ビジネス・アーキテクツ(以下、BA)は、分科会を実施し、必要に応じてさまざまな分野に関する専門領域を深掘りする取り組みを進めています。
分科会の講師には、専門的な知見を有する社内スタッフをアサインし、メンバーは演習作業や調査項目に関する発表・ディスカッションを 通じて理解を深めます。
今回の記事では「アクセシビリティ分科会」の活動について、アカウントセールス兼ディレクション&リテンショングループのゼネラルマネージャーである小山、分科会メンバーである浦、齊藤、昆野の4名にインタビューを行ないました。今回のメンバーは、お客さまと直接会話する機会の多いアカウントやディレクターですので、そのメンバー特性にあった分科会内容を目指しました。
BAは、黎明期からアクセシビリティに配慮したWebサイトの制作に取り組んでおり、Webアクセシビリティについては書籍を出版するなど、専門的な知見を有している分野です。
インタビューでは、BAがWebアクセシビリティにこだわる理由や重要性を伺うとともに、分科会で調査した事例や先進的な企業の取り組み、得られた学びを語ってもらいました。
インタビューを受けた人
- 小山第1事業部 事業部長(ビジネス・アーキテクツ)
BPOの会社でのなんでも屋を経て、2019年からBAへジョインしました。第1事業部で責任者をしております。
- 齊藤ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
Web業界20年。デザイン、コーディング等を経験し、現在はディレクション業務を担当。 メーカーを中心に自動車業界の案件を長年担当していましたが、ようやく他業界の案件にも携わりたいという気持ちがあることに気づき、あわてて2022年にBAへ入社。これまでの様々な経験を活かし、クライアントとエンドユーザーに寄り添った成果物にすることを最優先に据えて毎日お仕事をしています。第一事業部に所属。
- 浦アカウント/プランナー(ビジネス・アーキテクツ)
入社に伴い名古屋から移住してき ました。
直接関係してくる経験職種は「webプロデューサー/DTPディレクター」(合計13年程度)ですが、他にも「バーテン/ジュエリーデザイナー/デザイン学校教務主任」なども経験してきました。 過去の担当クライアントは、大手自動車会社様や部品メーカー様をはじめ、大学や、金融機関、流通系など大手から中小様々な業種を担当し、問い合わせの初期対応からコンペ・受注まで担当。場合によってはディレクターとしても稼働していました。
経験を活かし、案件獲得を目指して奮闘して参ります。
- 昆野アカウント/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
Web業界歴20年以上、マーケティングをベースとしてWebディレクター、プロデューサーとして数々のプロジェクトを経験。Web業界の酸いも甘いも嚙み分けた結果、人材の案件への適正マッチングこそがプロジェクトの成否を決めるという持論にたどり着く。2020年BA入社。色々な人と会って相談を聞く仕事です。
Webアクセシビリティの重要性と、BAがこだわる理由
Webアクセシビリティとは誰もが平等に情報にアクセスでき、同じ体験を共有するための配慮
はじめに、Webアクセシビリティに対するBAの考え方を教えてください。
小山:Webアクセシビリティとはそれほど難しい概念ではなく、「どのような人でもWebサイトから得られる情報や体験を同じにするための取り組み」だと考えています。
Webアクセシビリティと聞くと、視覚や聴覚、運動機能に制約がある方や高齢者がおもな対象のように思いますが、一時的な障害を抱える方も配慮の対象に含まれます。例えば、手を骨折してマウスが使えない場合に、障害が何もない方と同じ体験を共有できないWebサイトの状態は好ましくありません。
誰もが平等に情報にアクセスし、操作できるようにするには、UI/UXの観点も含めてWebアクセシビリティに配慮することが重要なんです。
黎明期からアクセシビリティに配慮したWebサイト制作を実践
BAにはWebアクセシビリティに関する長年の知見があるとお聞きしました。これまでの取り組みについても教えてください。
小山:BAでは、早い時期からアクセシビリティの重要性に注視してきました。それは、企業や組織が提供するデジタルコンテンツはあらゆる人にとって使いやすいものであるべき、という信念に基づいています。
BAのメンバーには、国際的なガイドラインである「ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)」に則った制作をするという意識が根付いており、これまで多くのWebサイトが法律や各種ルールに適合するように支援してきました。お客さまへの提案資料には、Webアクセシビリティに関する事項も必ず記載しています。
色の見え方にハンディキャップのある方にとって見づらい配色になっていないか、ボタンの文字が誰にとっても判読しやすい大きさ・色・デザインになっているかなど、さまざまな点に配慮したWebサイト制作を実践しています。
また、BAのチームはコーディングなどの技術的な知識だけでなく、ユーザー視点での課題解決にも精通しています。Webサイトというコミュニケーションツールを通じてお客さまのビジネスがより多くのユーザーにリーチするように支援しています。
Webアクセシビリティについては以下の記事でも解説していますので、ご覧ください。 アクセシビリティ対応!企業ウェブサイトが今やるべきこととは何か?
障害者差別解消法の改正をきっかけに分科会を立ち上げ
アクセシビリティ分科会を立ち上げた経緯を教えてください。
小山:きっかけは令和6年4月1日に施行された、障害者差別解消法の改正です。この法改正により、企業が取り組むべき合理的配慮に関する社会的な関心が高まりました。
これまでもアクセシビリティへの配慮を重視する考えは持っていたものの、専門的な領域まで知識があるメンバーはBAのなかでも一部でした。今回、法改正がされたことにより、ディレクターやアカウントセールスなど、お客さまに近い職種のメンバーもアクセシビリティをより深く理解すべきだと考え、分科会の立ち上げに至りました。
分科会の参加メンバーはあくまでも有志です。今回一緒にインタビューを受けているアカウントセールスの浦さん、ディレクターの齊藤さん、アカウント兼ディレクターの昆野さんは立候補した結果メンバーとして参加することになりました。
障害者差別解消法の改正については、以下の記事でも解説していますので、ご覧ください。 障害者差別解消法の改正で企業サイトがやるべきこと
Webアクセシビリティに関する社会的な関心の高まり
法改正をきっかけにお客さまからの相談機会が増加
ここからは分科会の参加メンバーにお伺いします。Webアクセシビリティについて、お客さまからどのような内容の相談や問い合わせが増えているのでしょうか?
浦:あるお客さまから、親会社から「アクセシビリティ対応をするように」と指示されたが、知見がなく具体的に何をすればよいかわからない、というご相談がありました。法改正をきっかけにWebアクセシビリティ対応をしたいと考えてはいるが、自社にノウハウがないためご相談をいただいたケースです。
また、担当者がWebアクセシビリティへの知見をお持ちで、会社としても対応方針が明確になっている状態で、具体的な設計の相談をいただくこともあります。
齊藤:Webサイト上に「アクセシビリティ方針」のページを公開されている企業から、「どこまで言いきって書いていいのか」といった記載内容に関するご相談もいただく場合がありますね。
昆野:私の場合、以前アクセシビリティに対応したWebサイトを制作したものの、現状のガイドラインに準拠しているか判断できないため、総合的に改善してほしいとご相談をいただくケースがありました。
WCAGなどのガイドラインは、数年おきに改正されます。また、昨今ではスマートフォン対応も必須になるなど、時代とともに対応範囲が変化してきています。こうした状況下ではWebアクセシビリティに対応できているつもりでも、常にベストな状態をキープするのは困難だと感じるお客さまが多いようです。
法制化されている地域のグローバルサイトでは対応が必須
BAはグローバルサイトの構築も数多く手がけています。海外におけるWebアクセシビリティへの意識についても教えてください。
浦:グローバル展開をされている企業では、サイトリニューアル時にWebアクセシビリティへの対応が要件に盛り込まれることが一般的です。ただし、Webサイト上での「アクセシビリティ方針」の公開は必ずしも義務ではないので、実際には対応していない企業もあります。
齊藤:全世界で広く事業展開されているお客さまのなかには、GDPR(EU一般データ保護規則)など欧州の罰則規定を強く意識している企業もありました。
昆野:一口に「グローバルサイト」といっても、Webアクセシビリティの意識には地域差があるんです。米国や欧州にはアクセシビリティに関する法があり、罰則も存在するため、欧米に進出する企業は必然的にアクセシビリティへの意識も高くなります。
一方、アジア地域では厳格な法制化が進んでいないため、アクセシビリティの意識の高まりはこれから、という印象を受けます。
ただし、日本で製品・サービスを展開していても、米国や欧州に輸出・販売する場合、輸出先地域の法律に抵触する可能性がゼロではありません。訴訟に発展しないかぎり実損が発生する可能性は低いとは思いますが、十分に確認する必要はあります。
日本でも2024年4月に障害者差別解消法の改正がありました。そのなかでもWebアクセシビリティに関連する「合理的配慮の提供義務化」については、以下の記事でも詳しく解説していますのでご覧ください。
合理的配慮の提供義務化によるWebアクセシビリティをBAのアカウントセールスはどう見るか
Webアクセシビリティに関する分科会の取り組み
課題設定から始まり、知識やルールのインプット
Webアクセシビリティの基礎知識やルールをどのように把握されたのでしょうか?
浦:アクセシビリティ分科会では、普段お客さまから質問される事柄や、お客さまに共有すべき知識などを協議します。それを踏まえて課題を設定し、次の分科会日程までメンバーで分担して調査し、その過程で、基礎知識や関連する法律やルールを把握していきました。
事例の調査は欧州・北米・中国など地域を分けて行ない、分科会に持ち寄る形式としました。
昆野:分科会に参加したことで、BA社内のWebアクセシビリティに精通したスタッフに積極的に質問するようになりました。おかげで理解の深度が増したと思います。
海外の訴訟事例を調査
Webアクセシビリティが問題となった事例について、分科会で調査した内容をそれぞれお聞かせください。
浦:私は北米企業の訴訟事例を調査しました。アメリカでは次の3つの関連法規があります。
- リハビリテーション法508条(Section508)
- 航空アクセス法(ACAA)
- 障害を持つアメリカ人法(ADA)
これらの法律を根拠に視覚障害をもつ方が集団訴訟を起こした事例をピックアップしました。
例えば、大手ECサイトではスクリーンリーダーや点字ディスプレイに対応しておらず、他のユーザーと同様のサービスを受けられない状況が差別にあたるとして、改善を求められた事例があります。
また、あるアーティストの公式サイトが「画像ばかりで視覚障害者への配慮がない」として訴えられた事例もあります。
近年、アメリカでは同様の訴訟が頻発しており、2015年に57件、2016年に262件だった訴訟件数が2022年には3,000件前後にまで増加したといわれています。
齊藤:Webアクセシビリティに関する世界初の訴訟は、シドニー・オリンピックの公式サイトとされています。視覚障害者とそうでない方で情報格差が生じてしまい、差別にあたるとして訴訟が起きました。
また、2016年のドミノ・ピザの事例も印象的でした。Webサイトとモバイルアプリがアクセシブルではなかったことで視覚障害者がうまく利用できず、裁判に発展した事例です。
昆野:私は欧州を調査しました。スペインでは銀行の急速なデジタル化と、同時に窓口業務が簡素化されたことに対して、高齢者たちが訴訟を起こした事例があります。
代替手段としての銀行関連アプリの操作が面倒だったため、親切なサービスを求めて高齢者たちがオンラインで署名を呼びかけ、64万人を超える署名が集まりました。結果、銀行側はアクセシビリティ対応を進めざるを得なくなった事例です。
また、ドイツの空港では、運営するWebサイトが視覚障害のある方が正確な情報にアクセスできず、訴訟に発展しました。結果、裁判所は原告に有利な判決を下しました。
このようにアクセシビリティ関連の裁判が多くなってきたということは、それだけWebサイトが社会のインフラに近づいたというあらわれだと感じます。
企業の取り組み方針や実態調査
企業のWebアクセシビリティの取り組みや実態について、分科会で調べた内容を教えてください。
浦:公共性の高いサービスを提供している企業では、Webアクセシビリティへの対応を必須としています。そのため、リニューアルの要件に「WCAGに準拠」を盛り込んだオーダーをよくいただきます。また、上場企業やグローバル企業でも意識が高まっています。
一方、同じタイミングのリニューアルでも、提案依頼書(RFP)にアクセシビリティへの言及がない企業もあります。対応しなくても罰則がないと判断して、要件から外しているように感じます。
齊藤:浦さんが話されたことが実態なのだろうと感じます。しかしながら、2024年4月に法改正があったことにより、今後は社会全体で障害をお持ちの方に寄り添う気運が高まると思います。
そして、ますます高齢化が進む社会において、アクセシビリティ対応の必要性を継続的に呼びかけることは、Web制作に携わる企業として意義のあることだと思っています。
浦:制作会社側でも対応が違います。最近のリニューアルの提案時に、お客さまにWebアクセシビリティの必要性をお伝えしたところ「他社からはWebアクセシビリティへの配慮に関する提案はなかった」とおっしゃっていました。
昆野:なかには「Webアクセシビリティに対応しなくてはならない」というネガティブな方向性とは逆に、ポジティブな側面から対応している企業もあります。
例えば、SDGsに対する企業の取り組みを積極的に開示している企業では、自社の社会的責任やパーパスと整合性を取りながらWebアクセシビリティに対応することにより、ブランディングに活用されています。
分科会での学びと成果、今後の展望
Webアクセシビリティの訴訟事例や背景を踏まえて本質的な提案につなげる
分科会を通じてどのような学びや成果を得ましたか?
浦:改めて、Webアクセシビリティに配慮していない結果どのようなトラブルにつながるのか、過去の事例からゆっくり理解するための時間を確保できたことは大きかったですね。具体的な訴訟事例や背景を把握したことで、お客さまに事実に基づく説明ができるようになった点は成果だと感じています。
昆野:分科会を通じて、お客さまに対してより本質的な提案ができるようになりました。
例えば、眼鏡に関連する企業であれば、Webサイトのユーザーは眼鏡をかけている方や視力が悪い方が多いと想定されます。しかし、なかにはWebサイトの利用時に眼鏡を忘れてしまった方、老眼で見づらい方もいるでしょう。過去の事例を学んだことで、より細かく具体的なユーザー像を思い浮かべたWebアクセシビリティ対応を提案できるようになりました。
今後アクセシビリティは全社的な取り組みにシフト。ビジネス戦略の中核に位置づけられる
ビジネス戦略における、アクセシビリティに関する今後の流れについて考えをお聞かせください。
小山:今後は「アクセシビリティの全社的な取り組みへのシフト」が進むと考えています。
現状、多くの企業では担当者の方のみがアクセシビリティの意識をお持ちで、経営層はどちらかといえばサステナビリティなどの目線が強いと感じます。全社的にアクセシビリティに対する意識が浸透していないんですね。
基本的に、日本はアクセシビリティに関する取り組みが遅れています。法規制やグローバル基準が強化されていくなかで、今後日本企業はアクセシビリティに配慮したビジネスプロセスを設計し、実行していく必要があるだろうと考えています。
昨今は、デジタル庁などの政府機関もアクセシビリティ対応を推進しています。企業はアクセシビリティを技術的課題として捉えるのではなく、ビジネス戦略の中核として位置づけ、製品開発やマーケティングといったビジネスの全プロセスで考慮することが求められるでしょう。
アクセシビリティの認知が進むなか、BAは戦略的にリードする役割を担う
今後の社会の変化を踏まえて、BAが担う役割について教えてください。
小山:AIやIoT、AR/VRなどの新たな技術革新が今後のアクセシビリティにどのように影響を与えるのか、我々にも想像がつきません。
企業が展開するコンテンツも、多岐にわたっています。デジタル領域が拡張すること自体はユーザーにとって楽しみである反面、我々にとってはアクセシビリティに関する学びを深めるきっかけにもなります。なぜなら新たなコンテンツの登場は、アクセシビリティに関する新たな誤解が生じる契機にもなりえるためです。我々にはそうした誤解を都度訂正しながら、正しい知識をお知らせしていく責務があると考えています。
アクセシビリティの観点でも、我々はお客さまを戦略的にリードする重要な役割を担っていると自負しています。
BAは数多くのグローバルサイトを構築した実績があり、国際的なアクセシビリティの基準を満たす設計が可能です。アクセシビリティへの配慮を前提としてプロジェクトを進める会社ですので、アクセシビリティ対応を課題としている場合はお気軽にご相談いただけると幸いです。
まとめ:蓄積されたアクセシビリティへの知見が発揮される時代に
BAはWebアクセシビリティに関する専門書籍を発行するなど、長年にわたって専門的な知見を蓄積しています。技術革新にともなうデジタル領域の拡張が進むなか、アクセシビリティの配慮は、現在では想像できない範囲まで拡大する可能性が見込まれます。
特にグローバル展開する企業にとって、アクセシビリティに配慮した戦略を生み出せるパートナー企業の選定の有無は、国際的な競争力につながります。
BAのアクセシビリティに関する知見やノウハウにご興味がある場合には、ぜひ一度ご相談ください。