BAsixs(ベーシックス)

BAsixsは、ビジネス・アーキテクツが運営する
「あたりまえ」をアップデートしつづけるメディアです。

【前編】スペシャルオリンピックスにかける熱い思い。アスリートアンバサダーたちが紡ぐ言葉

読了目安 : 12

  • 投稿日 :
  • 最終更新日 :

この記事を書いた人

プロフィールアイコン(イラスト):BAsixs編集部
BAsixs編集部

日々の業務の中で「あたりまえ」をアップデートできた取り組みを発信しています。

スペシャルオリンピックス日本(以下、SON)では、2026年の「第9回スペシャルオリンピックス日本 夏季ナショナルゲーム・東京」(以下、スペシャルオリンピックス2026東京)に向けて、スペシャルオリンピックスを知り、参加していただける機会を増やし、知的障害の有無を超えて、多様な人々が活きるインクルージョン社会の実現に向けた「SO“ジャーニーMap”」企画をおこなっています。Business Architects(ビジネス・アーキテクツ、以下BA)も、SONのパートナー企業の一社として、この取り組みに関わっています。

今回行われたのは、SONで活動するアスリートアンバサダー(以下、アンバサダー)とBAによる対話と、情報発信をテーマにしたワークショップです。アンバサダーは、スペシャルオリンピックスでの体験や想いを、自らの言葉で社会に届ける役割を担っています。

本記事では、日々の活動の中で感じている「伝えること」の難しさや、相手に届く発信のあり方を一緒に考えながら、6月から開催するスペシャルオリンピックス2026東京に向けて、アンバサダーたちがいま伝えたいことをひもときます。

スペシャルオリンピックス(SO)とは
知的障害のある人たちに様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を、年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織です。SOでは、これらのスポーツ活動に参加する知的障害のある人たちをアスリートと呼んでいます。

【前編】スペシャルオリンピックスにかける熱い思い。アスリートアンバサダーたちが紡ぐ言葉

インタビューを受けた人

  • 猪熊様
    猪熊 祐希様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)

    高校3年生の頃、地域の総合体育館でチラシを見てスペジャルオリンピックスを知る。現在はバスケットボールと、ユニファイドバスケットボールのプログラムに参加している。今年初めて、ナショナルゲーム(スペシャルオリンピックス2026東京)に、バスケットボールアスリートとして参加予定。

  • 仲江様
    仲江 政志様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)

    中学生の頃スペジャルオリンピックスと出会い、現在バスケットボールと陸上、ショートトラックスピードスケートのプログラムに参加している。2024年のナショナルゲーム・長野では、ショートトラックスピードスケート アスリートとして参加した。

  • 三上様
    三上 隼人様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)

    小学校2年生の時にスペジャルオリンピックスと出会い、現在バスケットボールのプログラムに参加している。2019年に行われた夏季世界大会・アブダビに バスケットボールアスリートとして参加した。

  • プロフィールアイコン(写真):CDO(Chief Design Officer)、人間中心設計スペシャリスト 森
    クリエイティブグループ/マネージャー、CDO(Chief Design Officer)、人間中心設計スペシャリスト(ビジネス・アーキテクツ)

    2008年、企業の情報コミュニケーション戦略を実現するプロジェクトを中心に、アートディレクター及びリードデザイナーとしてビジネス・アーキテクツに入社。特に日本の製造業のグローバル展開プロジェクトに長年関わっている。現在はデザイン部門の責任者も務める。

  • プロフィールアイコン(写真):ディレクター 佐藤
    佐藤プロジェクトマネジメントグループ/第2PMチーム/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)

    接客業からWeb業界へ転職。マークアップコーダーを経験し、その後2024年にビジネス・アーキテクツに入社。入社後は運用フェーズのプロジェクトをメインにディレクターを担当している。

スペシャルオリンピックス2026東京に向けて進む「SOジャーニー」

まずはあらためて、SONの活動について教えていただけますか?(佐藤)

猪熊氏:そもそもスペシャルオリンピックスは、知的障害のある人たちにスポーツトレーニングや、その成果を発表する競技会の場を提供している国際的なスポーツ組織です。SONでは、日本国内でその活動を推進する組織として、コーチの育成やナショナルゲームの開催、世界大会への選手団派遣などを行いながら、スペシャルオリンピックス活動の普及や促進に取り組んでいます。

三上氏:その中で、私たちアンバサダーは競技に取り組むだけでなく、スペシャルオリンピックス活動の魅力や思いを伝える役割も担っています。私自身は8歳のときにバスケットボールを始めて、高校時代に少し離れた時期はありましたが、それ以外はずっと続けてきました。現在は、障害のある人とない人が一緒にスポーツをするユニファイドスポーツ®のバスケットボール競技にも参加しています。

仲江氏:私がスペシャルオリンピックスの活動を始めたのは14歳のときです。競技はバスケットボールのほか、陸上やスピードスケートにも取り組んでいます。アスリートとして、まだまだトレーニングしなければいけないことはたくさんありますが、大会などを通じていろいろな人と交流できるのが楽しいですね。スペシャルオリンピックスに参加したことで、ほかの組織が開催している大会や海外のマラソン大会にも出場できるようになりました。

三上氏:私たちアンバサダーは、競技だけでなく、イベントや発信の場でスペシャルオリンピックスのことを伝える役割も担っています。だからこそ、どうすれば活動のことや自分たちの思いがきちんと伝わるのか、日頃から考える場面も多いんです。

写真:三上氏が話している様子

BAさんは、いつ頃からSONとの関わりがあるのですか?(三上氏)

森:ご一緒するようになったのは2018年頃ですね。最初はWebサイトの運用支援や取材記事制作から関わらせていただき、その後2019年に正式にSONのパートナーとなりました。2022年夏には公式サイトのリニューアルもお手伝いし、現在もSO“ジャーニーMap”などを通じて継続的にご一緒しています。

そうして長く関わる中で、SONの活動や理念に触れる機会も増え、私たち自身も強く共感するようになりました。いまでは、単なる運用パートナーというより、一緒に価値を届けていく存在でありたいと考えています。

仲江氏:ああ、なるほど。いま私たちが見ているSONの公式サイトも、BAさんが制作されたのですね。

佐藤:はい、もう10年近く関わらせていただいています。

SONの公式サイトを制作された際に、一番大変だったことは何でしょうか?(仲江氏)

佐藤:Webサイトの制作では、どのクライアントさんでも「伝えたいことがたくさんある」という状況はよくあります。その中で、何を一番に伝えるのか、どの順番で見せると伝わりやすいのかを整理していくのが大事になるんです。SONさんも活動の幅が広く、伝えたいことが本当にたくさんあるので、全部を盛り込むのではなく、どう整理すればきちんと伝わるかを丁寧に考えました。

写真:佐藤と森が会話に耳を傾ける様子

猪熊氏:たしかに、SONではふだんのスポーツ活動や大会はもちろん、今日のようなSONパートナー企業様と協働した取り組みなど、いろいろな人との関わりもありますし、伝えたいことは本当に多いですよね。特に印象に残ったエピソードはありましたか?

佐藤:私が制作に携わった中で特に印象に残ったのは、ユニファイドスポーツ®ですね。障害のある人もない人も一緒にスポーツを楽しむという考え方が、とても象徴的だと感じました。あと、「Be with all」というスローガンも、SONらしい思いが表れていていいなと感じました。

三上氏:SONでは、スペシャルオリンピックス2026東京に向けて、1年前から「SO“ジャーニーMap”(※)」という取り組みを進めています。

「SO“ジャーニーMap”」では、SONのパートナー企業様と様々なコラボイベントや企画などをおこなっています。「アスリートたちが社会を知り、社会がアスリートを知る」そんな機会を増やし、知的障害の有無を超え、多様な人々が活きるインクルージョン社会の実現を目指した取り組みです。この企画を通して、知的障害のある人もない人も一緒に大会を盛り上げていきたいと思っています。

BAさんには、「SO“ジャーニーMap”」の制作も担当していただきましたが、この取り組みについてはどのように感じましたか?(三上氏)

森:はい。とても意義のある取り組みだと感じました。スペシャルオリンピックス2026東京に向けた1年間が、単なるイベントの集合ではなく、一つの流れとして見える点がとてもいいですよね。これから何が起きるのか、どう関われるのかが直感的に伝わるので、初めてSONを知る人にとっても入りやすい取り組みになっていると思いました。

写真:ジャーニーマップを見ながら対談している様子

佐藤:このSO“ジャーニーMap”が大会そのものを知ってもらうだけでなく、大会に向かうまでのSONの活動や、関わる人たちの思いも含めて伝えられることが、この取り組みの面白さだと思っています。多くの方に「自分も少し関わってみたい」と感じてもらえるきっかけになればうれしいです。

猪熊氏:たしかに、大会当日だけでなく、そこに向かうまでの動きが見えることで、活動のことももっと知ってもらいやすくなりますね。アスリートとしても、自分たちがどういう思いで取り組んでいるかを伝えるきっかけになっていると思います。

※ SO“ジャーニーMap”

アスリートアンバサダーとして伝えたいこと

アスリートアンバサダーは、アスリート自身がスペシャルオリンピックスで経験したことや想いを発信し、スペシャルオリンピックスの活動やアスリートのことを広く知ってもらう役割を担っている。年間を通してさまざまな活動に取り組む彼らに、ふだんどのような思いで発信に向き合っているのかを聞きました。

皆さんは、競技とアンバサダー活動とを両立されていらっしゃいますが、アスリートとして力を入れていることは何ですか?(佐藤)

仲江氏:力を入れているのはユニファイドスポーツ®の3x3バスケットボールです。私には大きな目標があって、それは仲間と一緒に「スペシャルオリンピックス2026東京」の大会で優勝することなんです。全国大会や世界大会では私たちより上手なアスリートがたくさんいて、決して簡単なことではないと思いますが、たとえ負けたとしても、それを経験にして諦めずに挑戦し続けたいと思っています。

写真:仲江氏が話している様子(三上氏と猪熊氏が耳を傾けている)

猪熊氏:私も「スペシャルオリンピックス2026東京」大会の3x3バスケットボール競技に出場するので、それに向けたトレーニングに力を入れています。休日の練習だけでは足りないので、平日も仕事を終えた後に個人的に筋力トレーニングをしています。

三上氏:私もやっている競技はバスケットボールなので、そこに力を入れています。シュートフォームなどの技術はもちろん、戦術も学んでいますし、食事も考えながら体づくりに励んでいます。競技に向き合うことと、アンバサダーとして伝えることは別のようでいて、どちらも自分にとって大事な活動です。

では、アンバサダーとしての活動、たとえばどのようなことを発信されていらっしゃるかなどの活動を教えてもらえますか?(佐藤)

三上氏:アンバサダーは主に、SON主催のイベントや、SONパートナー企業様やBリーグ様と協働した取り組みなど、実際にいろいろな現場を訪れ、SOについてPRしています。最近ではSNSにも力を入れていて、私たちアンバサダーからのメッセージ動画などもアップしていますね。

アンバサダーの活動は、ただ情報を伝えるだけではなくて、自分たちの経験や思いを、自分たちの言葉で届けていく役割でもあると感じています。

森:皆さん競技にも取り組みながら、そうした発信も担っているんですよね。かなりお忙しいと思うのですが、そもそもアンバサダーのような活動には以前から興味があったのですか?

三上氏:そうですね、もともと興味がありました。私はアスリートとして長く活動して、いろいろなところに行かせてもらってきたので、何か恩返しがしたいと思ったのがきっかけです。

猪熊氏:私は高校を卒業してから、少し、スポーツをやれない時期があったんです。そのときにたまたまスペシャルオリンピックスの存在を知りました。ただ、世の中にはスペシャルオリンピックスのことをまだ知らない人がたくさんいて、スポーツがやりたくてもできない人も多くいます。これってとてももったいないと思ったんです。だから、アンバサダーとしてスペシャルオリンピックスのことをもっと多くの人に伝えたいと考えました。

写真:猪熊さんが話している様子

仲江氏:私も自分からアンバサダーに応募しました。競技を通じて世界中のアスリートと交流して、そこで得たものを伝えたいと思ったからです。

佐藤:アンバサダーとしてSNSで情報を発信したり、インタビューを受けたりされますよね。そうした場で、情報を発信する側として意識していることはありますか?

三上氏:まず、アンバサダーとして事前に準備をして伝えたい内容をきっちり伝えることを意識しています。そのうえで、今回のような交流の場では自分本位で語るのではなく、相手が何に興味を持ち、どのようなことを知りたいのかを考えて話すようにしています。一方的に話しても届きにくいと思いますし、相手も楽しくないと思うんです。だから会話を重ねながら、お互いに楽しみつつスペシャルオリンピックスのことを伝えられたらと思っています。

佐藤:コミュニケーションをとりながら、相互理解を深めていくんですね。

森:たしかに、相手のことを考えて初めてコミュニケーションが成立するものですよね。そうやって自分の思いを伝えることができたら楽しいと思うのですが、一方で難しいと感じることはありますか?

三上氏:ありますね。アスリートにはそれぞれ個性があって、話し出したら止まらないタイプもいれば、体調を考慮する必要がある人もいます。そんな人たちをフォローするとき、どのように説明すればよいか、いつも悩んでしまいます。

森:それはすごくよく分かります。相手によって伝わり方が違うので、どう説明すればいいか迷いますよね。私たちも、説明したいことをうまく伝えられないときがあります。相手がどんな背景を持っていて、どのような性格なのかを知るところから始めないと、同じやり方をみんなにしても伝わるとは限らない。相手に合わせて考えないといけないところが、コミュニケーションの難しさでもあり、面白さでもあると思います。

アスリートアンバサダーが向き合う、「伝える」難しさ

自分の思いを相手に伝えるとき、どのようにすればちゃんと伝わると思いますか?(猪熊氏)

佐藤:難しいですよね。私たちもWebサイトを通じて情報を伝える立場ですが、相手にどう伝えたいのかを考えながら、何を優先して伝えるべきかを整理するようにしています。

三上氏:これって、場面によっても違いますよね。SNSで発信するときと、対面で会話するときでは全然違うと思います。

森:そうですね。自分のことを伝えたいのか、それとも相手に何か気づいて行動してほしいのかでも、伝え方は変わってきますよね。

三上氏:以前シンガポールに遠征したとき、どうすれば自分の障害をうまく伝えられるかを学ぶ機会があったのですが、そのときに印象に残ったのが、ネガティブに言わないということでした。苦手な部分を説明するときも、暗い雰囲気ではなくポジティブに話すだけで印象が変わるんです。

森:たしかに三上さんのお話を伺っていると、ずっとポジティブな印象で話されていらっしゃいますね。そういう学びから実践されているのですね。

ところで、皆さんは、アンバサダーとして発信する中で、「伝える」と「伝わる」の違いを意識することはありますか?(森)

三上氏:あまり考えたことはなかったですが、たしかに違いますね。「伝える」は自分が話すこと、「伝わる」は相手に届くこと、という感じでしょうか。

猪熊氏:「伝える」はたしかに一方的な感じがしますね。私たちはアンバサダーとして「伝える」活動をしていますけど、大事なのはちゃんと相手に「伝わる」活動ができているかどうかかもしれませんね。

佐藤:そのためには、相手に合わせて伝え方を考えることが必要ですよね。

猪熊氏:そうですね。私も、伝えるときは自分の話だけではなく、なるべく多くのアスリートに共通する話になるよう意識しています。その方が、スペシャルオリンピックスのことも伝わりやすい気がします。

三上氏:私は一方的に話すのではなく、できるだけ相手にも話してもらうようにしています。「どう思う?」と問いかけながら、相手に整理してもらうんです。その方が、こちらの話も伝わりやすいと感じています。

森:相手によって伝わり方が違うからこそ、どう話せばいいか迷うこともありますよね。私たちも同じで、相手がどんな背景を持っているのかを知った上で考えないと、同じやり方ではうまく伝わらないことがあります。だからこそ、相手に合わせて考え続けることが大事なのだと思いますね。

集合写真(前編):SON様オフィスをバックに桜の咲き始めた公園で、対談メンバー(左から)猪熊氏、仲江氏、三上氏、佐藤、森が笑顔で「スペシャルオリンピックス2026東京」、「SOジャーニー」と書かれた横断幕を持っている様子

前編のまとめ:伝えたいことを正しく伝える難しさ

前編では、スペシャルオリンピックスの活動やBAとの関わりを中心に、アンバサダーが競技に向き合うだけでなく、自らの言葉で活動や思いを届ける役割も担っていること、その中で発信の意義や難しさを感じていることをお話ししました。

伝えたいことがあっても、それがそのまま相手に伝わるとは限りません。誰に向けて話すのか、どのような言葉を選ぶのか、どこまで噛み砕いて伝えるのか。そうした一つひとつを考えながら向き合うことの難しさは、障害の有無にかかわらず、多くの人に共通するものなのかもしれません。

後編では、そうした問いをさらに深めながら、ワークショップや「SO“ジャーニーMap”」の事例を通じて、相手に届く伝え方とは何かを具体的に考えていきます。