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京セラのWebサイト品質向上施策の舞台裏【中編】「企業目線に偏ったWebサイト」を脱するためには?

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BAsixs編集部

日々の業務の中で「あたりまえ」をアップデートできた取り組みを発信しています。

京セラ株式会社(以下、京セラ)のWebサイト品質向上施策は、全社での横断的なデジタルマーケティングを達成するために始まりました。しかし、横断施策を動かせば動かすほど、次に浮き彫りになったのは「Webサイトの品質」でした。リード獲得やナーチャリングを強化しても、入口であるWebサイトがお客さまの探索行動に合っていなければ、成果は伸びません。

本記事(中編)では、京セラの北垣様とビジネス・アーキテクツ(以下、BA)の橘が、Webサイトの診断調査の裏側、その結果をもとに意思決定を通すための設計、そして企業目線に偏ったWebサイトにしないためのポイント、第三者視点で「共通言語」を作る話と、正しさだけでは動かない合意形成のリアルを扱います。

本シリーズ(前編・中編・後編)は、京セラが横断的なデジタルマーケティングを推進していくうえで、Webサイトの品質向上施策をどう立ち上げ、どう分割し、どう合意形成していったのかを紐解く3本立てです。大きな組織ならではの、事業部門ごとに異なる事情の整理、情報共有の場づくり、全体最適と個別最適の両立に迫ります。

京セラのWebサイト品質向上施策の舞台裏──「企業目線に偏ったサイト」を脱するためには?【中編】

インタビューした人

プロフィールアイコン(写真):Chief strategist(ビジネス・アーキテクツ) 橘 守
橘 守Chief strategist(ビジネス・アーキテクツ)

リクルート「住宅情報」「カーセンサー」、ポイントキャスト代表取締役社長、Jストリーム事業推進部部長を経て、2005年エクスペリエンス設立。 2025年ビジネス・アーキテクツにジョイン。「わかりにくい」を「わかりやすく」、「使いづらい」を「使いやすく」が仕事のテーマ。「数字で説明する」が信条。

インタビューを受けた人

  • プロフィールアイコン(写真):広報室/ブランドコミュニケーション部/責任者(京セラ株式会社) 北垣 良介様
    北垣 良介様広報室/ブランドコミュニケーション部/責任者(京セラ株式会社)

    京都の印刷会社にてグラフィックデザイナーと提案営業を経て、2006年に京セラへ入社。同社 広報室で京セラグループのブランド戦略およびPR活動、デジタルメディア推進におけるマネジメントを担当している。

プロジェクトを進める中で露呈したWebサイトの「品質」

前編では、京セラ様がWebサイト品質向上施策を立ち上げた背景を伺いました。中編では、その課題をどう具体化していったのかにフォーカスします。横断的なデジタルマーケティングを進める中で、なぜWebサイトの課題がより明確になっていったのでしょうか。

北垣氏:横断でリードを取る仕組みが回りはじめると、今度は「入口」がボトルネックになってきました。オンラインイベントやセミナーなどを実施して、リード自体は取れる。でも、その後に「ビジネスにつなげる」となった際、今のWebサイトがそのままで本当に良いのか、という違和感が出てきました。

橘:リード獲得やナーチャリングを仕組みとして動かせば動かすほど、入口となるWebサイトの弱さが露呈する、ということですね。

北垣氏:そうです。お客さまの入口となるWebサイトが機能していないと、獲得したリードの価値が落ちる。だからこれは、単なる見た目の話ではなく、BtoBサイト全体の品質をどう高めるかという、全社的なテーマになっていったんです。

とはいえ、事業部門側からは予算やリソースなどの懸念点も出るのではないでしょうか?

北垣氏:もちろんリソースの話は出ました。事業部門にはそれぞれ事情があり、Webサイトを作る必要があると指摘されても担当者もいないし予算もない、というのは自然な反応です。

しかし、「内部の事情を優先してお客さまの入口が弱いまま」では、横断的なデジタルマーケティングは成立しません。何より、ビジネス的な側面から考えても本末転倒です。そんなギャップを埋めるために、このプロジェクトを進めていきました。

写真:北垣 良介氏 / 広報室 コミュニケーションデザイン部 責任者(京セラ株式会社)

BAが京セラ様のプロジェクトに関わることになったきっかけを聞かせてください。

北垣氏:最初から「BAさんにお願いしよう」と決めていたわけではありません。まずは、現状のWebサイトの課題を客観的につかむ必要がある、と。その手段としてWebサイト自体の調査をする必要性が出てきました。

そんな中で、元々つながりのあった橘さん側から「Webサイトの診断調査」が提示されて、検討がはじまった、という流れです。

橘:BAの実施しているWebサイトの診断調査は、単に点数をつけることではなく、「何が問題で、何を決めるべきか」を整理する工程です。京セラ様の状況だと、まさにそこが必要な段階だったと思います。

北垣氏:そうですね。Webの品質が課題だと言っても、社内に説明する材料がないと前に進みません。そのまま意思決定で使える調査結果を期待したのが大きいです。

橘:全社案件ほど、「客観視」と「次の意思決定」がセットになります。課題を客観的に言語化できると、合意形成が「好き嫌い」ではなく「設計」になる。そこまで持っていくのが我々のような外部から支援するパートナーの役割でもあります。

写真:橘 守 / Chief strategist(ビジネス・アーキテクツ)

第三者視点を取り入れた 全社を動かす「共通言語」

BAのWebサイト診断調査で、社内の議論はどう変わりましたか?

北垣氏:さまざまなフィードバックをいただきましたが、特に重大な課題は、「京セラのWebサイトは作り手(社内)都合になっていて、お客さまの満足度を高める設計になっていない」ということでした。これが外部の有識者による第三者視点で整理されたことで、社内の議論も進みやすくなりました。

橘:診断調査の価値は「指摘」だけではありません。論点を並べ替え、次に何を決めるべきかを見える形にする。社内合意に使える「共通言語」に落とし込むことが重要です。

北垣氏:まさにそこです。社内で通すためには、事業部門を説得する必要があります。その際に、第三者に言われた課題が、そのまま社内説明に使える言葉になっていると前に進めやすい。

BAさんの調査は「課題がありました」というだけではなく、資料としてそのまま社内説明に使える粒度で情報が整理されていたのも大きかったです。上層部に持っていく際に、こちらで別の言葉に置き換えなくても論点が伝わる。そこは非常に助かりました。

そういった背景を踏まえて、以降の支援パートナーはどのように選定したのでしょうか?

北垣氏:支援パートナーについても、最初からBAさんに決めていたわけではありません。客観性や公平性の観点もあって、複数社に提案をお願いしました。

橘:比較すること自体が、社内の説明責任にもなりますよね。比較提案を通じて、「なぜこの会社なのか」という意思決定の軸が固まっていく効果もあるはずです。

北垣氏:そうですね。BAさんは、診断調査の段階から京セラのことを理解してくれたこともあり、「どうあるべきか」という思いも受け取ったうえで提案してくれました。

言い換えれば、「京セラとして描きたい横断的なデジタルマーケティングに最もフィットしているパートナーと組みたい」という軸があったからこそ、社内の意思決定がスムーズになった部分もあると思います。結果として、その軸に合っていたのがBAさんでした。

写真:左からビジネス・アーキテクツの橘、新山、三木が話す様子。

「運用」を見据えた費用負担の棲み分け

全社を巻き込んだWebサイト品質向上施策では、費用負担の整理も避けられない論点だと思います。どんな考え方で整理したのでしょうか?

北垣氏:まず、調査や方針づくりといったいわゆる上流工程の費用は、Webサイトの品質を向上させることでブランディングにもつながり、デジタルマーケティングにもつながります。だから全社側(広報室とデジタルビジネス推進本部)で負担しました。

一方で、Webサイト自体は事業部門のものなので、制作費は事業部門に負担してもらいました。こちらが作って「どうぞ」と渡しても、責任感や思い入れが生まれないと考えました。

例えるなら、「土地」は全社側が所有して、実際の「建物」は事業部門が所有するという考え方ですね。

橘:大きい企業の場合、部門別の採算意識が強いので、「どの部門がどこを負担するか」は必ず論点になります。「全社として整えるべき基盤」と「事業部門が責任を持つべき領域」を分けて考えることが重要だと思います。

費用負担をこうして棲み分けた狙いは、どこにあったのでしょうか。

北垣氏:プロジェクトがローンチした後も、継続的に「運用の自走」をしてもらうためです。管理していない「建物」はボロボロになっていく。だから、事業部門の情報を発信するWebサイトは責任を持って運営してもらいます。

一方で、全社側は基盤や設計を支えます。マーケティング活動がまだ整っていない部門もあるので、そういったコンサル的な費用は全社側が支援する、といった棲み分けですね。

橘:なるほど。社内の費用負担の棲み分けは、完成のためだけでなく、完成後の運用を成功させるための設計ということですね。たしかに中央集権的だと他人事になりやすく、逆に運用する人だけに寄せるとそもそも進まない、という企業は多いですね。

集合写真:京セラ様オフィスにて壁面コーポレートサインの前で、左から松田氏、篠原氏、北垣氏、橘、新山、三木が並び談笑する様子。

全社横断プロジェクトは「正しさ」だけでは動かない

合意形成を前に進めるうえで、北垣様が一番大事にしていたことは何ですか?

北垣氏:第一は「あるべき姿」をしっかり持つことです。言語化して、今とのギャップを見つける。そのギャップが課題なので、解決すればそこに行ける、というイメージを常に持っています。

あと定性的な点では、「明るくやること」と「諦めないこと」の2つですね。実際に人を巻き込んでいくとなった場合に、仕組みだけでなくこの定性的な部分も大事だと思っています。

橘:「明るくやること」と「諦めないこと」、シンプルで良いですね。これは単なる精神論ではなく、「相手が参加しやすい状態をつくること」が、結果的に合意形成の最短距離になるという合理的な視点だと思います。

北垣氏:そうなんです。最初の対話で相手のリアクションが良くなかった場合、表面的には「わかりました」と一度引きます。でも、自分は「あるべき姿」を忘れずに、ずっと考えておく。相手はその時の状況だけで判断することも多いので、こっちがずっと考えていれば、いずれ前に進む可能性が高くなります。

また、会議などで真正面から同じ話をし続けるだけだと、相手は構えてしまうことも多いです。そのため、伝えるための「チャンネルを変える」ことを意識しています。

「チャンネルを変える」とはどういうことでしょうか?

北垣氏:例えば、対話したい相手と食事の場があるなら、仕事の話はせずに楽しく一般的な会話をします。それで最後に「じゃあ、あれもよろしくお願いします」と一言だけ置く。すると相手も「ああ、わかりましたよ」となる場合が多いです。

勝ち負けで押すというより、相手に考えてもらう場面を変える、という感覚です。全社横断的なプロジェクトは関係者が多いので、一方通行の正しさだけではなかなか動きません。押し切るのではなく、一緒に考え、参加できる形を作るのが良いと思います。

写真:北垣氏が笑顔で話している様子

全社を巻き込んだ「横断的なプロジェクト」を進めようとしている方へメッセージをお願いします。

北垣氏:最初にやるべきことは、「したいこと」を決めるのではなく、「どういう成果を求めるか」を決めることです。

また、現実論としては、最初から完璧を狙わないこともポイントだと思います。小さくても動く形を作る。少人数でもいいから動き出す。そして諦めずにチャンネルを変えつつ、明るくやることで仕事が楽しくなる。結局そこが一番大切なのではないでしょうか。

橘:もし今、「デジタルマーケティングが大事なのはわかっているのになかなか動けない」「診断調査や改善が次の行動につながらない」と詰まっているなら、おそらくそれは課題認識の解像度とそれに関する関係者の共通認識にあります。

BAが提供できるのは、制作物そのものだけではなく、「意思決定が動く状態」をつくる支援です。課題の解像度を高め、客観化し、社内で判断ができる材料をつくるのはBAの得意分野です。まずは「何を決めれば前に進むのか」を一緒に棚卸しするところからが第一歩ですね。

意思決定しやすい「判断できる状態」を先に作る

今回の中編で印象的だったのは、「企業目線に偏ったWebサイト」を脱するために、いきなり制作や改修へ進んだのではなく、社内が判断できる状態を先に作っていた点でした。多くの組織は「とにかく新しくしよう」と表層の話に飛びがちですが、京セラ様が最初に整えたのは、議論を前に進めるための材料と順番でした。

また本記事の後半で語られた「明るくやる」「諦めない」「チャンネルを変える」という北垣様の信条は、精神論ではなく、横断プロジェクトを進めるための実装論だと感じました。人は正しさだけでは動きづらいという普遍的な課題を、相手が参加できる形をつくり、時間を味方につけて前に進める。全社規模の改革には、こうした動かし方が不可欠なのだと再認識しました。

次回の後編では、この考え方が現場でどう形になっていったのかに焦点を当てます。マーケティング担当だけでなく営業担当も巻き込んだ事業部門へのヒアリング、全社の情報棚卸しによる全体像の可視化、叩き台を起点にした法人向けメニュー(ナビゲーション)の整理、整理した内容を実際の導線へ落とし込むまでを追います。