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デザインガイドラインの必要性とガバナンス整備のプロセス

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プロフィールアイコン(イラスト):デザイナー 相馬
相馬デザイナー(ビジネス・アーキテクツ)

紙媒体の制作会社数社を経て、3年前にBAに入社。 Webデザインを学びながらWeb制作に携わる。1年半前から事業部のリードデザイナーを務めつつ、ディレクション業務にも挑戦中。

企業のブランド価値やイメージを維持し、Webサイトやデジタルプロダクトの一貫性を確保するためには、統一されたルールの整備が欠かせません。特に中〜大規模サイトでは、複数のチームや外部パートナーが関わるため、統一されたルールがなければ、ブランドの認知やユーザー体験にばらつきが生じます。

本記事では、デザインガイドラインの役割や作成プロセスについて詳しく解説し、効果的なガバナンス整備方法をご紹介します。

デザインガイドラインの必要性とガバナンス整備のプロセス

デザインガイドラインの役割とその重要性

Webサイトやデジタルプロダクトのデザインに統一感が欠けると、ブランドの一貫性が損なわれ、ユーザーの信頼にも影響を与えます。特に多くの関係者が関わるプロジェクトでは、明確なルールがないとデザインの統一性を維持することが困難です。本セクションでは、そうした課題を解決するためのデザインガイドラインの役割と重要性について解説します。

デザインガイドラインとは?

デザインガイドラインとは、企業やブランドが提供するデジタルプロダクトのデザインルールをまとめた文書です。これには、ロゴやカラー、タイポグラフィ、ナビゲーションのルール、UIコンポーネントの仕様などが含まれます。

なぜデザインガイドラインが重要なのか?

統一されたデザインルールを策定することで、以下のようなメリットがあります。

  • ブランドの一貫性を確保
    すべてのWebサイトやプロダクトにおいて、統一されたビジュアルとメッセージを提供できる。
  • 作業効率の向上
    デザイナーや開発者がスムーズに作業でき、デザインの迷いが少なくなる。
  • 拡張しやすさ
    グループ会社や海外の拠点でも、統一したデザインルールを適用しやすくなる。

デザインガイドラインの基本構成

デザインガイドラインは、ブランドの視覚的な一貫性を確保し、運用を円滑にするための基盤です。サイトやプロダクトのデザインルールを体系的に整理し、関係者全員が共通の認識をもつことを目的としています。本セクションでは、デザインガイドラインの主要な10の構成要素について詳しく説明します。

1:ブランドコミュニケーションデザイン

企業のブランドメッセージを視覚的に統一し、ユーザーと一貫したコミュニケーションを実現するためのルールを策定します。

ブランドコミュニケーションを策定していく中でのキーワード抽出

2:コンセプトデザイン

ブランドが伝えたいイメージを明確にし、ブランドコミュニケーションに基づいたWebサイトのコンセプトを策定します。ビジュアルやUI(ユーザーインターフェース)、機能について、大まかな設計を行います。また、デザイン設計の骨子となるキーワードを策定し、目指すべき状態についてお客さまと認識を合わせます。

イメージをすり合わせるためのスライダー(フォーマル〜カジュアル、クール〜情熱的、シンプル〜装飾的、先進的〜歴史的などの軸においてどの程度かを示す)

3:トーン&マナー

サイトやデジタルプロダクトにおける企業のイメージを統一し、テキストやビジュアル表現のスタイルを整えることで、ブランドの個性を確立します。トーン=デザインの統一性・一貫性、マナー=デザインのルールや基準という意味です。(「トンマナ」と略されることが多い)

4:タイポグラフィとカラーシステム

ブランドコミュニケーションからトーン&マナー策定までに決まった企業イメージを表現するため、最適なフォントの種類やサイズ、カラーパレットを規定し、ブランドの視覚的一貫性を確保します。

タイポグラフィーとカラーシステムのガイドライン

5:レイアウトとグリッドシステム

ページの幅やコンテンツの配置ルールを記載します。ページ幅や各パーツがどのようなグリッドシステムによって決まったのか、運用時に意識することはありませんが、決まった経緯は記載していきます。

グリッドシステムのガイドライン

6:ナビゲーション設計

ユーザーが迷うことなく目的の情報にたどり着けるよう、サイト内の導線を分かりやすく設計し、直感的な操作を実現します。さらに、視覚的な一貫性やアクセシビリティの観点も考慮し、より快適なユーザーエクスペリエンスを提供できるように設計します。

ナビゲーションシステムのガイドライン(パンくず)

7:ヘッダーやフッターなど各エリアの情報・役割の定義

サイト全体の構造を整備し、ユーザーの利便性向上を考え、ヘッダー・フッターの各要素の役割を定義します。

ヘッダーのガイドライン

8:アイコンとビジュアル要素

アイコンや画像、図版などはブランドのイメージ構築において重要な要素となるため、統一したデザインルールを設け、運用時に何をどのように守るのか記載することが求められます。

アイコンシステムのガイドライン

9:UIパーツ

タイポグラフィや各種ボタン、ナビゲーションなど操作に関わる各UIパーツもブランドのイメージ構築には重要な要素です。各UIパーツにもデザインや操作に一貫性をもたせ、それを保つためのルールを記載します。

UIパーツのガイドライン

10:テンプレートのパターン

どんなページ構成でも統一感を保ちつつ運用しやすくするため、適切な種類のテンプレートを用意します。種類が多すぎると選択が難しくなり、自由度を高めすぎると統一感が損なわれるため、バランスを考慮することが重要です。

テンプレートのガイドライン

デザインガイドラインの作成プロセス

デザインガイドラインを作成することで、ブランドの統一性を維持し、チーム間の認識を揃えることができます。しかし、適切なプロセスを踏まなければ、形だけのものとなり、活用されないガイドラインになってしまう可能性もあります。本セクションでは、デザインガイドラインを効果的に作成し、導入するための3つのステップを解説します。

ステップ1:目標と目的の設定

ガイドライン作成の目的(ブランド認識の強化、一貫性の維持、デザインフローの効率化)を明確に記載します。

ステップ2:初期ドラフトの作成とレビュー

基本ルールをまとめ、関係者のフィードバックを得ながら調整します。
また、ガイドライン執筆前や最中にCMSの操作説明会を行う場合、お客さまから上がった質問などを分かりやすくガイドラインに追加することも検討してもよいでしょう。例えば「テキストカラーに反映できるカラーのルールはあるのか?」などの質問を反映し、実用的なガイドラインに仕上げます。

ステップ3:最終版の策定と正式な導入

関係者のフィードバックを反映しガイドラインが確定したら、社内外に展開します。またガイドラインには、専門性の高い内容が多く含まれていることから、ガイドラインの理解を深めてもらうための説明会を実施することもあります。

さらに運用効率を重視し、全部入りバーションのデザインガイドラインと共に、運用時に必要な項目だけを洗い出したクイックガイドを作成することもおすすめします。その理由として、運用担当者は日々の業務の中でサイト更新を行います。そのため更新はスムーズにできることが望ましく、大量のガイドラインすべてを確認しながら更新作業を行うことは業務の難易度を上げます。

クイックガイドには、デザインガイドラインだけではなく、コンポーネントの操作に関するマニュアルや、CMSを操作する上でのTipsなどをまとめましょう。そのクイックガイド1冊で運用作業を進めることが可能となります。

デザインガイドラインの更新と事例

デザインガイドラインは一度策定すれば終わりではなく、運用を継続する中で定期的に見直すことが重要です。ブランドの成長や市場環境の変化に対応し、常に最新の状態を維持することで、実効性の高いガイドラインを保つことができます。本セクションでは、ガイドラインの更新方法と実際の適用事例を紹介します。

ガイドラインの継続的な更新とメンテナンス

運用方針の変更や、ブランドガバナンスの変更に合わせてサイトは更新されていきます。その際に必ずデザインガイドライも更新を行います。これは更新を行う担当者と、その作業をお願いする制作会社が共に同じ認識をもっておく必要があります。この更新を怠ることで、デザインガイドラインはすぐに形だけのものとなり、ガバナンスが効かない状態に陥る原因となります。

ガイドラインの適用例と成功事例(機械メーカーB社様)

背景と課題
機械メーカーB社様は、日本国内のみならずグローバル市場でも広く展開し、高いシェアを誇る企業です。同社ではグローバルサイトのリニューアルの計画において、ガバナンスの整備とその運用が大きな課題となっていました。特に、各国の拠点が独自のデザインや運用ルールを採用しており、ブランドの一貫性が保たれていない状態でした。

提案と施策
この課題を解決するため、私たちは単なるWebサイトのデザインガイドラインにとどまらず、デジタルプロダクト全般に適用できる包括的なガバナンス体制の整備を提案しました。その中でも特に、現場での運用がスムーズに進むよう、以下のガイドラインを作成しました。

作成したガイドライン・マニュアルの種類

  • デザインガイドライン
    • ブランドイメージの統一を目的としたデザインルール
  • コンポーネントガイドライン
    • Webサイトを構成する各パーツの使用ルールやスタイルの適用ルール
  • 運用・管理マニュアル
    • B社の社内ルールを踏まえた運用・管理におけるマニュアル
  • CMS操作ガイド
    • 導入されたCMSの基本的な操作方法
  • クイックガイド(簡易版ガイドライン)
    • デザインやコンポーネント関連の日常の更新業務で頻繁に使用されるルールを抽出
    • CMSの操作ルールや承認フロー、翻訳ツールの使い方、Tipsを分かりやすく掲載

導入後の成果

  1. 更新作業の効率化
    • 担当者は「クイックガイド」を参照するだけで日常的な更新作業を実施可能に。
    • 更新にかかる時間が短縮され、属人的な作業負担が軽減。
  2. ブランドの一貫性向上
    • 各国のWebサイトが統一されたデザインルールに基づいて運用されることで、ブランド全体の統一感が強化された。
    • 特に、ロゴの配置やカラーガイドラインの遵守率が導入前より改善。
  3. 長期的な資産としての活用
    • 主要なガイドラインは、数年後のサイト改修時にも参照され、過去の決定事項を踏まえた改善が可能に。
    • 定期的な見直しを行うことで、最新のデザイン要件や運用課題に適応しやすくなった。

事例まとめ
B社様の事例では、単なるデザインガイドラインの導入だけではなく、現場での運用を考慮した「クイックガイド」を含む多層的なガイドライン整備が、ブランド統一と作業効率化に大きく貢献しました。これにより、グローバル規模の企業においても、一貫性のあるサイト運用が可能となりました。

デザインガイドラインで実現するブランドの一貫性と成長

デザインガイドラインは、企業のブランド戦略を守るための強力なガバナンスツールとして機能します。適切に整備し、定期的に更新することで、すべての関係者が統一されたルールのもとで運用でき、ブランドイメージの一貫性を維持できます。その結果、組織内外でのデザインの整合性が保たれ、より強固なブランドガバナンスが確立されます。

私たちは、運用に強いガバナンス体制の構築を通じて、継続的な価値提供を支援しています。ガイドラインの整備や運用体制に不安のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
また、大規模サイトにおける企業ブランドを向上させる仕組みづくりに関心のあるデザイナーの方は、私たちのチームへの応募をお待ちしています。