グローバルサイト運用をするにあたり、海外拠点やグループ会社、外部パートナーとの連携に苦労していませんか?
例えば、
- ガイドラインを整備しても現地のマーケティングが優先されるため、海外拠点・グループ会社や外部パートナーの独自判断でページ更新されている
- グローバルサイトをリニューアルした時に作ったガイドラインの見直しをしていないので現状と合っていない
- 新しい拠点ができる時や、拠点の担当者が変わった時に上手くルールを共有したいが、出来ていない
ということでお困りではないですか?
これらのサイト運用におけるお悩みについてどのように課題解決してきたか、グローバルサイト運用に長年関わっているディレクターの3人に、X社の事例を踏まえてインタビューしました。インタビュー内容を前編・後編の2記事にわたってご紹介します。
前編では、Webガバナンス維持が求められる背景と、もしWebガバナンスを保てないと何に困るのかを具体例を交えて紹介しました。ガバナンスが保てない原因を以下の2つだとご紹介しました。
- 本社とグループ会社間で認識のズレがある
- 情報管理のシステムがサイト毎に違う
まだお読みになってない方は、ぜひ前編からご覧ください。 グローバルサイトのWebガバナンス(前編)必要性と気を付けるポイント | BAsixs(ベーシックス)
後編ではWebガバナンスが保てない2つの原因を解消するために、普段大切にしていることや工夫について紹介します。
インタビューを受けた人
- 昆野アカウント/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
Web業界歴20年以上、マーケティングをベースとしてWebディレクター、プロデューサーとして数々のプロジェクトを経験。Web業界の酸いも甘いも嚙み分けた結果、人材の案件への適正マッチングこそがプロジェクトの成否を決めるという持論にたどり着く。2020年BA入社。色々な人と会って相談を聞く仕事です。
- 谷口ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
バンコク大学CG学部卒業後、2016年にBAに入社。英語圏での移住/留学/滞在で培った社交力と柔軟性を活かし、社内とクライアントの架け橋として、ウェブサイト運用やサイトリニューアルのディレクション業務に従事。担当領域は、主にCMSで構築した企業サイトの制作進行管理を中心に、情報設計、PDCA改善提案まで。趣味は、音楽鑑賞とカフェ巡り。
- 齊藤ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
Web業界20年。デザイン、コーディング等を経験し、現在はディレクション業務を担当。 メーカーを中心に自動車業界の案件を長年担当していましたが、ようやく他業界の案件にも携わりたいという気持ちがあることに気づき、あわてて2022年にBAへ入社。これまでの様々な経験を活かし、クライアントとエンドユーザーに寄り添った成果物にすることを最優先に据えて毎日お仕事をしています。第一事業部に所属。
Webガバナンスを保つために大切なこと
冒頭で説明したWebガバナンスを保てない2つの原因である、「本社とグループ会社間で認識のズレがある」「 情報管理のシステムがサイト毎に違う」を解消するために、工夫していることはありますか?
昆野:以下の5つのことが大切だと思います。
Webガバナンスを保つために大切なこと
- Webガバナンス実務をスムーズに回すための業務プロセスを設計する
- CMSやアセット管理ツールなど必要な仕組みを導入する
- Webガバナンスを浸透させるために社内教育する
- 適切に運用されているかチェックする
- 状況に合わせてWebガバナンスを見直す
1. Webガバナンス実務をスムーズに回すための業務プロセスを設計する
まず「Webガバナンス実務をスムーズに回すための業務プロセスを設計する」から詳しく教えてください。
谷口:Webガバナンス実務をスムーズに回すために、ガイドラインサイト運用をスムーズに行うための仕組み作りをしています。例えばガイドラインサイトを更新する業務プロセスの策定です。海外に拠点があるため、英語でどういう表現で説明するかも検討しています。
なお、ガイドライン運用は次のような流れで進めています。
- お客様から、リニューアルや一部改修などについてご相談いただく
- ガイドラインへの影響範囲も確認しつつ、当社から提案する
- お客様に、コスト踏まえてガイドラインへの適応の要否を検討していただく
- ガイドラインへの適応が必要と判断されたら、更新箇所をお客様とすり合わせた後、実装者に修正し反映してもらう
- サイトリニューアルや改修が完了したら、ガイドラインもアップデートする
- ガイドラインサイトのお知らせ一覧に変更履歴を掲載する
- 変更対応後、お客様に変更箇所と内容を課題管理ツールで報告する
- 必要に応じてお客様からガイドラインのアップデートについて、グループ会社に報告していただく
齊藤:私はプロジェクトに途中から参加しているのですが、ルールや仕組みはいつでも見直しをして更新するように取り組んでいるため、途中参加の私でもガイドラインの運用・更新はスムーズに対応できていると思います。
2. CMSやアセット管理ツールなど必要な仕組みを導入する
「CMSやアセット管理ツールなど必要な仕組みを導入する」ことが、なぜWebガバナンスを保つことにつながるのでしょうか?もう少し詳しく説明をお願いいたします。
昆野:業務プロセスの設計をした後に必要な仕組みを導入することで、Webサイトに関わる情報の状態を把握しやすくなります。さらに、関連部署間や外部パートナーと情報の共有・活用を促進できるので、結果的にWebガバナンスが保たれます。
3.Webガバナンスを浸透させるために社内教育する
「Webガバナンスを浸透させるために社内教育する」についてもう少し詳しく教えてください。
齊藤:新しい人が入ったり、サイトリニューアルや改修などが予定されていると聞くと、Webガイドラインがまとまっているガイドラインサイトを改めて関係者にご案内しています。そうすることで、関係者が同じスタートラインに立ってプロジェクトに挑めるようになります。
過去に共有して現在も継続して運用に使っている認識ではありますが、このように必要なタイミングでガイドラインサイトを繰り返しご案内することで、Webガバナンスの浸透を期待しています。
4. 適切に運用されているかチェックする
「適切に運用されているかチェックする」についてもう少し詳しく教えてください。
谷口:私たちはガイドラインに合わせてリリース前のチェックリストを作成しています。
X社様の場合、海外法人のサイトリニューアルやリリース予定などの情報は、社内からグローバルサイト担当者に情報が集まる仕組みがあります。そのため、次のような業務フローを設計しています。
- サイトリニューアルの情報を海外法人担当者がグローバルサイト担当者に共有する
- グローバルサイト担当者から海外法人担当者にガイドラインサイトやテンプレートを共有する
- サイト構築が終わったら、グローバルサイト担当者から私たちにリリース前のチェック依頼してもらう
- チェックリストに沿って品質チェックを行い、海外法人担当者へフィードバックする
海外法人側で譲れないポイントがあり、ガイドライン通りのデザインではない場合もあります。そのためステップ2では、ガイドラインサイトやテンプレートに加えて、最低限守るべきこと・推奨事項・現地のマーケティング方針を優先し許容することの3つの枠組みを共有しています。
そしてステップ4では、ステップ2で共有した3つの視点でチェックして、修正箇所が分かるようなドキュメントを作ってフィードバックしています。そしてガイドラインのどこに記載していて、どういう修正をしてほしいのかが、一目で分かるように工夫しています。
5. 状況に合わせてWebガバナンスを見直す
「状況に合わせてWebガバナンスを見直す」について、どのくらいの頻度でアップデート対応をしていますか?
昆野:2ヶ月〜3ヶ月に1回位ですね。提案内容の1つとして入れています。それ以外にも大きめの改修がある場合は、確認・見直しを行っています。グローバルサイトに関連するサイトの数にもよりますが、ガイドラインをはじめとしたWebガバナンス維持コストの予算確保は必要ですね。
齊藤:ガイドラインを見直すタイミングとしては、次のようなものがあります。
- 大きなコンテンツ改修時
- 現地法人サイトのリリース時
- 会社の方針変更
- ガイドラインには載っていないけど、同じような依頼が繰り返し来た
谷口:そうですね。他にも、あまり頻度は高くないですが、現地法人の担当者様から「ガイドラインにこれを入れてくれないか」とご提案いただいたこともあります。現地の声を聞くことで、どのようにサイトを運用しているのか理解を深め、どうすればより扱いやすくなるのかを前向きに考えるきっかけになりました。
このように、必ずしもガイドラインが完璧とは限らないので、適宜ガイドラインへの追加すべきかの判断が必要です。もしガイドラインに影響するのか確認が漏れると、後にガイドライン見直しのタスクが発生してしまいます。Webサイトは新しいのに、ガイドラインが古いままだと、現地法人に届くWebサイトに関する情報が現実と乖離してしまいます。
もしガイドライン更新が遅れると、現地法人から「ガイドラインを発信してくれないのですか?」というお問い合わせが来てしまいますからね(笑)。
ガイドラインが浸透している証拠ですね!とはいえ、Webガバナンスの見直しは簡単ではないと思いますが、どういうデータを元に検討を重ねているのですか?
昆野:目標達成のための方法を考えていると、どうしても新しい技術を取り入れたい、見せ方を工夫したいなど自由度の高いものを試してみたくなります。しかし、それらはWebガバナンスと照らし合わせると懸念事項になる可能性もあります。
Webサイトと同様にガイドライン自体が陳腐化しないように、当社からガイドライン改定のご提案をしていますね。その時は、Webサイトとガイドラインとの2つをセットで改善提案することが多いです。ガイドラインを改定しましょうと提案する場合は、世の中の動向や競合の取り組みを調査した上で、対応が必要な理由や根拠、期待される効果を整理し議論を重ねます。
谷口:そうですね、やはり根拠や裏付けとなる情報を踏まえて提案することで、お客さまも納得した上で判断しやすいのではないかと思います。
そのためガイドライン更新をはじめとした運用における提案は、必ず8社ほどの競合調査を行い、ユーザーインサイトの仮説を立てて、チーム内で施策を検討しています。
昆野:X社様のように多くの国に進出して市場開拓している企業の場合、伝えたいイメージと齟齬のある、古いイメージのままの状態はよくないと思っています。時代・社会や企業の方針に合わせて、企業の考え方を伝えるためには、ガイドラインをはじめとするWebガバナンスを更新し続けることが重要だと思います。
Webガバナンスを保つための工夫
Webガバナンスを保つための体制や手順、普段の取り組みについてもう少し詳しく教えてください。まずはガイドラインサイトについて教えてください。
谷口:Webガバナンスを保てない2つの原因である、「本社とグループ会社間で認識のズレがある」「 情報管理のシステムがサイト毎に違う」を解決する方法として、ガイドラインサイトを運用しているX社様の事例を紹介します。
X社様には、グローバルサイト以外に60を超える国・地域のサイトがあります。各国サイトの担当者からの問い合わせ対応にかかる負担を抑えるために、各国サイトの担当者がすぐに情報を見つけて利用できるガイドラインサイトを運用しています。
一般的なガイドラインサイトの構成要素例として、次の10項目が挙げられます。
- Webサイト全体のコンセプト
- デザインガイドライン
- ウェブアクセシビリティ方針
- CIルール
- トーン&マナー
- コーディングガイドライン
- ワーディングガイドライン
- 執筆ガイドライン
- 編集ガイドライン
- テンプレート
X社様のガイドラインサイトの場合は、次のような内容を掲載しています。
- グローバルサイト全体のコンセプト
- デザインガイドライン
- コーディングガイドライン
- 執筆・編集ガイドライン
- ウェブアクセシビリティ方針
- テンプレート
新規サイト設計時やサイト運用の中で悩んだ時に、判断の拠り所になり、関係者間で同じ目線で相談ができる点が大きなメリットです。
X社様には、各国がすぐに利用しやすいようにグローバル共有コンテンツ(テキスト・画像・実装データ)をガイドラインサイトからダウンロードできるように共有しています。
X社様の場合は、Webガバナンスを維持するためにどのような体制を構築しているのでしょうか?
谷口:X社様の場合、グローバルサイトの担当者様がガイドラインサイトの責任者も兼任されています。グローバルサイト運用に関するお悩みをご相談いただき、当社は課題解決策の提示から実行までのサポートを行っています。その際に、ガイドラインへの適応もセットで実施するかどうかを担当者様と相談しながら進めていますね。
昆野:ガイドライン変更に関する提案内容はディレクター主導で作成し、デザイナー・エンジニアがそれぞれの視点で内容を確認しています。当社内でガイドライン変更案が固まったら、X社様のガイドラインの責任者様に最終確認と実施するか判断いただき、実行していますね。
Webガバナンスを維持するために工夫したことはありますか?
齊藤:ガバナンスを直訳すると統制・管理するという意味ですが、あまりルールや仕組みに囚われすぎないことが重要だと思います。
グローバル展開している企業の場合は、ルールや仕組みに囚われすぎると、特定の国のユーザーが本来体験したいと思うものを提供したり、それぞれの国の文化・考え方に合わせた施策を実行できない可能性があります。
例えば、今その地域でバズっている話題と「この商品」を絡めた施策を試したい、などの自由な発想ですね。国毎の流行りやイベントに合わせてプロモーションすることは、特にグローバルで展開する場合必要です。禁止するルールで縛るよりも、そのような国・地域毎のニーズに応える柔軟なコミュニケーション方法を許容できないと、売上をのばせなくなってしまいます。
Webガバナンスが新しいアイディアの幅を狭めてしまうような運用にはしたくないなと思ったので、運用しながらガイドラインのあり方を大きく見直しました。
昆野:そうなんです。私たちがご支援しているX社様に、もともとご提案していたガイドラインは、非推奨事例のようなルールをまとめたものでした。しかし齊藤さんが説明したような状況を踏まえて、グループ会社がもっと自由な発想でマーケティング戦略に取り組めるように、ガイドラインの考え方を、非推奨事例集から推奨事例集に方向転換しました。
谷口:具体的には、最低限守ってほしいルールだけを定め、それ以外は「こういう表現がおススメです」という画像とHTMLコード、テンプレートなどの「おススメ事例」をガイドラインサイトにまとめています。結果として、ページを追加・更新作業は削減して、コンテンツ制作などの注力したいことに時間を割けるようになりました。
最後に読者の方へ一言お願いします。
昆野:X社様は地域の文化・法規制によって展開する商品を変えているため、現地法人の意思を大事にしています。
しかし、商品特性によっては各現地法人に持たせる必要がないので、本社のWebガバナンスをもっと利かせた方がいいと考えられます。クラウドサービス・コンサルティングのようなパッケージ商品で地域毎にカスタマイズが不要で、世界中で同じメニューを展開している場合です。
このような世界中で同じ商品を展開している企業様であれば、権限設定を細かく設定でき、編集可能範囲を絞れるシステムを導入するという選択肢もあると思います。当社は大規模サイトや複数サイト運用に強みがあるAEM(Adobe Experience Manager)をおススメしていますね。
AEMの機能の中には、Webサイト構築に必要な部品(コアコンポーネント)が標準で準備されています。部品自体がガイドラインに沿っていれば、部品を組み合わせて作成したページは意識しなくてもガイドラインに沿った仕上がりになります。さらにメンテナンス箇所を部品だけに抑えられるため、コスト削減に繋がります。
他にも、アセット管理を一元化したり、ワークフローで公開を管理することも可能です。AEMの概要については、次の記事をご覧ください。
AEM (Adobe Experience Manager) 導入で解決するグローバルサイトの課題 | BAsixs(ベーシックス)
私たちはお客さま企業の商品特性や、企業・社会の状況に合わせて、よりよいWebガバナンス運用方法をご提案します。
まとめ:Webガバナンスは状況に合わせて常にアップデートすることが重要
Webサイトと同様に、Webガバナンスは世の中の動向や企業の状況によって変化し続けます。後編ではWebガバナンスが保てない2つの原因を解消するために、普段大切にしていることや工夫について、インタビューした内容を紹介しました。
前編でも触れた通り、適切かつ円滑なWebガバナンスを継続するためには、
- コーポレートコミュニケーションの視点
- ブランド戦略の視点
- マーケティングの視点
- 品質保証の視点
- 情報システム・セキュリティの視点
- 技術的な視点
など、幅広い視点が必要です。私たちはこれら専門的視点のあるメンバーと、数多くのWebサイト構築・運用に関するノウハウや知見があります。
当社は、特にグローバルサイトを効率的かつ効果的に運用するためには、多くのCMSの中でもAEMをおススメしています。なぜならWebガバナンスを維持しながらグローバルサイトを運用するために必要となる機能を、全て標準搭載しているからです。CMS検討中の方は、比較表もぜひご活用ください。
グローバル企業や、複数人・複数部署でサイト更新する担当者におすすめのCMS比較表2022 | BAsixs(ベーシックス)