運用ガイドラインは、本当に細かく決めていただいたので、サイトが更新しやすくなりました。例えば、デザインやコーディングのガイドラインに関しては、コーディングガイドなどもあるので、外注しやすくなるなどのメリットもあります。
ちょうど公開されて数年経っているので、まさにこの効果がじわじわと現れているころではないかと思います。笑
徹底したヒアリングで「現場で使える」ドキュメントにチューニング
ありがとうございます。こちらのガイドラインについては、どのようにして決めたのでしょうか?
森:それぞれのガイドラインのテーマは異なりますが、基本的な流れとしてはガイドラインの台割や利用される方を決めて、順次レビューさせていただきながらドキュメントに落とし込んでいきました。
制作視点の専門的な情報に偏らず、運営担当者の方に使いやすいドキュメントになっているかを意識しながら制作し、ご説明させていただきました。
岩瀬様:テーマの違う施設が多いからこそ、とても丁寧に順次レビューやレクチャーいただき、場合によっては修正していただきながら進みました。
ただ、弊社の場合は施設数が多く、それに伴い運営担当者も多いことで、いろんな質問が集まりました。そのため、運用マニュアルについてはサイトが公開して1年後くらいに最終形が完成しました。しかしだからこそ、運用してから気付いたことなども盛り込むことができました。
開発の後にもガイドラインを作り込んでいったのですね。
岩瀬様:そうですね。レクチャーしていただいたら分かるのですが、資料だけだとわからない部分などをお聞きしながら、社内で作り込んでいきました。
半田様:話に出ているように、東京ドームシティのサイト更新は、専任者だけではなく運営担当者も携わることが多いです。どこに異動しても同じ運用ルールで更新できるのは非常に効率的になったかと思います。
また、東京ドームシティ全体で表現していく中で、各施設がそれぞれやりたいことをかき集めてしまうと部署独自の特殊ルールが発生しがちです。そのため、一定の根幹となるルールブック(ガイドライン)の存在は大変重要です。
最近では、コロナ禍になり「緊急のお知らせ」機能を普段使わない人も使わなければならない場面も発生しました。しかし、ガイドラインがあったので、それを見ることでスムーズに更新することもできました。
鮮度の高い情報拡散のため、Webサイト運営と連携したSNSの活用も
ルールに則りながら新鮮な情報を伝達していくという目的の中で、SNSの運用設計も必要だったかと思います。具体的にどのような支援をしたのでしょうか。
森:SNSに関しては、「来場前のターゲットに向けて発信を行い、接触頻度・接触時間を増やし、親密度を向上する」というテーマが掲げられていました。
そのため、運用方針を策定し、各施設の既存公式アカウントを整理することから着手しました。
その後、運用時の共通ルールやトラブル時の対処方法、アカウントの新規作成時のルール、もっとも重要となる投稿内容の作り方や写真の撮り方など、制作からオペレーションにわたって支援させていただきました。
もちろん、実際に現場で確実に運用していただくために運営担当者の方へレクチャーも行いました。
発信することが目的にならないように、ターゲットのセンサーに引っかかることを念頭において、来場への機会創出することが重要なポイントだったかなと思います。
現場の担当者単位でバラバラに運用していたものを変えるというのは、Webサイトと同様に負担のかかることだったと思います。現場では、思うようにいかない状況など起きなかったでしょうか。
岩瀬様:SNSの重要性は分かっていたものの、当時は手探りで運用していた状況だったので、むしろそれらを整理いただいたという印象です。
起こりそうなトラブルなどを踏まえたルールの共有、運営担当者の気持ちを表現した施設の情報発信の方法、綺麗に撮るための写真の撮り方などを実際にレクチャーいただき、みんなが同じ方向を向いてSNSの運用をスタートできました。
サイトリニューアルにより、ブランド力の向上だけではなく、現場のデジタルリテラシー向上にも寄与
Webサイトの公開後、抱えていた課題は解決されたと感じられているでしょうか?
岩瀬様:リニューアル前に抱えていた課題は解決されたと思っています。
東京ドームシティのブランド力という意味では、ラクーアやアトラクのサイトに対しても、他の制作会社と連携して、共通のヘッダーフッターに変えていただきました。それによって、全体を通して東京ドームシティの公式サイトとして認識できるような状態になったと感じています。
コンテンツに関しては、CMSを通じて担当者自身が更新できるようになったことで更新頻度が上がり、情報の鮮度が上がったことが本当によかったです。
弊社は異動が多いので、CMSが統一された影響は大きく、異動後すぐにサイト運用が担当者として戦力になれるという、その効果もでています。自分も異動したので、特に実感しています笑
SNSや他デジタル施策との連動に関してはいかがでしょうか?
岩瀬様:SNSも公式サイトと連動して活用できており、今ではすっかり使い方が定着しています。
そして何よりも、リニューアルの最初の段階でヒアリングを丁寧に行ってくださったことで、一緒にサイト開発した感覚が社内に定着しました。
それによって、サイトに何かあったら、まずWEBチームに相談してみようという流れができたので「デジタルの現場力、上がってる!」と思いました笑
デジタルに対してのリテラシーが全体で上がってきていると感じています。
半田様:サイトリニューアル後に私は異動してきたのですが、非常にスムーズな運営が出来ているなと思っています。ただ、デジタルリテラシーが上がり、全員が使いこなせたことで、良い意味でいろんなの要望が出始めています笑
次のステップとして、目指すべきところが見え始めたのかなと感じています。
コーポレートサイト構築事例 東京ドーム様 | BAsixs(ベーシックス)
ありがとうございます。もし、ユーザーの反応などご存知でしたら教えてください。
岩瀬様:私は営業推進部に異動してから「これを載せて欲しい」という案件があると宣伝広告部に連絡し、掲載してもらっています。また、広告掲載時のユーザーやお取引様の反応を見る限り、使いやすいサイトと思ってくれてるんじゃないかな〜と思うのですが、半田さんはいかがですか?
半田様:そうですね。定点調査しないと、生の声を聞くことはなかなか難しいのではないかと思うのですが、聞こえてくる声からは「Webサイトの情報を頼ってくれている」と感じます。
東京ドームシティへ来る前の検討としての情報収集もあると思いますが、数字を見ていると圧倒的にスマートフォンでの利用率が高いので、来てからのガイドマップのような役割も担ってくれているのかなと思います。
次のステップは、コロナによる新たな需要への対応
最後に、Webサイトリニューアル後の現在の施策と、今後目指していく姿について教えていただけないでしょうか。
半田様:現在はコロナ禍で、お客様が必要とする情報も多種多様に増えてきております。
例えば、コロナ対策がどうなされているか、飲食店にアクリルパネルはあるのかなど、安心安全面での情報が求められています。また、オンラインショッピングの需要も増えてきました。
デリバリーサービスの運営など、来場しなくても提供できるサービスも増えており、施設属性のカテゴライズだけではなく、サービス別カテゴライズの必要性も感じています。
将来的には混雑状況の可視化など、DX化のようなこともテーマとして上がっています。世の中の需要が変わってきており、大きな転換点かなと思いますね。
その一方で、東京ドームの認知は高いのですが、シティとしての認知が出来ていないという点で「東京ドームシティ」とはどういう街か、お客様に伝えるためのブランディングも課題として上がっています。
コロナ対策とブランディングという両輪をしっかりと取りまとめ、作っていただいたプラットフォームを活かしながらどう見せていくか、更なるWebサイトの価値向上を考えているところです。
森:半田様が仰ったように、コロナ禍で環境が大きく変わったことによって、ユーザーのタッチポイントも変化してきたように感じています。今後、サイトやコンテンツもアップデートしなくてはならないのかなと思います。
本日は貴重なお時間をいただきまして、誠にありがとうございました。