「広告費を増やしたら、売上が伸びた」Webサイトやデジタルマーケティングのレポートでは、このように施策と成果を結びつけて説明したくなる場面があります。しかし、その変化は本当に広告費の影響だと言い切れるのでしょうか。
前回の記事(知っておきたいデータ分析~相関関係と因果関係~その1)では、相関関係と因果関係の違いや、相関を読み解く際の注意点を整理しました。第2弾となるこの記事では、さらに一歩進んで、「XがYの原因である」と判断するために何を確認すればよいのかを考えていきます。
因果関係を正しく捉えることは、広告、SEO、サイト改善、コンテンツ運用など、さまざまな施策の効果を数値で判断するうえで欠かせません。因果関係を確認するための基本的なステップと、アクセス解析で起こりやすい見誤りについて学ん でいきましょう。

「広告費を増やしたから売上が伸びた」は正しい!?
因果関係とは、ある事象X(原因)が、別の事象Y(結果)に影響を与えている関係のことです。「Xが変化したからこそ、Yも変化した」と考えられる関係とも言えます。
この因果関係を考えるうえで重要なのが、「もしXがなかったら、Yはどうなっていたか」という反事実の考え方です。
たとえば、Web担当者がアクセスレポートを報告する場面で、「広告費を増やしたから売上が伸びた」と説明したいとします。このとき、本当に広告費が売上に影響したと言うためには、「広告費を増やしていなかった場合、売上はどうなっていたのか」を考える必要があるということです。
広告費を増やしていなくても売上が伸びていた可能性があるなら、広告費と売上の間に因果関係があるとは言い切れません。季節要因、キャンペーン、既存顧客の購買タイミング、競合状況など、別の要因が影響している可能性があるからです。
アクセス解析やデータ分析では、「XとYが連動している(相関がある)」ことを、そのまま「XがYを引き起こしている(原因と結果)」と読み違えてしまうことがあります。しかし、相関は因果関係を考えるための入り口にすぎません。
第1回の記事でも説明したように、YがXを引き起こしている逆因果や、第三の変数ZがXとYの両方に影響している交絡因子によっても、相関関係は生まれてしまいます。相関関係と因果関係を見誤らないためには、別の可能性を一つずつ確認していくことが大切です。
では、どうすれば「XがYに影響した可能性がある」と判断できるのでしょうか。次章では、因果関係を確認するための5つのステップを順に解説していきます。

因果関係を確認する5つのステップ
因果関係を確認するには、どのような点を見ればよいのでしょうか。ここでは、相関関係が見られるデータについて、「本当にXがYに影響しているのか」を考えるための5つのステップを紹介します。
5つと聞くと少し多く感じるかもしれませんが、これは特別な作業というより、データを見るときの考え方に近いものです。一度身につけておくと、レポートやアクセス解析の数値を見るときにも、自然と「ほかの要因はないか」「原因と結果を取り違えていないか」と確認できるようになります。
因果関係を考えるうえで確認したいポイントを、順に見ていきましょう。
Step1:相関関係があることを確認する
まず、XとYに相関関係があるかを確認します。上図で示したように、因果関係は相関関係の中に含まれるものとして考えられます。そのため、そもそも2つの数値に連動する傾向が見られなければ、因果関係を検討する前提が成り立ちにくくなります。
散布図を作ったり、相関係数を確認したり、クロス集計を行ったりして、XとYがどのように動いているのかをデータで見てみましょう。たとえば、「広告出稿量(X)が多い月ほど、売上(Y)も高い傾向がある」といった関係です。
ただし、ここで相関関係が確認できたとしても、それだけで因果関係があるとは言えません。Step1はあくまで、因果関係を考えるための出発点です。
Step2:時間的順序を確認する
相関関係が確認できたら、次に時間の前後関係を確認します。因果関係を考えるうえでは、原因となる事象が結果より先に起きている必要があります。
たとえば、「サイト改善(X)を行った後にCVR(Y)が上がった」のかどうかを、時系列で確認します。もし「原因」と考えているXが、結果であるYより後に発生している場合は、逆因果の可能性があります。
たとえば、「売上(Y)が好調だったため、広告予算(X)を増やした」というケースです。この場合、実際にはYがXに影響している可能性があるため、「広告が売上を生んだ」とまでは判断できません。
因果関係を考えるときは、2つの事象が連動しているかだけでなく、どちらが先に起きているのかを確認することが重要です。
Step3:交絡因子がないか確認する
時間的順序が正しかったとしても、まだ因果関係があるとは断定できません。XとYの両方に影響する「交絡因子Z」があると、XとYの間に直接の因果関係がなくても、相関関係が生まれることがあります。
これが、疑似相関が生まれる大きな原因です。
第1回の記事で紹介した「アイスクリームの売上と水難事故」の例では、「気温」が交絡因子にあたりました。気温が上がるとアイスクリームが売れやすくなり、同時に海やプールへ行く人も増えるため、水難事故も増えやすくなるという話でした。
つまり、「アイスクリームの売上」が「水難事故」を引き起こしているのではなく、「気温」が両方に影響していることで、2つの数値が連動しているように見えているのです。

Step4:メカニズムを説明できるか確認する
ここまでの条件がそろっていたとしても、「なぜXがYに影響したのか」という理由を説明できなければ、因果関係として判断する説得力は弱くなってしまいます。
たとえば、「検索順位が上がったあとにクリック数が増えた」というデータがあった場合、検索結果の上位に表示されることでユーザーの目に触れやすくなり、クリックされる機会が増えた、と説明できます。これは、施策と結果の間に比較的わかりやすいつながりがある例です。
一方で、「特定の曜日に公開した記事はCVが多い」といったデータがあっても、なぜ曜日がCVに影響するのかを説明できなければ、偶然の一致や別の要因を疑う必要があります。
このように、施策と結果の間に納得できるつながりがあるかを見ることが重要です。
Step5:反事実を比較する
最後に、「もしXがなかったら、Yはどうなっていたか」を考えます。これが、因果関係を考えるうえで重要な反事実の考え方です。
ただし、同じ対象について、「Xがあった場合」と「Xがなかった場合」の両方を同時に観測することはなかなかできません。たとえば、同じユーザーに対して、同じタイミングで「LPのA案を見た場合」と「LPのB案を見た場合」の両方を確認することはできませんよね。
そこで、比較可能なグループを作って検証する方法が一般的です。因果関係を検証するうえで有効な方法のひとつに「ランダム化比較試験(RCT)」というものがあります。Webサイトの改善でよく使われるA/Bテストも、この考え方に近いものです。
従来のLPデザインを「A案」、変更を加えたLPデザインを「B案」とします。このとき、ユーザーをランダムにA案とB案に振り分けることで、年齢、デバイス、流入経路などの条件がどちらか一方に偏りにくくなります。
その結果、A案とB案でCVRに差が出た場合、「もともと関心の高いユーザーがB案に多かったから」ではなく、「デザイン変更が結果に影響した可能性がある」と考えやすくなります。このように、比較するグループの条件をできるだけそろえるために、ランダムに振り分けることが重要なのです。
常にランダム化比較試験やA/Bテストを実施できるとは限りません。その場合でも、変更前後の期間をそろえて比較する、似た条件のページと比較する、同時期に別の施策がなかったかの確認するなど、できるだけ反事実に近い比較対象を用意することが大切です。
因果関係のセルフチェックリスト
ここまで、因果関係を確認するための5つのステップを説明してきました。ただ、実際にレポートやアクセス解析のデータを見るたびに、すべてを文章として思い出すのは少し大変ですよね。
そこで、5つのステップを「チェック内容」と「排除できる誤り」の観点で、簡単なセルフチェックリストに整理してみました。この思考法に慣れるまでは、因果関係を確認する際の見直し用として活用してみてください。
これらの観点を順に確認することで、「XがYに影響した可能性が高いかどうか」を判断しやすくなるはずです。

注意したいアクセス解析に潜む「罠」
アクセス解析では、流入経路やユーザー行動、CV率などを細かく確認できます。その一方で、数値同士の関係が見えやすいからこそ、相関関係を因果関係として読み違えてしまうことが起きやすいのです。
ここでは、Webサイトやデジタルマーケティングの現場で起こりやすい判断の例を見ていきましょう。
- 「指名検索経由のCV率は広告経由より高い」だから「広告をやめて指名検索に寄せるべき」
指名検索で来訪したユーザーは、すでに企業名やサービス名をある程度知っている状態で検索している可能性があります。そのため、広告経由のユーザーよりCV率が高く見えることがあります。
だからといって「広告をやめて指名検索に寄せるべき」とは限りません。広告が認知獲得に貢献し、その後の指名検索を生んでいる可能性もあるためです。流入経路ごとのCV率だけで判断するのではなく、ユーザーの検討段階や、広告がどの接点で効いているのかをあわせて確認する必要があるでしょう。 - 「動画を視聴したユーザーはCV率が3倍」だから「全員に動画を見せればCVが3倍になる」
動画を視聴したユーザーのCV率が高い場合、その動画がCVに貢献しているように見えることがあります。時間をかけて用意した施策であれば、なおさら「効果があった」と考えたくなるものです。
動画を自ら視聴するユーザーは、もともと関心が高かったり、購買意欲が高かったりする可能性があります。この場合、数値では表しにくいユーザーの「意欲」が動画視聴とCVの両方に影響している交絡因子になっているかもしれません。
そのため、動画の効果を確認するには、動画を見たユーザーと見ていないユーザーを単純に比べるだけでなく、もともとの関心度や流入経路、閲覧ページなども考慮する必要があるでしょう。 - 「ページ閲覧数が多いユーザーほど購入率が高い」だから「回遊を増やす施策でCVが増える」
ページ閲覧数が多いユーザーほど購入率が高い場合、「より多くのページを見てもらえばCVが増える」と考えたくなります。
しかし、ページ閲覧数が多い理由は一つではありません。比較検討のために前向きに回遊している場合もあれば、目的の商品や情報が見つからず、迷った結果として後ろ向きに閲覧数が増えている場合も考えられます。
同じ指標でもおかれた背景によって解釈は変わります。ページ閲覧数だけを見るのではなく、どのページを、どの順番で見ているのか、最終的にどこで離脱しているのかといった行動の流れまで確認することが大切です。
こうしたアクセス解析でありがちな例では、「ユーザーの属性や意欲が先にあり、それが行動指標と成果の両方を動かしている」ことがあります。レポート上で相関を見つけたら、すぐに「施策の成果が出た」と喜ぶのではなく、少し俯瞰して「両方を動かしている別の要因はないか」を確認することが重要です。
「施策が効いた」と考えやすいケースもある
ここまで、相関関係を因果関係として読み違えてしまう例を紹介してきました。一方で、条件を丁寧に確認することで、「この変化が結果に影響した可能性が高い」と判断しやすいケースもあります。
たとえば、検索順位とクリック数の関係です。特定の検索キーワードとページに絞って見ると、掲載順位が上がった時期にクリック数も増える傾向が見られることがあります。
Business Architectsでも、コーポレートサイトやオウンドメディアであるBAsixsについて、Google Search Consoleで検索クエリ、表示回数、クリック数、CTR、平均掲載順位などを確認しています。たとえば、BAsixsの記事では、特定のキーワードで掲載順位が比較的高く推移した時期に、CTRが20%を超えるケースが見られました。
このような場合、検索順位の改善がクリック数の増加に影響した可能性は比較的説明しやすいと言えます。検索順位が上がることで検索結果で見つけられやすくなり、クリックされる機会が増える、というメカニズムを説明しやすいためです。ただし、近年はAIによる検索や検索結果画面の変化によって、検索順位とクリック率の関係も以前より単純ではなくなっています。上位に表示されるほどユーザーの目に触れやすくなるという基本的な構造はあるものの、順位だけでクリック数の増減を説明できるとは限りません。

この場合も「順位が上がったからクリックが増えた」と単純に断定するのは早計です。検索需要の変化、タイトルやディスクリプションの見え方、競合ページの変動、検索結果画面の変化など、ほかの要因が影響している可能性もあります。
BAsixs全体の検索パフォーマンスを見ると、平均掲載順位は改善している一方で、表示回数やクリック数が下がっている時期も見てとれます。サイト全体で見ると、扱っているテーマの需要変化や検索行動の変化、検索結果画面の変化など、ページ単位・キーワード単位では見えにくい要因が影響することがあります。
因果関係を考えるときは、数値が連動しているかどうかだけでなく、どのページを見ているのか、どの検索キーワードを対象にしているのか、サイト全体なのか個別ページなのかといった、データの粒度も確認することが大切です。
広告効果測定にも使える因果関係の考え方
Web広告の効果測定にも、因果関係の考え方を活用できます。
一般的な広告レポートでは、「広告に接触してCVしたユーザー」を確認することが多いでしょう。しかし、広告の成果を考えるうえで本当に知りたいのは、「広告を見た人がCVしたか」だけではありません。「広告があったからCVしたのか」「広告がなくてもCVしていたのか」を分けて考えることが重要です。
そのような場合に有効なのが、「ホールドアウトテスト」と呼ばれる手法です。広告配信の対象となるユーザーを、「広告を配信するグループ」と、一部のユーザーをランダムに除外した「あえて広告を配信しないグループ」を用意し、CV率の差を比較するのです。
この方法では、広告に接触したグループと、広告に接触していないグループを比較できるため、「広告がなくても購入した人」の影響を考慮しやすくなります。その結果、広告によって新たに生まれたCVがどれくらいあるのかを推定しやすくなります。
まとめ:因果関係を意識して、施策判断の精度を高める
因果関係とは、「原因Xが変化したからこそ、結果Yが変化した」と考えられる関係のことです。
Webサイトの改善や広告運用、コンテンツマーケティングでは、日々さまざまな数値を見ながら施策の良し悪しを判断しています。しかし、数値が一緒に動いているからといって、必ずしも一方がもう一方の原因になっているとは限りません。
相関関係を因果関係として読み違えると、効果のない施策に投資を続けてしまったり、本当に成果につながっている要因を見落としてしまったりすることがあります。だからこそ、データを見るときには、「ほかの要因はないか」「原因と結果を取り違えていないか」「その変化を説明できるメカニズムはあるか」を確認することが大切です。
データ分析の目的は、数字を眺めることではなく、次の判断につなげることです。相関関係を手がかりにしながら、因果関係の可能性を丁寧に確認していくことで、施策の評価や改善の精度を高めやすくなります。
Business Architects(ビジネス・アーキテクツ)では、データ分析をもとにしたマーケティング戦略の立案や、KGI/KPI設計、Webサイト改善施策の検討などを支援しています。データの見方や施策評価、改善の進め方に課題がある場合は、お気軽にご相談ください。
