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ウェブアクセシビリティ対応があらゆるサイトで求められている理由と内容・事例

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富本ディレクター/フロントエンドエンジニア(ビジネス・アーキテクツ)

地元・愛知の印刷会社や広告会社にてWeb制作に携わる。2014年頃、フロントエンドエンジニアとしてBAに入社。現在、ディレクターとして開発・運用の進行管理やWebサイトのガイドライン作成やコンポーネントの設計・作成を担当しています。好きなキャラクターはリラックマ。イタリアとスイスに行きたい。

今回は、自社もウェブアクセシビリティ対応したい、しなきゃなと思っている人に向けて、アクセシビリティをとりまく現状や、まずは何をするのか、対応の全体像を説明します。

リニューアル時はもちろん、Webサイト改修でアクセシビリティ対応をしたい場合に参考となるガイドラインやWebサイトの紹介もします。

BAsixs参画企業のビジネス・アーキテクツはアクセシビリティ関連のお問い合わせをよく頂いており、要件定義からアクセシビリティガイドラインの作成、試験などの対応実績があります。

アクセシビリティ対応をしたいけど、何から手をつければいいのか分からない方は、ぜひお気軽にご相談ください。現状の課題把握や要件定義からお手伝いいたします。

ウェブアクセシビリティ対応があらゆるサイトで求められている理由と内容・事例

企業が担う社会課題の解決方法の一つとしての「アクセシビリティ向上」

2015年9月に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)が採択されました。持続可能でより良い世界を目指す国際目標(日本ではSDGs)では、国際社会全体で2016年から2030年までに達成目標を掲げています。

アクセシビリティ対応をするということは、そんなSDGsの目標達成に取り組むことにも繋がります。たとえば、「目標10:人や国の不平等をなくそう」、「目標11:住み続けられるまちづくりを」という項目があります。 ウェブアクセシビリティを向上させることで、この項目の一部を担うことができるでしょう。

SDGsはそれぞれの目標と相関関係があり、企業で定めるその他の取り組み目標との兼ね合いもあるので、以下のような項目の達成に寄与ができると考えられます。

  • 目標 3:全ての人に健康と福祉を
  • 目標 8:働きがいも経済成長も
  • 目標 9:産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 目標10:人や国の不平等をなくそう
  • 目標11:住み続けられるまちづくりを

参考

アクセシビリティ対応をすることで、平等なサービスやコンテンツの提供、平等にサービスを受けられる環境づくり、提供のための雇用機会の創出などへ取り組めます。その取り組みによって上記項目などの達成に関わることができます。

アクセシビリティ対応が必要な4つの理由

企業において利益追求だけでなく社会課題の解決などが求められていく中で、ウェブアクセシビリティも注目されています。多くのサイトやサービスのウェブアクセシビリティ対応が進んでいます。

たとえば、InstagramやX(旧Twitter)の投稿画像にaltが設定できるようになったり、Microsoft製品のアクセシビリティ機能搭載、ゲームでのアクセシビリティ強化など、大手サービスやプロダクトでも積極的に取り組んでいます。とくに海外では、訴訟リスクにつながる可能性が高いため、より真摯に取り組まれています。

このようにウェブアクセシビリティを向上することに、多くの企業が取り組んでいます。そこで、なぜアクセシビリティ対応が必要なのか、4つの理由を説明します。

理由1. 障害者のためだけではなく、すべての人に必要なため

アクセシビリティ対応の対象者は、高齢者や障害者向けと思われる方も少なくないと思います。しかし、年齢や障害の有無に関わらず誰もがどんな状況下でもWebサイトが利用できることを目指します。

例えば、日差しが強い日にスマートフォンで情報を取得したいときにカラーコントラストが十分にとれていれば、誰もが利用しやすいはずです。他にも、満員電車でイヤホンを忘れてしまったが、動画で情報を得たい場合、動画に字幕があるかないかだけでも取得できる情報量が違います。

というように、誰にでも情報が十分に取得できない状況は発生します。あらゆる閲覧者の状況に配慮してWebサイトをアクセシブルにすることが求められるのです。

理由2. Webコンテンツの品質を向上するため

アクセシビリティ対応するためには、JIS X 8341-3:2016の基準を元にガイドラインを作成するので、明確な品質基準によるWebコンテンツの制作・運用が可能です。つまり、「いつでも・どこでも・だれでも情報と機能を利用できる」ようにWebコンテンツの品質を維持・向上することができます。

アクセシビリティに配慮するということは、利用者のユーザー体験の向上にも繋がります。
その結果が、利用者からの評価にも繋がります。

更にGoogleのような検索エンジンにとってもアクセスしやすく正確な情報を理解しやすい状態となるので、利用者が目的の情報にたどり着きやすくなり、SEOにも影響を与えます。

理由3. 企業の姿勢・取り組みが評価につながるため

2021年5月「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」いわゆる「障害者差別解消法」が改正されました。これによって、これまでは合理的配慮の義務付けが国や自治体のみだったのに対し、民間事業者にも求められることになります。

今後は日本の社会全体で、法的にもアクセシビリティ対応を求められることになります。

また、第三者によって評価され公表されることもあります。例えば、WEBグランプリには「アクセシビリティ賞」という部門もあります。

参考

理由4. 海外での訴訟対策のため

理由2で説明したように、障害者差別解消法の改正により一般企業へもアクセシビリティ対応を求められてきています。

日本で訴訟になることはまだそう多くないとは思いますが、グローバル展開をしている・検討している企業は海外の状況をしっかり把握しておくことをおすすめします。

英語ではありますが、世界でのアクセシビリティ取り組みについては以下のページがよくまとまっています。

AccessU 2017: World Tour of Accessibility Policy and Standards

またUsableNet Inc.の調査によると、2021年、米国ではWebサイトがウェブアクセシビリティを十分に確保していなかったことが原因で4,000件以上提訴されています。提訴数は調査開始の2018年の2,314件から増加の一途を辿っています。

参考

アクセシビリティ対応をするなら、Webサイトリニューアル時がオススメ

Webサイトリニューアル時におすすめする理由は、リニューアルの要件に含めることができるからです。要件に含めることで、以下のようなメリットがあります。

リニューアルの要件に含めることで得られる3つのメリット

  • 予算を低く抑えやすい
  • Webサイト全体に一度で適用できる
  • ガイドラインを維持するための運用設計をしやすい

リニューアル以外で対応する場合

アクセシビリティ対応では、Webサイト構造やデザインから検討する必要がある項目などもあり、内容によってはWebサイト全体を大きく変える必要が発生する場合もあります。

そのため、まずは現状把握をし、要望や予算を考慮し、優先度や対応しやすい項目を選定し対応を行うという方法を弊社ではよくご提案しています。

ウェブアクセシビリティのチェック結果から、構築・運用でできる対応例を紹介 | BAsixs(ベーシックス)

ウェブアクセシビリティを向上させるには、何をすればいいの?

大まかには以下の順序でマイルストーンを設定することをおすすめします。

  1. Webサイトの現状把握
  2. アクセシビリティ対応の要件定義
    • アクセシビリティ対応の要件を決定
    • 品質保持のための運用要件の決定
  3. 運用ガイドラインの作成
  4. Webサイトに反映
  5. 品質の保持のための運用開始

Webサイトの現状把握をするための「ウェブアクセシビリティ診断」

まずは、現状の把握をしましょう。
要件決めをするにしても、対象Webサイトが現在どういう状態なのかを確認する必要があります。

ただ現状調査といっても、これから始めようと考える方が独自に現状を調査するのは難易度が高いと思います。診断ツールやサービスなど診断方法についての記事がありますので以下の記事も参考にして下さい。

うちのWebサイトはどうなってる?診断から始めるウェブアクセシビリティ対応 | BAsixs(ベーシックス)

当社でも、アクセシビリティ向上のための診断サービスやユーザーテストサービスを提供しています。

アクセシビリティ診断事例 K社様 | BAsixs(ベーシックス)

アクセシビリティ要件の内容の紹介

まずは、現状把握をしてサイトの状況が把握できたところで、これから対応する内容についての要件を決めていきましょう。

  1. アクセシビリティ対応の内容を決める
    • 対象範囲の決定
    • 目標レベルの決定
    • 期限の決定
    • アクセシビリティ対応の作業の詳細の決定(要件とスケジュールや対応内容の調整・決定)
  2. アクセシビリティ関連のページ作成・更新の有無
    • アクセシビリティポリシーページ
    • 定期的な検査結果の更新
  3. 継続的な運用についての検討・決定
    • ポリシーの確認・更新
    • 定期的な検査体制の構築
    • サイト運用へのアクセシビリティチェックのフローを導入

企業によって要件が違うので、これが絶対というものではないですが、これらの内容を参考に検討を進めると継続的な体制でアクセシビリティの向上に取り組めると思います。

アクセシビリティ対応時に基準となるガイドライン

アクセシビリティ対応するにあたり、「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG)」という世界基準となる英語のガイドラインがあります。また、ガイドラインの日本語版は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が翻訳・提供しています。

最新やおすすめのバーション、JIS規格との関係などガイドラインについての詳細な情報は以下の記事で説明しています。

アクセシビリティ確保の指標となる文書「WCAG」と企業の「アクセシビリティ方針」を紹介| BAsixs(ベーシックス)

2つの参考Webサイト

国内のウェブアクセシビリティに関連する情報を発信しているページを2つご紹介します。

参考Webサイト1:ウェブアクセシビリティ基盤委員会

W3Cの日本語版を提供しているウェブアクセシビリティ基盤委員会が運営するWebサイトです。実装する際に必要な情報、試験や適合性評価を行う際に必要な情報など、ウェブアクセシビリティを向上するために必要な情報を発信しています。

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(Web Accessibility Infrastructure Committee)は、日本におけるウェブアクセシビリティの公的規格であるJIS X 8341-3の理解と普及を促進するとともに、JIS X 8341-3を利用してウェブアクセシビリティを高めていくために必要な基盤を構築するために、さまざまな活動を行っています。

出典 : WAICについて | ウェブアクセシビリティ基盤委員会 | Web Accessibility Infrastructure Committee (WAIC).ウェブアクセシビリティ基盤委員会 | Web Accessibility Infrastructure Committee (WAIC).(参照 2024-1-31)

参考Webサイト2:みんなの公共サイト運用ガイドライン

総務省がウェブアクセシビリティについて定める指針です。公的機関がウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書が公開されています。

「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(以下、「運用ガイドライン」という。)は、国及び地方公共団体等の公的機関(以下、「公的機関」という。)のホームページ等が、高齢者や障害者を含む誰もが利用しやすいものとなるように、公的機関がウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組む際の取組の支援を目的として作成された手順書で、2016年版となる本書は、2016年のJIS X 8341-3の改正に合わせ、2010年度版を改定するものです。

出典 : みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)|総務省.総務省.(参照 2024-1-31)

4つのアクセシビリティ対応事例

他社事例1:SDGsやサステナビリティに関する取り組みの一つとしてアクセシビリティ対応をした例

ANAグループでは、サステナビリティのカテゴリの中にある、お客様の多様性への対応ページでANA公式サイトのアクセシビリティ対応の取り組みを紹介しています。

またANAホールディングスでは、ソーシャルボンド(社会的課題に取り組むプロジェクトの資金調達をする為に発行される債券)を発行し、「国際標準のW3Cアクセシビリティ・ガイドラインへの適合」に対応しています。

参考

他社事例2:アクセシビリティ対応することで、流入が増えた例

弁護士ドットコムはブランドリニューアル時に、ウェブアクセシビリティの課題「カラーコントラスト」を解決するため、ブランドカラーを変更しました。結果的にWebサイト流入も増えました。

参考

他社事例3:定期的な運用としてウェブアクセシビリティの検査報告をしている例

Webサイトは継続的にコンテンツを追加・更新するので、定期的にWebサイトのウェブアクセシビリティが保たれているかを検査する必要があります。

NTTグループのアクセシビリテポリシーのページでは、対象ページ、検査日、検査結果の報告などが確認できるようになっています。

Webサイトやサービスがアクセシブルであるかチェックし適切に管理している意思表示をすることは、利用者がそのWebサイト、サービスを選定する理由になり得ます。

参考

弊社事例:アクセシビリティガイドラインを見直し・試験実施例

WCAGは数年おきにアップデートされるので、対応すべき項目が変わります。WCAGのバージョンが更新されたら、アクセシビリティガイドラインを見直すことをおすすめします。

国内のある企業では、過去にアクセシビリティガイドラインを作成していました。

Webサイトリニューアルを検討し始めた時に、各種ガイドラインが今どうなっているか社内で確認したところ、アクセシビリティガイドラインが古い情報を参考にして作成していることが分かりました。しかし、社内の知見だけでは解決できなかったので、弊社にお問い合わせいただきました。

実際にガイドラインを拝見したところ、WCAGの古いバージョンと新しいバージョンの項目が混在していました。

そこで、お客様と協議の上、以下の3つのフェーズに分けて進めました。

  1. 新しいバージョンで追加された項目を加筆し、新しいバージョンの構成に合わせて章立てを組み替える。
  2. 1.で作成したガイドラインにレベルAの不足項目を追加し、レベルAの内容を満たしていない項目を修正する。
  3. 公開済みのWebサイトのコンテンツやコンポーネントが、作成したガイドラインを満たしているか、ルールにのっとり、代表的なページを抜粋して試験を実施する。

今後のWebサイトコンテンツ更新やサイトリニューアルを見越して、試験結果を元に、コンテンツやコンポーネントのためのルール策定の流れとなります。

アクセシビリティガイドラインの更新事例 K社様 | BAsixs(ベーシックス)

アクセシビリティ対応を始めるにあたって

今回はアクセシビリティ対応を始めるために、アクセシビリティをとりまく現状や、対応の全体概要、まずは何をするのかという部分を説明しました。

内閣府が公開している「令和3年 障害者白書」によると、2021年の日本の障害者数は1000万人弱、国民の約7.6%にあたります。

総務省が令和2年に実施した「令和2年 統計調査データの通信利用動向調査(企業編)」によると、ホームページを解説している企業の半数がアクセシビリティについて理解がないと回答。何らかのアクセシビリティに関する取組を行っている企業はわずか2割です。アクセシビリティ対応をしているWebサイトはまだまだ少ない状況です。

しかし、SDGsで「誰一人取り残さない社会を作り上げていく」という社会の意識の高まりや法制化によって一般企業にもウェブアクセシビリティ対応が義務化される流れで、今後よりアクセシブルなWebサイト作りが求められていくことでしょう。

当社でも、アクセシビリティ関連のお問い合わせはよく頂いており、最近もアクセシビリティガイドラインの作成や改定を行いました。他にも、アクセシビリティ診断・改善のお手伝いをさせていただいています。またグローバルサイトのリニューアルでは、アクセシビリティを考慮したサイト制作や運用体制の構築を行っています。
企業の社会課題解決への取り組みや法改正などの影響もあり、今後もアクセシビリティの向上を求めるお客様は増えていくだろうと感じています。

アクセシビリティ対応を検討している方、相談相手が欲しい方はお気軽にお問い合わせください。過去のクライアント案件で培った経験を活かし、アクセシビリティ方針の策定や運用の仕組みを提案いたします。