BAsixs(ベーシックス)

BAsixsは、ビジネス・アーキテクツが運営する
「あたりまえ」をアップデートしつづけるメディアです。

曖昧な要件定義が招くWebサイト「プロジェクト破綻」の連鎖【BAプロマネとマーケ対談】

読了目安 : 8

  • 投稿日 :
  • 最終更新日 :

この記事を書いた人

プロフィールアイコン(イラスト):BAsixs編集部
BAsixs編集部

日々の業務の中で「あたりまえ」をアップデートできた取り組みを発信しています。

Webサイトの要件定義が曖昧だと、プロジェクトは破綻へ向かう。その原因は、プロジェクトの根幹をなす「時間」「費用」「組織」の三要素が、初期段階で適切に定義・管理されていないことにあります。

Webサイトプロジェクトを推進する人にとって、この破綻は他人事ではありません。プロジェクトの遅延により公開時期がずれ、事業機会を損失したり、見積もりを大幅に超える追加費用が発生し、当初予定していたWebサイト以外の施策に資金を回せなくなったりする事例は後を絶ちません。最悪の場合、プロジェクトが途中で中止となり、それまで費やした時間と費用がすべて無駄になることすらあります。

プロジェクト破綻とは、単にプロジェクトが中止になることだけを指すわけではありません。具体的には、以下のような状態が挙げられます。

  • スケジュールの遅延
    公開予定日が大幅にずれ込み、マーケティング施策や事業計画に支障が出る。
  • 予算の超過
    追加要件や手戻りにより、当初の予算を大幅にオーバーしてしまう。
  • 品質の低下
    予算やスケジュールの制約から、機能やデザインが妥協され、期待した成果が得られない。
  • 関係者の信頼喪失
    頻繁な仕様変更やトラブルにより、クライアント、開発チーム、経営陣の間で信頼関係が失われ、プロジェクトの推進が困難になる。
  • 機会損失
    新規サービスの立ち上げやキャンペーン開始が遅れることで、市場での優位性を失う。

本対談では、プロジェクト成功の鍵を握る要件定義と設計の重要性について、Business Architects(ビジネス・アーキテクツ、以下BA)3名のマーケティングコンサルタントとプロジェクトマネージャーが徹底的に議論します。専門家の知見から、あなたのWebサイトプロジェクトを成功に導くためのヒントを見つけてください。

曖昧な要件定義が招くWebサイト「プロジェクト破綻」の連鎖【BAプロマネとマーケ対談】

インタビューした人

プロフィールアイコン(イラスト):マーケター 山本
山本セールス&マーケティンググループ/マーケター(ビジネス・アーキテクツ)

South Carolina州 Winthrop University 卒業(心理学)。 広告代理店にて自動車メーカーの商品広告・マーケティング業務に携わった後、インターネットベンチャー、CRM・DRMエージェンシーにて、化粧品、マンション販売・管理、銀行、IT事業会社など様々な企業のCRM戦略策定やサイト/アプリ/メール/DMなどお客さま接点全体のコミュニケーションの最適化など、マーケティングコミュニケーション×テクノロジー×クリエイエティブ三位一体の実践的マーケティングにこだわり、多岐に渡る業務に従事する。

インタビューを受けた人

  • プロフィールアイコン(写真):シニアディレクター 野島
    野島アカウント&ディレクショングループ/グループマネージャー/シニアディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

    2008年にビジネス・アーキテクツに入社。システムエンジニアとして中規模以上のシステム設計・システム開発を担当。現在はそのバックグラウンドを活用し、サイト構築案件から運用案件まで様々な案件のディレクターを担当。UXとエンジニアリングの観点から顧客の課題解決を行っている。CompTIA Project+認定資格保持。

  • プロフィールアイコン(イラスト):マーケター 田代
    田代セールス&マーケティンググループ/マーケター(ビジネス・アーキテクツ)

    広告代理店にてマンションデベロッパー、人材派遣の広告・マーケティング業務に携わった後、システム開発会社にて製薬会社や生命保険会社のマーケティング支援に従事。エンドユーザーに対してWebやメールを活用してのコミュニケーションの運用、改善、最適化などを中心に業務を担当。直近ではオウンドメディアの編集長として自社への引き合いを増やす役割を担った。

Webサイトプロジェクトを成功に導く「要件定義」とは?

ビジネスゴール達成の羅針盤を定義する

山本:こんにちは。シニアマーケティングコンサルタントの山本です。今日は、多くのプロジェクトが直面する課題、「要件定義」について深掘りしていきたいと思います。BAのシニアマーケティングコンサルタントである田代さん、そしてプロジェクトマネージャーの野島さんと一緒に、その重要性を再確認していきましょう。

野島:プロジェクトマネージャーの野島です。現場で日々、要件定義の重要性を痛感しています。Webサイトプロジェクトを健全に進めるためにも、今日はそのノウハウを共有できればと思います。よろしくお願いいたします。

田代:シニアマーケティングコンサルタントの田代です。マーケティングの観点から見ると、要件定義は単なる仕様書作りではなく、ビジネスゴールを明確にするための戦略的なプロセスだと考えています。

「何を作るか」が不明瞭だと何が起きる?プロジェクト破綻のメカニズム

スコープクリープ、計画破綻、リソース不足の連鎖

山本:ありがとうございます。さっそくですが、要件定義が曖昧なままプロジェクトを進めてしまうと、具体的にどのような問題が起きるのでしょうか?まずはよくある失敗例からお聞かせいただけますか?

田代:はい。たとえば「会員登録機能を追加する」という漠然とした要件でプロジェクトが始まってしまうケースです。マーケティングチームとしては「とにかく登録者数を増やしたい」という目的があります。しかし、誰が、何を、どのように使うかという具体的なユーザー像や体験が定義されていないと、Webサイト開発中に次々と仕様変更が発生します。

野島:そうですね。開発現場では「どの項目(氏名、住所、電話番号など)を登録してもらうか?」「どの項目を必須・任意入力とするか?」「SNSログインは対応する?」「パスワードの再設定はどうする?」「メール認証は必須?」といった詳細が不明なまま進んでしまいがちです。これにより、最初に想定していたスコープ(作業範囲)が、開発途中でどんどん膨れ上がっていく、いわゆるスコープクリープが発生します。一度実装した部分に手戻りが発生するだけでなく、プロジェクトの方向性自体を見失うリスクも高まります。

山本:スコープクリープは、プロジェクトマネージャーにとって最大の敵の一つですよね。
では、要件定義の不備は、計画やスケジュールにはどのように影響するのでしょうか?

野島:詳細な要件がなければ、具体的なタスクの洗い出しや工数見積もりができません。その結果、タスクごとの担当者や期限が不明確になり、作成されたガントチャートなどのスケジュール表が現実とかけ離れたものになってしまいます。こうなると、プロジェクト開始直後から遅延が常態化するリスクが非常に高くなります。

田代:さらに、計画の破綻はリソース配分にも影響します。必要な人員やスキルセットが正確に把握できないため、「人が足りない」「予算がオーバーしている」といった事態がプロジェクトの途中で発覚し、プロジェクトチームの士気も下がってしまいます。

対談風景(田代の話を聞いている野島と山本)

Webサイトプロジェクトを成功に導くための3つの管理項目

プロジェクトの根幹をなす「時間」「費用」「組織」の最適化

山本:お二人の話を聞いていると、要件定義の甘さが、「時間」「費用」「組織」というプロジェクトの根幹をなす3つの要素に直接的なダメージを与えることがよくわかります。これらの要素を適切に管理するにはどうすればいいのでしょうか?

野島:まずは時間管理です。要件定義で明確になったタスクを元に、WBS(Work Breakdown Structure)を作成して、各タスクの依存関係やクリティカルパスを可視化することが重要です。これにより、進捗状況を正確に把握し、遅延が発生しそうなタスクを事前に特定できます。また、計画段階でバッファを設けるなど、予期せぬ事態に対応できる柔軟性を持たせることも大切です。

田代:費用管理も欠かせません。要件が曖昧だと、コストが不透明になり、最終的な実績が当初の予算を大きく上回ることがよくあります。これを防ぐには、要件定義の段階で「何を作るか」を明確にし、設計フェーズで「どうやって作るか」を具体化することで、必要な工数や外注費を正確に見積もることが大切です。この時、単なる費用の算出だけでなく、各コストがプロジェクトのどの部分に紐づいているかを明確にしておくことが、後々の管理を容易にします。

山本:費用管理における「予算の予実差異」は、クライアントとの信頼関係にも関わりますからね。最後に、組織管理についてはどうでしょう?

野島:プロジェクト成功には、チームメンバーのパフォーマンスを最大限に引き出す組織管理が不可欠です。要件定義がしっかりしていれば、各メンバーの役割や責任範囲が明確になり、スムーズなコミュニケーションが生まれます。また、プロジェクトの状況に合わせて、最適なスキルをもつ人材を柔軟に配置するアサインも可能になります。チームの目標を共有し、モチベーションを高く保つことも、プロジェクトマネージャーの重要な役割です。

対談風景(山本の話に耳を傾ける田代と野島)

Webサイトプロジェクト成功へのファーストステップ:要件定義の徹底

見える化、スコープの合意、リスク管理の3原則

山本:要件定義がプロジェクト成功への最初の、そして最も重要な一歩であることがよくわかりました。では、具体的にどのような点を徹底すれば、精度の高い要件定義が可能になるのでしょうか?

田代:一番のポイントは、関係者全員で要件を「見える化」することです。口頭での合意は認識のズレを生みやすく、後からの「言った」「言わない」の対立を招きかねません。要件は必ず文書として記録し、いつでも誰もが確認できる状態にしておくことが不可欠です。

野島:私からは、スコープを明確にし、文書で合意することを強くお勧めします。要件定義でプロジェクトの「やること」と「やらないこと」を明確に線引きし、合意を文書化しておけば、途中でスコープクリープが発生しても、その影響(スケジュールやコスト)を再評価するプロセスを確立できます。これは、プロジェクトを健全に進めるための自衛策でもあります。

山本:どちらも非常に重要ですね。要件定義は、潜在的な問題を事前に特定するリスク管理のプロセスでもあると聞きます。

野島:その通りです。たとえば、新しい決済システムを導入する場合、「連携先のAPI仕様が途中で変更されたらどうなるか?」「技術的な課題が発生したら?」といったリスクを事前に洗い出し、対策を立てておくことで、いざという時にも冷静に対応できます。リスク対策は、プロジェクトの安心材料であり、成功確率を大きく高めます。

田代:要件定義は、プロジェクトメンバーだけでなく、クライアントを含めた関係者全員で作り上げるもの。その意識が何よりも大切だと思います。クライアントのビジネスゴールや潜在的な課題を深く理解し、それを解決するための要件を一緒に定義する。この共同作業こそが、プロジェクトの成功につながります。

プロジェクトの成否を分ける要件定義・設計とプロジェクトフェージング

山本:田代さん、野島さん、ありがとうございました。プロジェクト成功は、この初期段階にどれだけ投資できるかにかかっています。曖昧さを排除し、明確なゴールとスコープを定義することで、プロジェクトは「絵に描いた餅」ではなく、現実的な成功へと着実に近づいていくことがよくわかりました。

最後に

集合写真(左から、山本、田代、野島)

プロジェクトの成功は、初期段階である要件定義と設計にかかっているといっても過言ではありません。この重要なフェーズに時間と労力を惜しまず投資することで、後工程での手戻りを防ぎ、スムーズなプロジェクト推進を実現することができます。

「時間」「費用」「組織」の3つの要素を最適化し、関係者全員が納得のいく形でプロジェクトを進めるには、曖昧さを排除し、明確なゴールとスコープを定義することが不可欠です。このプロセスを丁寧に行うことで、プロジェクトは絵に描いた餅ではなく、現実的な成功へと着実に近づいていきます。

「あなたのプロジェクトの要件定義は、本当にこれで十分ですか?」この問いを常に心に留めておくことが、プロジェクト成功への最初の、そして最も重要な一歩となるでしょう。

プロジェクトの進め方に不安がある方、要件定義からしっかりとサポートを受けたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。貴社のビジネスゴール達成に向け、最適なWebサイトリニューアルをご提案します。