Webサイトのリニューアルや制作のプロジェクトマネジメントにおいて、成功と失敗のいずれも経験してきた方は多いでしょう。では、プロジェクトの成功は、どのようなポイントで決まるのでしょうか。
今回は、株式会社ビジネス・アーキテクツ(以下、BA)のリテンション&ディレクショングループのディレクターの森と滝沢に、プロジェクトの成功に必要な取り組みや考え方、外部に発注する際の注意点を伺いました。
「次のプロジェクトは絶対に失敗できない」「このプロジェクトを成功に導きたい!」と考えている企業Webサイトのプロジェクト担当の方やプロジェクトマネージャー(以下、プロマネ)には必見の内容です。

インタビューを受けた人
- 滝沢ディレクター/WEB解析士(ビジネス・アーキテクツ)
IT系企業にてwebデザイン・コーディング・ディレクション・デジタルマーケティングなど幅広く経験した後、2020年BAに入社。webディレクターとしてサイトの制作・運用の他、サイト改善にも携わっている。
- 森ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
2006年頃より広告代理店・制作会社にて、大規模コーポレートサイトを中心にディレクター業務に従事。得意分野は運用。お客様とより良い関係を築きながらサイトに向き合いじっくりと取り組むのが信条。2022年BA入社。わんこと台湾茶が好き。
プロジェクトの成功と失敗に境界線はある?
そもそもプロジェクトの失敗とはどういう状態を指すのでしょうか。プロジェクトと成功と失敗の境界線について聞いてみました。
プロジェクト失敗の定義とは?
これまでプロジェクトで失敗した経験はありますか。また、成功と失敗の境界線はあると思いますか?
滝沢:プロジェクトごとにさまざまな反省点はありますが、最終的に失敗と感じているケースはほとんどありません。一方で、すべて予定どおりにうまくいったというプロジェクトも少ないと思います。
プロジェクトの評価は「成功か失敗」の2択ではなく、お客さまの満足度において100点満点中で何点を取れるのかで決まると考えています。
森:少なくともBAでは、リリースできないといったような、完全に失敗したというプロジェクトは聞いたことがないですね。ただし、無事に目的は達成できたとしても、結果までのプロセスでの失敗はやはりあります。
成功と失敗の境界線という点では、メンバーに不得意なタスクが割り当てられていると、プロセスにおける失敗が起こりやすいと感じます。
もちろん、さまざまなプロジェクトに挑戦するうちに未経験のタスクを担当するメンバーも出てくるので、そういった部分を考慮してフォローすることもプロマネの役割だと思います。
プロジェクトの高度化で難易度が高くなっている
プロジェクトの難易度が上がっていると感じることはありますか。あるとすれば、どのような部分だと思いますか。
森:企業におけるWebサイトの役割やニーズの高まりにともなって、近年はプロジェクトの難易度が高くなっていると感じています。例えば、つくって終わりだけのWebサイト構築ではなく、継続的なWebサイト施策の支援や課題解決、競争力向上への貢献が求められるようになっています。
滝沢:GDPR(注1)などの海外向けの対応やアクセシビリティなど対応する範囲が拡大している一方で、スケジュールの短期化も求められるようになっていますね。
(注1)GDPR(General Data Protection Regulation):EU一般データ保護規則
成功と失敗の分岐はプロジェクトマネジメント
プロジェクトの成功と失敗の分岐点があるとすれば、どのようなものだと考えますか。
森:あえて挙げるとすれば、「プロジェクトの先行きを見通しての行動」でしょうか。例えば、プロジェクトを進めるうえで発生しうるリスクを企画段階から洗い出し、解決策を用意しておくことで、トラブルの回避や最小化につながります。
BAでは、プロジェクト単位の報告や各メンバーの稼働状況から、トラブルが起こりそうな部分を精査しています。メンバーが1人で問題を抱えこむことなく、プロジェクトから部署、会社全体に情報が共有されるように仕組みを整えています。
このような体制のおかげで、小さなアクシデントやトラブルがあってもプロジェクトを失敗に発展させずに済むのです。
滝沢:そうですね。やはりトラブルが発生した際に迅速に対応し、大きなトラブルにはさせない、という点は分岐になるかもしれません。個人的に、成功と失敗を分岐するトラブルやリスク回避策には、3つの段階があると考えています。
1段階目は「トラブルが発生する可能性やリスクを先読みする」ということ。2段階目は「トラブルの発生時にどこまで対応するかを明確にする」ということ。そして3段階目が「トラブルの対応方法についてお客さまの合意を得ること」です。
1段階目が最も重要で、BAでは早期に問題をキャッチすることでトラブルを未然に防ぐよう工夫しています。2段階目はトラブルが起きたあとの段階で、トラブル対応のアクションを明確にすることで作業のヌケモレをなくすことが目的です。3段階目では、2段階目で決めた内容に問題がないかお客さまと認識をすり合わせます。
トラブルが発生しないように未然に防ぐことが重要ですが、もし発生したとしても、2段階目・3段階目で適切に対応することで新たなトラブルが生まれないようにしています。
事例に学ぶプロジェクトのトラブル回避
プロジェクトを進めるうえで、細かなアクシデントが起きるのは避けられません。BAで実際にあったトラブル事例からトラブル対応のポイントを学び、プロジェクトを失敗させない取り組みに活かしましょう。
プロジェクトの失敗、原因と対処の事例
これまでに経験した具体的なトラブル事例と、そこから学んだことをお聞かせください。
滝沢:あるプロジェクトで、納期直前に大幅な方針変更が起きたことがあります。お客さまとBAの認識に齟齬があり、プロジェクトがかなり進んだ段階で、お客さまのイメージと乖離していることが発覚しました。
お客さまの多くはWebサイト制作のプロではないので、プロジェクトがスタートしても実現したいことが明確でなく、サイトが完成するまで要望にマッチしていないことに気付けないこともあります。
この事例のようなトラブルを防ぐには、お客さま自身が説明しきれない部分も含めて本質的な課題と要望を正確に吸い上げること、そしてお客さまが良し悪しを判断しやすい成果物を出して進行することが重要だと考えています。
森:「ここまで作業して当然」と思って指示したことが受け取る側の認識が異なっていたなど、ちょっとした考え方の違いからトラブルが発生することもありますね。
BAでは小さなトラブルでも解消後に振り返りを行い、改善点や防止策をルール化して再発防止策を講じています。嫌なことは忘れがちなので、早めにやるのが肝心です。
プロジェクトで発生したトラブルをどう共有する?
トラブルに向き合う際に注意すべき点を教えてください。
森:お客さまやメンバーに過度な不安が生じないよう、トラブルの内容について簡潔かつ正確に伝えることを心がけています。プロジェクト内では立場や役割の違いによって伝える必要がない情報もありますが、お客さまにトラブルの存在を伏せておくメリットはないので、トラブル発生時の情報共有は誠実であるべきと考えます。
滝沢:トラブルの種類にもよりますが、基本はメンバー内で可能な限り対策を検討したうえで、お客さまへの報告と対策方法の提案を行います。
影響が大きい場合や緊急性が高い場合は、お客さまに事態を説明してから対策を検討します。しかし、トラブルが起こった事実だけをお伝えするとお客さまに不安を抱かせてしまうので、状況が許す限り、解決策と併せてお伝えするようにしています。
森さんと同じく、大事なのはお客さまやメンバーを不安にさせないように動くことだと思います。
危機的状況のプロジェクトを立て直す秘訣
トラブルが発生したプロジェクトの立て直しにあたるプロマネは、どのように行動すべきなのでしょうか。トラブル対応においては、状況を整理して解決へのステップをつくること、スピーディーな対応にすること、チーム一丸となって取り組むことが重要だ、と滝沢と森は言います。
トラブルを課題に置き換えて解決する
トラブル解決に向かってどのような段階をふみますか?
滝沢:まずは焦らず、起きている状況を整理することから始めます。このフェーズでは作業量や全体像の把握が難しいので、チーム全体で一緒に考えていくことが大事です。
解決すべき点の整理や優先度を考え、視野を広くして複数の方向性で検討することも必要になります。
その後、具体的な対策を練り、解決に向かって迅速に行動します。
森:心がけているのは、自分一人で抱えこまないことですね。上司や同僚など、プロジェクトに直接関わっていない人にも相談します。ただし、的確なアドバイスをもらうためには正確な状況説明が必要なので、相談する際にはトラブルが発生した流れや現状など、具体的な内容を再度整理するようにしています。
迅速な対応で解決方法の選択肢を増やす
トラブル対応が遅れるとどのようなリスクがあるでしょうか。
森:一番のリスクは、お客さまからの信頼を失うことです。何年もかけて積み上げてきた信頼を一つのトラブルで失うこともあり、実際に前職ではトラブルをきっかけに取引終了に至ったケースを見ました。
滝沢:制作側にとっては小さなトラブルでも、お客さまにとっては多大な損失や納期の大幅な遅れにつながる可能性があります。トラブルが発生した際には、解決策の選択肢をできるだけ多く考え、そのなかでベストの対策を取れるようにしています。
モチベーションを維持・向上させる
プロジェクトでトラブルが発生したとき、メンバーにどう接しますか。
滝沢:普段と同じように「今やるべきこと」を意識して動き、メンバーにもそのように行動するように促しています。焦って状況を変えようとしたり失敗を悔やんだりしても、自分で変えられるのは「今できること」だけです。
トラブルの原因究明や再発防止策の検討は、解決してから考えればよいことなので、まずは前向きに行動するようにメンバーに働きかけ、チーム全体のモチベーション維持を図っています。
モチベーションを低下させないためには、犯人捜しをしないのも鉄則ですね。トラブル対応にはチーム全体の協力が不可欠です。トラブルがあったらすぐに集結して、一枚岩になって向き合うことが大切です。
森:チームが一体感をもつためには、感情の共有も必要だと思います。トラブルが起こるとチーム内にプレッシャーが生じがちなので、みんなが精神的に追い込まれないよう気を付けています。余計な緊張がほどけることで、意外とスムーズに解決へと動き出すこともあるので。
プロジェクトを成功に導くプロジェクトマネージャー像
プロジェクト進行中のリスクを管理し、発生したトラブルに適切に対応できるよう体制を整えておくことで、プロジェクトの大きな失敗は回避できるでしょう。プロマネはプロジェクトを進行するだけではなく、リスク管理やトラブル発生時の対応も主導します。やりがいとともに大きな責任もともなうプロマネですが、プロジェクトを成功に導くプロマネ像とはどのようなものでしょうか。
これまでに出会ったすごいプロマネとその人から学んだことを教えてください。
森:以前、Webの専門知識をあまりお持ちではなく、要望の整理もまだできていないお客さまとの打ち合わせがありました。正直お客さまのお話も要領を得ない状態だったのですが、そのとき同席していたプロマネはお客さまのお悩みに共感しつつ、抱えている課題をすぐに整理したうえで具体的な解決案を説明していました。
私には特殊技能かと思えるほどの理解力でしたが、お客さま自身も言語化できない課題や要望を吸い上げることがプロマネにとって重要なスキルなのだと痛感しましたね。
滝沢:BAのプロマネはみなさん個性豊かで、学ぶべき点が多くあります。先ほど言った今やるべきことを見つめる姿勢も、私自身が社内のプロマネから学んだことです。
方針から覆るような変更があっても柔軟な対応で納期どおりに進行できてしまう人や、ドキュメント化の達人でタスクや情報を正確に管理できる人、視野が広くて自分のプロジェクト以外でも懸念事項を指摘したり、的確な助言をくれたりする人など、BAはすごいと思える人だらけです。
このような人たちと一緒にいると、自分の考えに固執せず頭をもっと柔らかくしようと思いますし、より広い視野で物事を考えることの大切さを実感します。
まとめ:プロジェクト失敗を回避するために必要なこと
今回のインタビューを通して、目標を達成できたプロジェクトにおいても、そのプロセスでは小さなトラブルや失敗が発生していることがわかりました。だからこそ、適切なリスクコントロールを行い、問題を解決するプロジェクトマネジメントが重要です。
BAでは経験豊富なプロジェクトマネージャーと、会社全体で問題の早期発見と解決をサポートする体制があります。
さらに、プロジェクトを失敗させない、すなわち満足度の高い成果物を提供するためには、顧客の潜在的なニーズまで掘り下げることや認識の齟齬を生じさせない、丁寧なコミュニケーションと柔軟な対応力が必要といえるでしょう。
最後に、プロジェクト失敗を回避するためのアドバイスを聞いてみました。
プロジェクトを失敗させたくない担当者の方へのアドバイスをお願いします。
森:ベンダーを選定する際は自社がWebサイトに求めることと、ベンダーの得意分野や実績を照らし合わせることが肝心だと思います。
金額の安さだけでベンダーを選ぶと要望に沿った対応をまったくしてもらえない、イメージ通りの仕上がりにならないなど苦労する可能性があるので、判断は慎重にしていただきたいですね。
滝沢:Webサイト制作において基本的かつ重要な要素は、「完成形のイメージをお客さまと共有できていること」です。
しかし、ベンダー選定の段階では、「Webサイト制作を経て何を達成したいのか」がまだ明確になっていない場合もあります。方針が定まらない状態で提案書やプレゼンを見聞きしても、自分たちが望んでいる結果になるのかを判断するのは難しいと思います。
BAでは、私たちプロマネがお客さまの要望を深掘りして本質的な問題を吸い上げ、それを解決できる完成形のイメージを明確にしてから進めます。何が本当の課題で、どこを改善すれば課題が解決するのか、認識をすり合わせたうえでスタートできるかどうかが、プロジェクトの成功、ひいてはお客さまの満足度を左右します。
そのため、プロジェクトをスタートさせる前は一度ベンダーのプロマネと「完成形のイメージ」についてきちんと話し合う場を設けることをおすすめします。
具体的なイメージや指標を共有しながら、お互いに丁寧なコミュニケーションを積み重ねることがプロジェクトの成功につながると考えています。