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アクセシビリティ関連文書「WCAG」の最新状況(2022年1月時点)といろんな「アクセシビリティ方針」を見てみよう!

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富本ディレクター/フロントエンドエンジニア(ビジネス・アーキテクツ)

地元・愛知の印刷会社や広告会社にてWeb制作に携わる。2014年頃、フロントエンドエンジニアとしてBAに入社。現在、ディレクターとして開発・運用の進行管理やWebサイトのガイドライン作成やコンポーネントの設計・作成を担当しています。好きなキャラクターはリラックマ。イタリアとスイスに行きたい。

BAsixs参画企業、ビジネス・アーキテクツの富本です。

2021年5月に障害者差別解消法が改正されたことを、知っていますか?

現状の行政機関等に加えて改正法施行後は、一般の企業に対しても合理的配慮が義務化されます。2021年6月4日公布から3年以内には施行されるため、まずは基本的な情報を収集することをおすすめします。

本記事では、アクセシビリティ対応の指針となる文書と、国内外のサイトのアクセシビリティ方針を紹介します。

アクセシビリティに興味がある方、相談相手が欲しい方は、お気軽にお問い合わせください。サイト内コンテンツの調査から方針策定、運用まで、経験豊富なディレクターやエンジニアがチームでサポートいたします。

アクセシビリティ関連文書「WCAG」の最新状況(2022年1月時点)といろんな「アクセシビリティ方針」を見てみよう!

WCAGとはアクセシビリティ対応の指針となる文書

WCAGの正式名称は「Web Content Accessibility Guidelines」です。ざっくりいうとアクセシビリティ対応の指針となる文書です。

障がいの有無や母国語などに関係なく、様々な環境・状況の利用者にとって、より使いやすいWebコンテンツを提供するための指針となります。

また、コンテンツの体験や価値の向上を目指すためのUI/UXを検討する際にも指針となる考え方です。

「アクセシビリティ対応したい!」とか「UI/UX上げよう!」となったら、まずWCAGを読んでみてください。方針や指針を作るための一助となったり、考えるきっかけを得られるでしょう。

最近のWCAG(2022年1月調べ)

WCAGの発行する文書はバージョンが、2.0、2.1、2.2、3.0まで世の中にでています。

では、クイズです!

「アクセシビリティ対応したい!」となったら、WCAGのどのバージョンを使えばいいでしょうか?

特別な理由がなければ、私は「2.1」の利用を推奨します。

次に、なぜ「2.1」をおすすめするのか?を説明します。

バージョンの選定基準は3つあります。

  1. 最新バージョンの「3.0」
  2. 国際規格に採用されている「2.0」
  3. 安定バージョンの最新、「2.2」

さて、何を基準に考えればいいでしょうか。WCAGの歴史を簡単に図にまとめてみました。

WCAGの歴史

「2.2」、「3.0」については、現状まだ勧告されておらず、正式な勧告文書ではありません。つまり、残った「2.0」か「2.1」のどちらかです。

「2.0」と「2.1」の違いは、「2.1」が勧告されたときに17件の達成項目が追加されたことです。モバイル対応への強化と、弱視(ロービジョン)・認知・学習障害への対応強化を目的とした内容が追加されました。

つまり様々な障がい者のある人や、様々な環境・状況にある人、あらゆる利用者にとって、より使いやすいWebコンテンツにするためには、「2.0」より「2.1」を選択する方がよいでしょう。

なので、特別な理由がなければ、私は「2.1」の利用を推奨します。

ちなみに「2.2」は、「2.1」を内包して9つの達成項目が追加されるようです。2021年12月に勧告予定でしたが、まだ勧告されておりません。公開時期は募集している改修フィードバックの量などにより左右されます。

事例などが掲載されているWCAG2.1の補足資料

また、WCAG2.1には解説書、達成方法集という事例なども掲載された補足資料も後追いで公開されています。Webデザイナーやエンジニアなどコンテンツ制作者に依頼する際や、公開済みのコンテンツが達成しているか検証するための評価基準を作る際は、W3Cの以下ページを参照すると理解しやすくなります。

参考

WCAGのサイトにアクセスしたけど英語。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が日本語訳しています。

WCAGは英語です。機械翻訳ツールを使っても細かい部分が分からないため、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(Web Accessibility Infrastructure Committee、以下WAIC)という団体がWCAG2.1の文書を翻訳しています。私も翻訳に参加してます。

現状、達成方法集以外は翻訳が終わってるので、日本語訳を読みたい人はWAICの以下ページをご覧ください。

参考

WCAG文書の種類は原案、草案、勧告の3つ

W3C文書のプロセスは、「原案→草案→勧告」です。

草案までは、議論をするために作成途中の暫定的な内容「Working Draft」を公開し、意見を募って改修を繰り返します。

その後、標準情報の実装が可能か審議・評価し、W3Cが認める諮問委員会やワーキンググループなど組織全体から十分な支持が得られると、勧告文書として公開されます。

WCAG3.0は2024年公開予定。達成基準の評価が変わり、対象範囲はモバイルアプリなど新技術を含める見込み

現状で公開されてるスケジュールを確認すると勧告は2024年の予定です。

現在の「A、AA、AAA」という評価基準が、「ブロンズ、シルバー、ゴールド」に変わります。A、AAがブロンズにあたると予想されています。

さらに対象範囲はWebサイトだけでなく、ePubやPDFなどのアプリケーション、モバイルアプリ、その他新技術を含みます。

WCAG2.Xからの変更点をまとめているサイトがあります。WCAG3.0に興味がある人は目を通してみてください。

参考

JIS X8341-3:2016はWCAG2.0と同じ内容?

JIS X8341-3:2016は、日本産業規格(以前は日本工業規格と呼ばれていた)が定めるアクセシビリティに関する文書です。WCAG2.0の内容と同じです。

WCAG2.0は、ISO/IEC:2012(国際規格)に採用されています。日本では、2010年に日本工業規格(現在の日本産業規格)として取り入れられ、2016年にアップデートしました。

内容の見直しは、JIS(日本産業規格)、ISO/IEC(国際規格)共に5年毎に見直しがあります。ISO/IECは2019年に検討されてたので、次は2024年頃でしょう。

「アクセシビリティ方針」ページの目的は、Webサイトがアクセシブルであり続け、実際の取り組みや方針を公開すること

各企業・団体が、対象Webサイトのアクセシビリティに関する取り組みや方針などを掲載するページを、アクセシビリティ方針と呼びます。

アクセシビリティの取り組みについて、JIS X 8341-3:2016には以下の記載があります。

ウェブコンテンツを公開し続ける限り、継続的に取り組む必要がある

出典 : JIS X 8341-3:2016 附属書

参考

アクセシビリティ方針ページを社内外に示すことは、定期的にWebサイト・サービスがアクセシブルであるかチェックし適切に管理している意思表示です。ユーザーにとって使いやすい状態を維持するための努力を表現できます。運用フロー化は難易度が高いと思いますが、挑戦する価値はあります。

つまりアクセシビリティ方針ページは、Webサイトがアクセシブルであるという証明や、取り組みの過程を明示でき、ユーザーに安心を与えられます。

我社も「アクセシビリティ方針」作りたいと思ったら、WAICのガイドラインを参照しましょう

アクセシビリティ方針を作りたい時は、ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドラインを参考にページを作成しましょう。

明記すべき項目や事例など、細かく説明されてるので必要になったら覗いてみてください。

参考

国内企業・団体のアクセシビリティ方針を紹介します

上記のガイドラインだけではなく、いろんな企業・団体の事例を見ることで、より理解は深められます。参考となりそうなアクセシビリティ方針を14個集めてみました。

まずは、AA準拠が求められる企業・団体のアクセシビリティ方針を6つ紹介します。

AA準拠が求められる企業・団体のアクセシビリティ方針 6つの事例

官公庁系はAA準拠が定められていますので、AA準拠してるサイトのアクセシビリティ方針が確認できます。

デジタル庁
https://www.digital.go.jp/accessibility-statement

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/accessibility/

内閣府
https://www.cao.go.jp/notice/accessibility_guidelines.html

東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/general/webaccessibility.html

警察庁
https://www.npa.go.jp/accessibility/

東京都オリンピック・パラリンピック準備局
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/accessibility.html

次に、一般企業・団体のアクセシビリティ方針を7つ紹介します。

一般企業・団体のアクセシビリティ方針 7つの事例

アクセシビリティ方針の記載方法を見比べてみると、取り組み内容の違いや、「◯◯の部分はこれから対応します」などの記載が確認できます。

ちなみに、AppleとMicrosoftはWAICに掲載されているガイドラインに沿ってはいませんが参考にいれています。

日本財団
https://www.nippon-foundation.or.jp/web_accessibility

2016年~2020年に実施した試験結果が掲載されています。

株式会社みずほ銀行
https://www.mizuhobank.co.jp/notice/accessibility/

Webアクセシビリティ方針が丁寧に記載されています。2018年以降の試験結果も気になりますね。

学校法人 美作学園 美作大学・美作大学短期大学部
https://mimasaka.jp/web-accessibility/

検査日については記載されてないですが、取り組み内容を細かく記載されています。

味の素株式会社
https://www.ajinomoto.co.jp/webaccessibility/

2015年度から継続して、試験を実施しています。

パナソニック株式会社
https://www.panasonic.com/jp/webaccessibility.html

こちらも2017年から継続的に更新されています。

味の素とパナソニックでは、運用フローにアクセシブル試験実施・結果の公開が組み込まれていることが分かります。

ソフトバンク株式会社
https://www.softbank.jp/help/sitepolicy/accessibility/

検証結果をきちんと公表されていますが、2013年以降の検証結果は今回の調査では見つけることが出来ませんでした。

株式会社Smart HR
https://smarthr.design/products/accessibility/policy

目標達成に向けたスケジュールを掲載しています。

また、ウェブアクセシビリティ方針だけでなく、ウェブアクセシビリティ簡易チェックリストや、アクセシビリティの改善となるUIテキスト変更の判断基準も公開しています。

最後に、アクセシビリティに関する取り組み事例を3つ紹介します。

アクセシビリティに関する取り組み 3つの事例

Apple
https://www.apple.com/jp/accessibility/

Apple社は、「視覚のための機能」「身体機能のための機能」「聴覚のための機能」「認知のための機能」という4つのカテゴリに分けて、製品のアクセシビリティ機能を分かりやすく発信しています。

たとえば拡大鏡機能を使って周囲の人を検出すると、周りの人から安全な距離を保ちながら歩いたり、空席を見つけることが可能です。

Microsoft
https://www.microsoft.com/ja-jp/enable

MicrosoftもAppleと同様にアクセシビリティ方針は掲載されていませんが、アクセシビリティに関する取り組みがまとまっています。

Microsoftでは「合理的配慮」の一つの手立てとしてIT が有効であるという考えのもと、障碍のある方の就労/雇用や、学習に困難のある児童生徒学生の ICT 活用をサポートしています。

また、「見ることに困難のある場合」「キーボードやマウスを使うことが困難な場合」「聞くことに困難のある場合」「発達障碍による困難」「パソコンが使いにくいと感じる世代の方の場合」という5つの困難別ガイドで、Windows製品やOffice製品のアクセシビリティ機能を説明しています。

freee株式会社
https://a11y-guidelines.freee.co.jp/

モバイルやアプリケーションのプロダクト開発において、使いやすいガイドラインの提供を目的に「freeeアクセシビリティー・ガイドライン」が公開されています。

さらに、各チェック内容ごとの情報をまとめたGoogleスプレッドシートや、チェック実施方法も公開されています。アクセシビリティ運用のイメージを知りたい方は一度目を通すことをおすすめします。

Webサイト訪問者を想像し、誰でも使えるWebサービスにしよう

今回はアクセシビリティに関する現状とアクセシビリティ方針事例をまとめてみました。

冒頭でも記載してますが、2024年6月までには障害者差別解消法の改正法が施行されます。一般企業もユーザーからの改善要望があった場合、アクセシビリティ向上のための対応を義務化されます。

様々な状況・環境の人が「誰でも使える」Webサービスを目指して、継続した改善・向上に取り組みましょう。

サービスを提供する側、コンテンツを発信する側として、まずはサイト訪問者の視点から自分自身がテストしてみましょう。例えば読み上げソフトを使ったり、背景色を変更してみたり、キーボードだけで操作してみるなどがあります。

前述しましたが、Webサイト・サービスがアクセシブルであるかチェックし適切に管理している意思表示をすることは、ユーザーがそのサイト、サービスを選定する理由になり得ます。

アクセシビリティに関心がある方、理解を深めたい方、相談相手が欲しい方はお気軽にお問い合わせください。

過去のクライアント案件で培った経験を活かし、アクセシビリティ方針の策定や運用の仕組みを提案いたします。