前編「スペシャルオリンピックスにかける熱い思い。アスリートアンバサダーたちが紡ぐ言葉」では、スペシャルオリンピックス日本(以下、SON)の取り組みや「SO“ジャーニーMap”」企画を入り口に、アスリートアンバサダーたちがどのような思いで発信に向き合っているのかを紹介しました。
その思いを相手に届けるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。後編では、アンバサダーが日々感じている疑問を手がかりに、「伝える」と「伝わる」の違いや、相手に届く発信のあり方を考えていきます。
今回は、SONとBAの対談に加え、SO“ジャーニーMap”企画の一環として、情報の整理や見せ方、伝え方をテーマにした短時間のワークショップも行いました。そこで得た気づきや、「SO“ジャーニーMap”」に込めた工夫を振り返りながら、発信を続ける意味、そしてスペシャルオリンピックスの未来についても掘り下げます。

インタビューを受けた人
![猪熊様]()
- 猪熊 祐希様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)
高校3年生の頃、地域の総合体育館でチラシを見てスペジャルオリンピックスを知る。現在はバスケットボールと、ユニファイドバスケットボールのプログラムに参加している。今年初めて、ナショナルゲーム(スペシャルオリンピックス2026東京)に、バスケットボールアスリートとして参加予定。
![仲江様]()
- 仲江 政志様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)
中学生の頃スペジャルオリンピックスと出会い、現在バスケットボールと陸上、ショートトラックスピードスケートのプログラムに参加している。2024年のナショナルゲーム・長野では、ショートトラックスピードスケート アスリートとして参加した。
![三上様]()
- 三上 隼人様SON・東京 所属/SONアスリートアンバサダー(第5期)
小学校2年生の時にスペジャルオリンピックスと出会い、現在バスケットボールのプログラムに参加している。2019年に行われた夏季世界大会・アブダビに バスケットボールアスリートとして参加した。
![プロフィールアイコン(写真):CDO(Chief Design Officer)、人間中心設計スペシャリスト 森]()
- 森クリエイティブグループ/マネージャー、CDO(Chief Design Officer)、人間中心設計スペシャリスト(ビジネス・アーキテクツ)
2008年、企業の情報コミュニケーション戦略を実現するプロジェクトを中心に、アートディレクター及びリードデザイナーとしてビジネス・アーキテクツに入社。特に日本の製造業のグローバル展開プロジェクトに長年関わっている。現在はデザイン部門の責任者も務める。
![プロフィールアイコン(写真):ディレクター 佐藤]()
- 佐藤プロジェクトマネジメントグループ/第2PMチーム/ディレクター(ビジネス・アーキテクツ)
接客業からWeb業界へ転職。マークアップコーダーを経験し、その後2024年にビジネス・アーキテクツに入社。入社後は運用フェーズのプロジェクトをメインにディレクターを担当している。
「伝える」だけでなく、「伝わる」を考える
前編では、アスリートアンバサダーが「伝える」役割を担う中で感じている難しさや、相手によって伝わり方が変わることへの気づきが語られました。それでは、相手にきちんと届く発信にするためには、何を意識すればよいのでしょうか。後編では、情報を受け取る側の視点も交えながら、「伝わる」ための工夫を考えていきます。
森:前編では、相手によって伝わり方が違うという話が出ましたよね。
それでは、情報を受け取る側の立場になったとき、「分かりづらい」「見つけにくい」と感じることはありますか?(森)
猪熊氏:私はふだん営業の仕事をしているのですが、業種によって専門用語が多いと難しいと感じますね。もちろん自分が勉強不足というのもあるかもしれませんが…、言葉が難しいだけで理解しづらくなることはあるのではないでしょうか。
三上氏:私は丁寧語とか謙譲語とかが苦手です。分かりづらいというわけではないですが、いつも迷ってしまうんです。
仲江氏:日本語は日本人でも難しいですからね。私も尊敬語などは難しいなと思います。

佐藤:たしかに、情報を発信する側は、ふだん当たり前に使っている言葉でも、受け取る側にとっては耳なじみがなくて分かりにくいことがありますよね。Web制作の現場でも結構あります。私はできるだけ専門用語は使わず、分かりやすい言葉に置き換えることを意識しています。
ちょっと話を拡げるのですが、障害のある人に伝わりやすい発信には、どんな工夫が必要だと思いますか?(佐藤)
猪熊氏:障害がある人の中には漢字が苦手な人も多いので、ルビを振っていただけるとありがたいです。私はディスレクシア(※)という障害があるため、文字が隙間なく並んでいると読みにくく感じてしまいます。ある程度文字の間隔が空いているだけでも、受け取りやすさは変わると思います。
反対に、障害のない人にどう伝えればよいかということは、会社でもよく話すんです。そういうときに出るのは、やっぱり障害のない人にも障害の特性を理解してもらうことが大事だということですね。そうすることで伝え方や伝わり方も変わってくると思いますし、まずはお互いの理解を深めることが大切かなと思います。

三上氏:私は、一方的に話すのではなく、できるだけ相手にも話してもらうようにしています。「どう思う?」と問いかけながら、相手に整理してもらうんです。その方が、こちらの話も伝わりやすい気がします。
佐藤:Webサイトを制作する際でも、アクセシビリティの観点から、色の見分けやすさなどに配慮する指針があります。ただ、今日皆さんのお話を聞いて、文字の詰まり方や言葉の難しさなど、まだ考慮がいき届いていないこともあるのだなと感じました。
森:最近はUDフォントのように、より多くの人に配慮した考え方も広がっています。それでも全部に対応しきるのは簡単ではありません。だからこそ、実際にどう感じるのかを聞きながら対応していくことが大事ですね。
※ ディスレクシア
学習障害のひとつのタイプとされ、全体的な発達には遅れはないのに文字の読み書きに限定した困難があり、そのことによって学業不振が現れたり、二次的な学校不適応などが生じる疾患です。
ディスレクシア | 国立成育医療研究センター. (引用 2026-04-17)
実際にやったから見えてきた、情報の伝え方
今回の対談では、「伝える」ことを考えるだけでなく、SO“ジャーニーMap”企画の一環として、実際に情報の見せ方や順番を考える短時間のワークショップを体験していただきました。まずは、その内容を簡単に紹介します。
アスリートアンバサダーが体験したワークショップ
アンバサダーのみなさんには、ワークショップを体験いただきました。BAがふだんWeb制作の現場で行っている「情報設計」の考え方をもとに、SONのトップページを題材にしながら、情報の見せ方や並び順を考えてもらう内容です。
具体的には、SONのPC版トップページを構成する各コンテンツ要素(キービジュアル、私たちの活動、ニュース、パートナー企業・団体一覧など)をブロックごとに分けて用意します。アンバサダーのみなさんには、ワークショップで設定したターゲットにSONの活動を伝えるとしたら、どの順番やどのような見せ方が分かりやすいかを考えてもらいました。
また、既存の要素だけでなく、空白のブロックも用意し、「こういう情報があった方が伝わりやすいのでは」と新たな要素を書き足せる形にしています。
<ワークショップで、左から中江氏、三上氏、猪熊氏が、コンテンツ要素を並べ替えている様子>

<ワークショップでアスリートアンバサダーのみなさんが並べ終えたページについて、なぜこうしたのかという情報設計の意図を発表しそれを熱心に聞く森の様子>

ワークショップを通じて見えてきた難しさと気づき
この対談の前に、「伝える順番」について考えるワークショップを受けていただきましたが、その中で印象に残ったことは何かありましたか?(森)
猪熊氏:ふだんからインターネットはよく使っていて、いろいろなWebサイトを見ているのですが、特に深く考えず、さっと流し見していることに気づかされました。今日のワークショップで、Webサイトがどのようなことを考えて作られているのかを体験できて、とても新鮮でした。
三上氏:私は、「伝える」ということには答えがないのだと感じました。さまざまなパーツの組み合わせに正解がなく、それが難しくもあり、面白いところだと思いました。
仲江氏:正解のないパズルみたいでしたよね。私も難しかったです。
森:どうしても人は正解を求めたくなりますが、まずは目の前の相手に伝えるためにどうしたらよいかを考えることが大切なんですよね。うまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく、一つの気づきになるのだと思います。

ワークショップの中で難しいと感じたことはありますか?(佐藤)
三上氏:どうしたら「よりSONを理解してもらえるような構成を作れるのか」について考えるのが難しかったですね。私はどうしてもホームページの性質というか、決まりごとを意識しすぎてしまったみたいで、その制約をいったん外して自由に組み立てるのが大変でした。
猪熊氏:私も同じで、「伝えること」を考えるのは本当に難しいと感じました。仕事で営業をしているので、言葉で説明することはある程度できると思っていたのですが、それを画面だけで伝えるのは、実際に会って話せないからこその難しさがあると感じました。
ワークショップで学んだことで、今後に生かせそうだと感じたことはありましたか?(森)
仲江氏:バスケットボールでもコミュニケーションは大事なので、自分が何かを伝えたいときに、今日感じたことを生かしたいと思いました。
三上氏:私は原点に帰れたというか、ふだん行っている情報の伝え方も、一度分解して組み替えてみることが必要なのかもと感じました。
猪熊氏:仕事で営業メールを書いたり、広告のポップを作ったりすることもあるので、そこでも伝え方や何をアピールするかをあらためて考えたいと思いました。
森:皆さんはふだんからすでに「伝える」ことを考えられていて、今日の気づきや感じたことも、その引き出しの一つとして持ち帰っていただけるのかなと思います。私たちも、皆さんの組み立て方を見て新しい気づきがありましたし、お互いに学びがある時間でしたね。
「SO“ジャーニーMap”」に込めた工夫
BAさんが制作された「SO“ジャーニーMap”」も、基本的には今日教えていただいたようなことを考えながら作られたのでしょうか。たとえば、一番大事にしたことは何ですか?(三上氏)
森:一番大事にしたのは、「Webサイトを見た人が動きたくなるか」ということです。情報として理解できるだけではなく、「行ってみたい」「一緒に応援したい」「関わってみたい」と思えることを意識しました。
猪熊氏:特にこだわったところはどこでしょうか?
森:大会の盛り上がり感をどう作るかは難しかったですね。人の動きが感じられる見せ方にしたり、東京が舞台であることが伝わるモチーフを取り入れたりしながら工夫しました。
佐藤:「ワクワク感」や東京で開催されることの特別感を出してほしい、というリクエストもありましたので、アニメーションっぽい表現や東京らしいモチーフを取り入れました。スポーツだけでなく、SONの活動を通して社会との関わりが生まれていくことも伝えたいと思い、街並みを表現しながら、「スペシャルオリンピックス2026東京」の開会式が行われるTOYOTA ARENA TOKYOまでつづく道をデザインしています。
仲江氏:もっとよくするとしたら、どんな工夫ができると思いますか?
森:イベントの予定だけでなく、実際に行われた活動のレポートをより分かりやすく見せられると、もっとよくなるかもしれませんね。写真や動画のライブラリー、SNSとの連動などがあると、ライブ感も増していけそうです。

発信を続ける意味。東京大会、そしてその先へ
皆さんはアンバサダーとして、さまざまな発信を続けていますよね。あらためて、発信を続けることにはどのような意味があると感じていますか?(佐藤)
猪熊氏:やはり、障害があってもスポーツをやりたい人に、ちゃんとできる場所があることを伝えられるのが一番大切だと思います。最近はパラリンピックやデフリンピックなど、障害のある人のスポーツにも注目が集まっていますので、私たちが発信し続けることで、スペシャルオリンピックスの認知度ももっと上げていけるのではないかと思っています。
三上氏:私にとっては、発信を続けることがスペシャルオリンピックスへの恩返しでもあります。ただ、それだけでなく、活動を通じていろいろな人に、知的障害のある人たちの理解を深めてもらうことにも意味があると思っています。スペシャルオリンピックスは新たな気づきを得られる機会だと思うんです。アンバサダーの活動を通して、それを多くの人に伝えられたらと思います。
仲江氏:私は、たとえ障害があっても社会とつながれるということを伝えたいです。そして、スポーツを通じて、すべての人が仲良くなり、楽しい生活が送れる未来があることも知ってほしいと思っています。

どのような人にスペシャルオリンピックスのことを知ってほしいですか?そして、どのように関わってもらえたらうれしいでしょうか。(佐藤)
猪熊氏:できるだけ多くの人に知ってもらえたらうれしいです。今回の大会だけでなく、その先も関心を持ち続けてもらって、少しずつ輪が広がっていってほしいと思っています。私たちを「障害がある人」としてではなく、一人のアスリートとして応援していただけたらうれしいです。
仲江氏:障害のある人だけでなく、障害のない人にも知ってもらいたいです。多くの人に関心を持ってもらうことで、スペシャルオリンピックスのことももっと広がっていくと思います。
三上氏:私は、できるだけ若い方に知ってほしいですね。学生さんや子どもたちにも、こういう活動があることを知ってもらいたいです。大会に足を運んでいただくだけでもうれしいですし、できれば普段のスポーツプログラムにも参加して、一緒にスポーツを楽しんでもらえたら本当にうれしいです。
ちなみに、お二人はパートナーとしてプログラムに参加したことはありますか?
佐藤:私はまだないんです。SONのサイト運用に関わるようになって1年ほどなのですが、今度の「スペシャルオリンピックス2026東京」で、大会ボランティアとして参加するのが初めてになります。
森:BAとしては、過去のナショナルゲームでも、2022年の広島大会や2024年の長野・北海道大会にも社員が大会ボランティアとして参加させていただいています。2026年の東京大会でも、延べ20人弱の社員が参加する予定です。
三上氏:そうなんですね。それはありがたいです。発信だけでなく、大会にも実際に関わっていただけるのは私たちもうれしいですね。
最後に、この記事を読んでくださった方へメッセージをお願いします。(佐藤)
仲江氏:大会に出るアスリート全員を、ぜひ応援してください。そして、私たちが進んでいく未来をぜひ見届けてください。
三上氏:アンバサダーとして、これからもいろいろな場所でスペシャルオリンピックスやアスリートのことを発信していきたいと思っています。もし何かに行き詰まっていたり、毎日の生活に少し物足りなさを感じていたりしたら、ぜひスペシャルオリンピックスの活動に参加してみてください。きっと新しい世界が開けると思います。
猪熊氏:この記事を読んで興味を持ってくださった方は、ぜひ「スペシャルオリンピックス2026東京」の会場に来てください。そして、SONのサイトも見ていただき、できれば日頃からおこなっているスポーツプログラムにも参加していただけたらうれしいです。お待ちしています。

まとめ:「正しく伝える」ことの答えを探し続ける
スペシャルオリンピックスの存在を多くの人に知ってもらうため、アスリートとして競技に向き合うだけでなく、自らの言葉で発信を続けているアスリートアンバサダーたち。後編では、「伝える」だけでなく「伝わる」とはどういうことかを、BAとの対話やワークショップを通じて掘り下げました。
言葉の選び方を工夫すること。情報の順番や見せ方を考えること。相手に合わせて伝え方を変えること。ネガティブではなく、できるだけ前向きな形で伝えること。今回の対話では、相手に届く発信のためのヒントがいくつも見えてきました。一方で、「正しく伝える」ことに一つの正解があるわけではなく、相手や場面に応じて考え続ける必要があることも、あらためて共有されました。
ワークショップで情報設計を体験し、「SO“ジャーニーMap”」に込めた工夫をたどっていく中で見えてきたのは、情報を届けることが、誰かの理解や行動のきっかけにもなり得るということです。発信を続けることは、単に情報を広めることではなく、人と人との理解やつながりを少しずつ広げていくことでもあるのでしょう。今回の対談を通して見えてきた「伝えること」の奥深さと難しさ。その答えを探し続けることもまた、一つの「ジャーニー」なのかもしれません。
- 前編
- 後編(本記事)
- 思いを届けるために。アスリートアンバサダーが歩む未来へのジャーニー





