例えばサイトリニューアルの時にアクセシビリティ対応を考慮したサイト設計にして、ガイドラインも作ったけど、リニューアル後は内容の見直しをしないまま時間が経過してしまったことはありませんか?時間経過に伴い、 現在はアクセシビリティ対応が十分では無い可能性があります。
今回は現役Webディレクターの3人に、過去に担当していたWebサイトの経験を通じて、よくある勘違いや、その対応方法について聞いてきました。
ウェブアクセシビリティの維持にお困りの方は是非お気軽にご相談ください。これまで培ってきたWebサイト運用の知見やノウハウをもとに、お客様の目的や状況に合わせた解決方法をご提案いたします。
インタビューを受けた人
- 柳沢 利成第1事業部 マネージャー/シニアディレクター/フロントエンドエンジニア(ビジネス・アーキテクツ)
1996年よりWeb制作に従事。生産性と品質を両立する全体最適化を意識した「使えるウェブサイト」とすることを心がけている。2003年にBAに参加し、ディレクターやフロントエンドエンジニアとして数々のプロジェクトに参画。2005年にサイト運用や中小規模サイト構築を手がけるグループ会社を立ち上げ、現場責任者として陣頭指揮をとり、スタッフ1人あたり数百万円の営業利益を上げる。その後3年間の流浪を経て2021年にBAに復帰。主にディレクターとしてBAのサービス向上に努める。
- 森ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
2006年頃より広告代理店・制作会社にて、大規模コーポレートサイトを中心にディレクター業務に従事。得意分野は運用。お客様とより良い関係を築きながらサイトに向き合いじっくりと取り組むのが信条。2022年BA入社。わんこと台湾茶が好き。
- 齊藤ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
Web業界20年。デザイン、コーディング等を経験し、現在はディレクション業務を担当。 メーカーを中心に自動車業界の案件を長年担当していましたが、ようやく他業界の案件にも携わりたいという気持ちがあることに気づき、あわてて2022年にBAへ入社。これまでの様々な経験を活かし、クライアントとエンドユーザーに寄り添った成果物にすることを最優先に据えて毎日お仕事をしています。第一事業部に所属。
世の中の動向
2021年5月に成立した改正障害者差別解消法が2024年4月1日より施行されます。民間を含む事業者に対し、障がい者への合理的配慮を義務付けるものとなります。
また個人情報の保護の重要性が注目され、日本の個人情報保護法や海外のGDPR(EU一般データ保護規則)などをはじめとした規則・規制や法制度の整備も各国ですすめられています。
それにより国内の一般企業でもウェブアクセシビリティの重要性がますます高まっています。GDPRの日本企業への影響や、GDPRへの対応プロセスなどは、次の記事に詳しく説明しています。
完全理解!GDPR(EU一般データ保護規則)とは? | BAsixs(ベーシックス)
少なくともグローバル展開予定・グローバル企業の場合は、どんなにインフラが整っていない国でも最低限の情報を届けること、全ての人が見つけやすく使いやすい情報設計に、会社として取り組むことが求められます。
そもそも、なぜウェブアクセシビリティに対応すべきかは以下の記事で詳しく説明しています。
ウェブアクセシビリティ対応があらゆるサイトで求められている理由と内容・事例 | BAsixs(ベーシックス)
では、国内企業ではどのようなウェブアクセシビリティ対応をしているのでしょうか。例えば、海外に進出している日本企業の1つ、パナソニック ホールディングス株式会社のコーポレートサイトのウェブアクセシビリティ方針では、日本語サイト、グローバルサイトどちらもアクセシビリティ方針と試験結果を公開していますね。
他の業種でもウェブアクセシビリティ方針を策定し、毎年試験結果を公開している企業も年々増えています。
メーカー(岩崎電気株式会社):ウェブアクセシビリティ対応方針 | 岩崎電気
医療(中外製薬グループ):ウェブアクセシビリティ対応|中外製薬
運輸(ANAホールディングス株式会社):ウェブアクセシビリティについて|ANA
また、改正障害者保護法の施行を受けて、今後は国内の民間企業もウェブアクセシビリティ対応が義務化されるため、他人ごとではなくなります。例えば、花王株式会社は2021年にウェブアクセシビリティ方針を公開し、取り組みを始めました。
とはいえ、過去に対応して移行、維持できていない企業もあります。
例えば、組織変更などで引き継いでもらえてないと、いつのまにか維持できていない状態になることもありますよね。国内のみに拠点がある企業は、社外から指摘されることが少ないので気付けない場合もあります。
では、そもそもウェブアクセシビリティに対応している状態とは、どのような状態を指すのでしょうか。
「ウェブアクセシビリティに対応した」といえる状態とは?
W3C/WAIにより策定された、ウェブアクセシビリティに関するガイドライン(WCAG、JIS X 8341-3)の基準には、3つの適合レベル(AAA、AA、A)と、3つの対応度(準拠、一部準拠、配慮)があります。そして各Webサイトの方針(適合レベルと設定した対応度)によって、やるべき対応は違います。
そのため、ウェブアクセシビリティの方針に応じて、「ウェブアクセシビリティに対応した」といえる状態は異なります。
各対応度の要件について詳細は、以下サイトをご覧ください。
ちなみにウェブアクセシビリティの方針の公表は任意であり義務ではありません。もし適合表明をする場合は、以下5つの情報が含まれる必要があります。
- 表明日
- ガイドライン名、バージョン、及び URI "Web Content Accessibility Guidelines 2.1 (https://www.w3.org/TR/WCAG21/)"
- 満たしている適合レベル: (レベル A、AA、又は AAA)
- 対象となるウェブページに関する簡潔な説明: 例えば、サブドメインも表明の対象に含まれているかどうかも含む、表明の対象となっている URI のリスト。
- 依存しているウェブコンテンツ技術のリスト
出典 : 5.3.1 適合表明の必須要素|5.3 適合表明 (任意)|Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.1 (日本語訳).ウェブアクセシビリティ基盤委員会 | Web Accessibility Infrastructure Committee (WAIC).(参照 2024-1-31)
過去に担当していたWebサイトの経験を語る
過去に、こういう相談があったという事例があれば教えてください。
森:私が直接担当していた案件ではないですが、グローバルブランドを展開するお客様の米国向けサイトでスラップ訴訟を起こされてしまい、急遽アクセシビリティ対応が必要になったと相談いただいた経験があります。
齊藤:スラップ訴訟ですか!米国と言えば、ウェブアクセシビリティ関連の訴訟が年々増えています。グローバル企業は色んなリスクを予想して回避策を検討する必要がありますね。
ところでウェブアクセシビリティの可読性を担保するために、ヘッダーの右あたりに文字サイズを変更できる「大」「中」「小」や「拡大」「縮小」のようなボタンが設置されているサイトを見たことがありますか?
今では実装されることが少なくなりましたが、当時、設置してほしいとお客様から要望いただき実装したことがあります。文字の大きさによって崩れているように感じる箇所の修正を求められることがあり、難儀したことがあります。
当時はまだブラウザに拡大や縮小する機能が無かったため、文字サイズを変更できるボタンが設置されているWebサイトは多かったですね。これだけを実装してもアクセシビリティに対応したとは言えませんが。
柳沢:文字サイズを変更できるボタン、数年前までよく見かけましたね!
私の場合は、あるお客様より、過去に決めた「アクセシビリティ指針書」は「WCAG2.0の適合レベルAに準拠」した内容となっているが、「WCAG2.1で追加された適合レベルAの達成基準を盛り込んでほしい」とご相談を頂きました。
アクセシビリティガイドラインの更新事例を以下よりご覧いただけます。
アクセシビリティガイドラインの更新事例 K社様 | BAsixs(ベーシックス)
森:意識が高いですね。お客様がバージョンまで気を配っていらっしゃるケースは少ないように感じます。
齊藤:私もそう思います。業種によりますが、制作会社から提案するほうが一般的かもしれません。
皆さんが担当していた企業は、なぜアクセシビリティに力を入れていると思いますか?
柳沢:先ほど話したお客様は、お客様とお話する中で高品質なものづくりとサービスを提供したいという思いや、最後まで粘り強くやり遂げるという姿勢を感じとりました。だからウェブアクセシビリティに取り組んでいるのだと思います。
他には、アクセシビリティアワードの主催者様のサイトというケースもありました。主催者という立場上、自分たちのサイトはアクセシブルでなくてはならない、という強い思いをお持ちでした。
森:なるほど、そういうお客様もいらっしゃったのですね。
過去に担当していたあるメーカーのお客様は、企業の社会的責務の一つとしてユニバーサルデザインに熱心に取り組んでいらっしゃいました。その一環としてコーポレートサイトのアクセシビリティ対応に力を入れており、社内でガイドラインを策定し、それに沿った運用をされていました。
齊藤:私の前職の場合は、より多くのユーザーへ情報を伝えるため、長期的には売上にも繋げたいという意図だったと思います。
皆さんが過去に担当していた企業は、普段どんな運用ルールにそって運用していましたか?
齊藤:前職は自動車関連企業のお客様が多かったので、利用者は「自動車を運転できる人」という前提で考えていました。
想定されるWebサイト利用者には高齢者も多いため、文字の大きさなど視認性を配慮してコンテンツの更新を行っていましたが、W3C/WAI WAIG(Web Content Accessibility Guidelines)やJIS規格に準拠するといったものではありませんでした。
森:ウェブアクセシビリティはSDGsと同じく、売上に直結するものではないため、ウェブアクセシビリティ対応の必要性を理解なさっていない企業もまだまだいらっしゃいますよね。
先述のメーカーのお客様は、JIS項目に対応させた制作ガイドラインには、その旨を明記していました。
運用ルールについてはチェックする対象ページを予め定め、年に1度、基準を達成しているかチェックしていました。
柳沢:森さんが担当されたWebサイトはきちんとアクセシビリティ対応が回っていたのですね。
官公庁が情報格差をなくすためにウェブアクセシビリティに取り組んでいるように、生活インフラに関わるメーカーや金融業のお客様からはウェブアクセシビリティに関する要望が多いですね。
齊藤:そうですね。メーカーの場合は、リコールの情報というような商品の重要な情報を伝えないといけないという立場もあります。また、利用者からの「もっとこうしてほしい」という要望に応えて企業姿勢をアピールしたい、という想いもありそうですね。
コンテンツの更新頻度が高い場合は、コンテンツを追加・更新する度のチェックは難しい場合が多いので、森さんのように「チェックする対象ページを予め定め、年に1度、基準を達成しているかチェックする」というやり方が現実的だと思います。
柳沢:グローバル企業などで海外拠点の法制度を考慮する必要がある場合は、コンテンツの公開前にチェックする運用フローがある場合もありますよ。
業種やグローバル展開しているかどうかでウェブアクセシビリティ対応への意識はちがうのですね。ウェブアクセシビリティ対応の維持が難しくなる理由で多いのは、何ですか?
柳沢:一番ありがちなのはコンテンツだと思います。例えば、次のようなケースが考えられます。
- 担当者や案件ごとに発注先の制作会社が異なっており、品質にばらつきがある
- 発注先を決める際の基準にアクセシビリティ対応力が考慮されていない
- 成果物に対するチェックが不十分
- アクセシビリティを維持するための仕組みや計画がない
アクセシビリティを考慮せず制作したコンテンツが日を追うごとに増えると、サイト全体としてみてもレベルが下がって、アクセシビリティ対応を維持できなくなります。このような場合は、チェックを運用フローに組み込めば、防げそうですね。
森:いいですね。ウェブアクセシビリティの観点も含めたチェックリストを事前に用意して関係者に共有しておくことは、ガイドラインの周知漏れを防ぎ、各関係者がウェブアクセシビリティをジブンゴト化するのにも役立ちますね。
例えば、Webサイト統括部門から実際のコンテンツ制作を行う社内の各部門、さらには新しく取引を開始した制作会社へ、チェックリストを共有することはウェブアクセシビリティ対応の維持に有効です。
齊藤:このコンポーネントを使っておけばいい、ガイドラインを関係者に共有しておけば大丈夫、といった特効薬はありません。アクセシビリティ対応をしようという意識のある人が必要で、その方たちとサイト運用を推進する事務局のような役割がいれば回ると思います。
アクセシビリティチェック結果を受けての対応例をご紹介しています。
ウェブアクセシビリティのチェック結果から、構築・運用でできる対応例を紹介 | BAsixs(ベーシックス)
ウェブアクセシビリティ対応について、普段工夫していることや注意点などがあれば教えてください
森:デザインを優先するとウェブアクセシビリティの基準を満たせない、というジレンマがあると思います。特にプロモーション色が濃いコンテンツは逸脱しがちだと思うので、ガイドラインに目指すところと理由を明記する必要があると思います。
齊藤:たしかにプロモーション用のWebサイトやLPは各事業部が担当することも多く、別の制作会社へ依頼する場合がありますからね。
お客様の中には、アクセシビリティ対応の必要性を感じていない企業や、予算的にウェブアクセシビリティ対応を考えていない企業もいらっしゃいます。想定されるエンドユーザーを調査し、どういったことに対応すべきかを私たちがご提案して、実装するというフローが良いかと思います。
柳沢:そうですね、ウェブアクセシビリティ対策について必要性をまだ感じていないお客様も多くいらっしゃるので、決裁者の方に説明しやすいような根拠を共有するのは有効ですよね。
ウェブアクセシビリティについて、よくある勘違い
「アクセシビリティ対応した」といえる状態について、これまでどんな勘違いがありましたか?
森:例えば制作ガイドラインをウェブアクセシビリティ対応するように改訂しても、Webサイト制作担当者に連絡が行き届いていないと、ウェブアクセシビリティを考慮していないページが制作されてしまうことがあります。原因は、Webサイト制作担当者間の引き継ぎ漏れや、制作会社変更の際の引き継ぎ漏れなどではないかと考えます。
以前携わった製品のプロモーション案件では、予算やスケジュールの都合上、Webサイトよりもカタログ冊子の制作が優先されていました。Webサイト展開はカタログの内容を流用し、カタログに掲載したグラフィックをWebサイト用に加工して掲載しました。
冊子用にデザインされたグラフィックはウェブアクセシビリティの基準を満たしておらず、その調整に四苦八苦した記憶があります。
齊藤:情報共有がうまく出来ておらず、アクセシビリティ方針の基準に達していないことは、どこの組織でも起こり得ますね。なので、先ほど森さんが言ったように、ガイドラインに沿っているかチェックする機能を運用フローの中に設ける事が、解決策の一つなのかなと思います。
他にも、勘違いとは少し違うのですが、お客様が想定するユーザー像に特定の人へのケアがされないことがあると思います。例えば、ある自動車販売店では「車の運転ができなさそう」と思われる視覚障害者の方へのケアはなかったです。
柳沢:商品特性によっては、そういうこともあるのですね。
以前ご相談いただいたお客様のWebサイトには、一部非適合の達成条件があったのですが、適合しているとお客様が勘違いしていたケースがありました。
森:なぜ「適合/非適合について勘違いしてしまう」ことが発生したのですか?
柳沢:アクセシビリティ要件で適合レベルを明確に決めない場合に発生することが多いと思います。制作会社が独自に定めた基準を採用するケースなどです。
この独自基準は、制作会社が「最低限ここだけは守ろう」という観点のもと、追加予算なしで対応可能な範囲で定められることがあります。なので制作会社によって基準は異なり、さらに最低限のレベルであるため、WCAGやJIS X 8341-3といったアクセシビリティガイドラインの一部準拠に留まります。
制作会社にとっては「(弊社基準の)アクセシビリティを満たしています」という話なのですが、お客様が「(WCAG等のガイドラインに適合する形で)アクセシビリティの達成基準を満たしている」と受け取ってしまうと勘違いになってしまいます。
森:なるほど。確かにお客様の要望にアクセシビリティ対応が含まれていることより、制作会社側からアクセシビリティ対応しませんか?と提案することの方が多いため、そういった勘違いが起きるのかもしれませんね。
「言った」「言わない」とならないように、やり取りした情報の管理などコミュニケーションのルールも大切だと思います。
まとめ:実はウェブアクセシビリティ対応が維持できていない企業は多いかも!?
グローバルな視点で見るとウェブアクセシビリティを維持することは当たり前で、国内の一般企業でもウェブアクセシビリティの重要性が高まっています。また、ウェブアクセシビリティに対応することは、Webサイトの品質向上にも繋がります。
ちなみに今回のインタビューにあたり、無作為に抽出した40社のウェブアクセシビリティ方針を実際に調査した結果、2社は古い規格であるJIS X 8341-3:2010を使用していました。このことからウェブアクセシビリティ対応が維持できていない企業が一定数いるのではないかと感じました。実際にWebサイト運用担当者の方に詳しく伺うと、運用フローに課題があることもしばしばあります。
後編では、ウェブアクセシビリティ対応の全体の流れと、対応を継続していく中で当社のWebディレクターが普段考えていることについて、具体的なエピソードを交えて紹介します。また、簡易チェックツールについても紹介します。
あなたの会社のウェブアクセシビリティ何点ですか。(後編)〜測定から点数以外の判断ポイントまで伝授します〜 | BAsixs(ベーシックス)
ウェブアクセシビリティの維持にお困りの方は是非お気軽にご相談ください。これまで培ってきたWebサイト運用の知見やノウハウをもとに、お客様の目的や状況に合わせた解決方法をご提案いたします。